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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~あの子が残した唯一の希望編~
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桃の領土、恥

 マージジルマの家の前に到着したエレメントは、その外観を見て微笑んだ。


「こじんまりとした可愛らしいお家ですのね。使用人は何人くらいいらして?」

「居る訳ないだろ。使用人なんかいたら金がかかって仕方ないだろうが」

「なら家事は」

「弟子と分担してやってる」

「まぁ、ご自分でやってらっしゃるなんて立派ですわぁ。使用人のような弟子もいるなんて、便利ですわねぇ」


ピーリカが聞いていたら「誰が使用人ですか!」と怒っていただろう。幸いなことに、ピーリカはまだ雲の上にいた。


「中もご覧になってよろしくて?」

「もう好きにしろよ。俺の部屋は汚いからな」


エレメントが家の中へ入った所で、ようやくピーリカ達も追いついた。


「流石に家の中じゃ狭くて隠れられないかもしれません。仕方ない、ラミパスちゃん。スパイをお願いします」


ピーリカは家のドアをそっと開ける。頷いたラミパスは家の中へ入った。そっとドアを閉めたピーリカは、ウラナと共に畑横に生えた木の裏に隠れる。ウラナに花を出させ、声だけを盗み聞き。

家の中に入ったラミパスはリビングまで飛んで行き、マージジルマの肩に止まった。ラミパス(テクマ)はスパイごっこを楽しんでいる。

ラミパスがやって来た事に気づいたエレメントは、すぐさまマージジルマに近づく。


「まぁ、白いフクロウ。マージジルマ様が飼っていらっしゃるの?」

「預かってるだけだ」

「可愛らしいですわぁ。バルス公国ではあまり見ない動物ですの」


エレメントはラミパスをジッと見つめながら撫でた。だがエレメントの目は一切笑っていない。その瞳に恐怖を感じたラミパスは、翼を広げ羽ばたいた。嘴と爪を器用に使って玄関のドアを開け、ピーリカの元へ逃げる。

スパイになったものの、ピーリカ達の前では普通に喋れないラミパスはただ「ホー」と鳴く事しか出来ない。エレメントの目を見ていないピーリカだが、きっと何か怖い思いをしたのだろうと優しくラミパスを抱きしめた。


「おぉ、可哀そうなラミパスちゃん。よく頑張ってくれました。後でいっぱいご飯あげますね」


ラミパスの白い羽には、エレメントのつけている金色のキラキラが付着していた。ピーリカは手で優しく払い落とそうとしたが、今度はピーリカの手にキラキラがついてしまって取れない。


「ピーリカ嬢、こちらを」

「おぉ、気が利きますね。偉いですよ」


ピーリカはウラナが手渡したタオル生地のハンカチで手を拭く。それでも完全にはぬぐい切れず、ピーリカは「むー」と声を漏らした。


「うちになんて何もないからな。街の方に行かないか?」

「えぇ、街の方も興味ありますわ」


花から師匠と見合い相手の声が聞こえ、ピーリカはキラキラになったハンカチをすぐさまウラナに返し。家から出てきたマージジルマ達を、絨毯に乗って追いかけて行く。



 街にやって来たお見合い一行。マージジルマの隣に見慣れない女がいるのを見て、街を歩いていた黒の民族はざわついている。


「ヤバい、マージジルマ様は何だかんだ言って弟子に落ち着くに賭けてたのに!」

 

モブの呟きが聞こえていたマージジルマはものすごい剣幕で怒った。


「賭けるな!」


シャバとイザティが黒の民族達を静め、その間にマージジルマが街並みを見せて歩く。

遅れてやってきたピーリカに、モブの一人がこっそりとが話しかけた。


「ピーリカ嬢、マージジルマ様お見合い中らしいじゃん。もうちょっと頑張ってよ。賭けた金無駄になるじゃん」

「賭けるな! 大丈夫ですもん。今妨害中ですし」

「心配だなぁ」


絨毯を降りたピーリカは照れながら、小さな声で言う。


「大丈夫ですもん。ここだけの話、クソボルト様曰く師匠は将来、その、弟子と、け、結婚する気があったらしいので。あの女が余程出しゃばらなければ、もしかしたら、うん、ですよ」

「流石ピーリカ嬢、ファイアボルト様の事をクソボルトと言うか。まぁ賭け的にはそうなってくれれば良いんだけどさ。でも分かんないよ、あのお見合い相手巨乳じゃん」

「そ、そうですけど」


先ほど風の攻撃をされたせいもあってか、ほんのちょっぴり不安になったピーリカ。そんな彼女の肩を、ウラナがポンと叩く。


「大丈夫ですよ。ピーリカ嬢。貴女はとっても愛らしい方ですから、負けないよう頑張りましょう」

「そうですよね。聞きましたか愚民、ウラナ君を見習ってもっとわたしを称えなさい!」


そう言いながらウラナと共に歩いて行くピーリカの姿を見て、モブは青い顔になった。


「どうしよう。ピーリカ嬢は何だかんだ言って諦めない、に賭けてたのに! 何だあのムカつく程の美少年!」


ピーリカ程名の知られていないウラナは、謎の美少年として人の恋路で賭けをする黒の民族達から恐れられた。

ウラナはマージジルマを追いかけながら、ピーリカに問う。


「ところでピーリカ嬢、先ほどのお話を詳しくお聞きしたいのですが。ファイアボルト様が何だとおっしゃってたのですか?」

「ん、それは、その、弟子をね、お嫁さんにって、師匠が昔ね」


照れるので何度も言わせないで欲しいと思ったピーリカは、恥ずかしがっている顔を見られるのが嫌で。走ってマージジルマを追いかけた。しかしバサッという音が聞こえ、立ち止まって振り返る。ウラナはまた薄い本を拾い上げていた。


「動揺し過ぎてまた落としちゃったじゃないですか」

「わ、わたしのせいじゃないですもん」

「お詫びにそういう話もっと下さい」

「お詫びになるのか分かりませんが、まぁお話くらいなら」


マージジルマを追いかけながら、ピーリカは惚気のような話をウラナにする。それも動揺になったのか、ウラナは度々本を落とした。


 黒の領土の端まで来たマージジルマは、エレメントを引き留める。


「桃の領土は行かなくても良いだろ」

「いやですわ。この国の全てを見たいのです!」

「あそこは国の恥なんだよ」

「まぁ、なら尚更見させて下さいまし。もしかしたらこの国に嫁に来るかもしれませんもの。恥ずかしい部分も全て見させていただきたいですわ」

「……何されても文句言うなよ」

「文句なんてとんでもない」


マージジルマは渋々桃の領土に入った。シャバとイザティも不安そうな顔をしている。


 彼らの予想通り、エレメントは顔を引きつらせた。


「何ですの、この街は!」

「言いたくない」


大半の通行人が水着、半裸、裸体。ピーリカ達は自分達が襲われないように上空から様子を伺っている。


「あっ! 皆いるわ! 皆ーっ、私お仕事終わったの。まーぜてー」


マージジルマ達の前へ、両手を大きく振っているピピルピがやって来た。いつも通りビキニを着ているピピルピは、大きな胸を揺らしながら走って来る。


「お話は聞いてたのよ。貴女がマー君のお見合い相手ね、私はピピルピ・ルピル。貴女の恋人!」


ピピルピはエレメントに抱きつき、揉んだ。どこを揉んだのかは割愛しよう。


「は、破廉恥なーーっ!」

「だから言ったじゃねぇか」


シャバとイザティは二人してピピルピに抱きつく。抑えつける係として抱きついた二人だったが、ピピルピは「どっちかなんて私には選べない!」なんて喜びの声を上げていた。

マージジルマはその隙にエレメントと仲人を連れて、逃げるように桃の領土から出て行った。

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