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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~あの子が残した唯一の希望編~
197/251

師匠、比較する

料理を下げさせたエレメントだが、これっぽっちも悪いと思っていないようだ。

 

「それよりマージジルマ様、せっかくカタブラ国に来れたので案内して下さらない?」

「それなら俺より外交担当の方が説明うまいですよ」

「そんな事おっしゃらずに。わたくしマージジルマ様のお好きな場所に行ってみたいですわ」

「俺が好きなのは金のかからない所ですねぇ」


エレメントの眉がピクリと動く。マージジルマは気にせずに自分の分として出された料理を平らげた。

 

「失礼。マージジルマ、ちょっと」


相手がイラついた気配を察したシャバは、マージジルマを連れて部屋から出た。

覗いていたピーリカとウラナは、慌てて逃げる。マージジルマとシャバが廊下に立った時には、部屋から遠く離れた曲がり角に隠れる事が出来た。

だがシャバも魔法使い代表だ。姿こそ見ていないがピーリカ達の魔力を察知し、マージジルマに問う。


「ピーリカとウラナは何してんの?」

「ピーリカは見合いの邪魔しに来てる。ウラナは分からん」

「お前ピーリカにも妨害させてんのか」

「違う。アイツが進んでやってるんだよ」


シャバはため息を吐いて、部屋から出した意味を説明する。


「やる気ないのは分かってる。でももうちょい真面目にやって。いいじゃん巨乳で」

「つっても、見合いの金ってお前らが出してるんだろ?」

「違うよ。あっちだよ。バルス公国が金は全面負担するから見合いさせろって言ってんだよ。怪しいけど断るのも厄介そうだから引き受けてるだけ。この後うちの国を案内するなんて話は事前に出てなかったから、それはこっち持ちになりそうだけど」

「じゃあ尚更」

「何が」


マージジルマは青い顔をしながら手で口元を抑えた。


「金出したもん平気で残して食わない女とか信じらんねぇ……人の作ったもん一口も食わずに下げさせるのもどうかと思う」

「……あ、一応前向きに見てたのな?」

「前向きにというか、比較対象としてな」

「比較って……もしかして、あの人と?」

「……まぁ、な」


二人が思い浮かべているのは、マージジルマの初恋相手のあの人だ。

シャバはその相手がピーリカだったという事は未だ知らずにいるが、マージジルマが長年同じ人を好きでいたのは知っていた。

 

「なるほど。でも今はお見合い相手様に目を向けて。あんまり比べちゃうのも可哀そうだし、寛大にな。あの人にはあの人の良さがあるかもしれないじゃん。乳とか」

「お前から見て乳以外で良いとこって何かあった?」

「んにゃ、マージジルマと同意見って所かな。金は関係ないにしろ、あの料理作るのにイザティどんだけ早起きしたと思ってるんだ。今のところマイナス」

「じゃあ俺のやる気が起きない気持ち分かるだろ」

「でももう少し見てみてよ。そうだ、じゃあこうしよう。これで観光してきていいよ」


シャバはマージジルマの肩を組みながら、そっと三枚の紙幣を手渡す。マージジルマの目つきが変わった。

 

「……ちょっとだけだかんな?」


マージジルマは金に汚かった。




 マージジルマ達が部屋に戻り、ピーリカ達も曲がり角から顔を出した。


「師匠今何話してたんですかね。ウラナ君に盗聴の花ださせれば良かったです」

「ピーリカ嬢の方がかわいらしいという話じゃないですかね」

「わたしもそう思います」


その場にツッコミ役は誰もいなかった。

ピーリカとウラナは再び隙間から部屋の中を覗き見た。

マージジルマはネクタイを緩めている。

 

「客人だからって敬語にしてたけど、もうめんどくせえから普通に喋るけどいいよな」

「親しみを持ってくれているという事ですか? エレメント、嬉しい」

「あっそ。んで観光したいってどこが良いんだよ。観光って言っても、カタブラ国じゃこの青の領土が一番の観光地だ。海でも見に行くか?」

「海はバルス公国でも一応見られるから、他の所がいいですわ。潮風で髪が痛むのも嫌ですし」

「別の所なぁ……おいシャバ、お前の所でやってる祭りって何かあるか? あの雑巾祭りって今やってねぇの?」


シャバはマージジルマに「やってたとしてもそこだけは行かせないかんな!」と怒った後、エレメントに向けての説明をする。


「今赤の領土では、黄の領土と一緒になって製造業を称える祭りをやってるおります。赤と黄は国内での製造業地帯ですので。その分、販売業にも力を入れているので祭りとしてはとても派手なものかと」

「まぁ。バルス公国にもピッタリのお祭りですわね。ではそこに行きましょ。その前にお化粧直しをさせて下さらない?」


そう希望するエレメントだが、まだ化粧は崩れていないように見える。

ピーリカのオシャレすら必要ないと思っているマージジルマには、無駄な時間に思えた。


「必要あるのか?」

「ありますとも。女は綺麗に着飾る事でより美しくなるのですわ」


エレメントはスッと立ち上がり、部屋を出て行こうとした。

ピーリカとウラナは、再び廊下の曲がり角に隠れた。ピーリカは隠れながらも、ほんのちょびっとだけエレメントに同意する。


「むむむ。あの女、分かってるじゃないですか。確かにオシャレは大事です」

「そうですか」


そう返したウラナの喋り方と表情は、実に興味がなさそうだった。

ウラナ君も師匠と同じでオシャレに興味がないのか? なんて思いながら、ピーリカは手櫛で前髪を直した。本当は自分も化粧品を使いたかったが、生憎今は何も持っていない。せめてリップくらい持っておくんだったと後悔しながら、負け惜しみを口にする。


「でも師匠はお化粧しない子だって好きなんですよ。お金と時間の無駄だからって。つまりオシャレしてないわたしの事だって好いてくれるかもしれないという事です」

「そうなんですか!?」


同じオシャレの話であるというのに、先ほどとは違ってウラナは嬉々としていた。あからさまに態度が違う事に、ピーリカはある違和感を覚えた。


「……ウラナ君、師匠の話をすると元気になるですね?」

「それはまぁ、僕が好きなのマージジルマ様の話をするピーリカ嬢ですからね」


ピーリカは眉を顰めた。

それはつまり、彼はマージジルマの話を聞くのが好きなのでは? と。


「ウラナ君、実はわたしのライバルでした?」


そういえばミューゼは、マージジルマ様の事も好きだと言っていたような気がする。

ピーリカに疑いの目を向けられたウラナだが、勢いよく首を横に振る。

 

「とんでもない! だってマージジルマ様って卵の殻と同等の存在じゃないですか、惚れるのなんてピーリカ嬢くらいですよ!」

「そこまでいう事ないじゃないですか!」

「あぁ、心配しているピーリカ嬢も素敵です。とにかく、僕がマージジルマ様にというのは誤解なのでご安心下さい」

 

疑いはしたが、確信もない。ひとまずはウラナを信じてみる事にするピーリカ。

 

「まぁわたしは師匠の事など気にせずオシャレするんですけどね。わたしがわたしを好きでいるためです」

「はぁ、そうですか」


ウラナの顔から笑みが消え、冷めた目になった。やはりピーリカ自身には興味がなさそうに見えた。

 

「やっぱりウラナ君、わたしのライバルでは!?」

「違いますってば!」


ピーリカがウラナを疑っている間に、化粧を直し終えたエレメントが戻って来る。二人は途端に黙って、エレメントの様子を伺った。

相変わらず濃い目の化粧だ。化粧品なのか、体や顔に金色の粉を付着させてキラキラと輝かせていた。大量につけているせいか、よく見れば廊下にもその粉が零れ落ちている。


「お待たせしましたぁ」


部屋の中に入って行ったエレメントを、ピーリカは鼻で笑った。


「キラキラして綺麗ですけど、ちょっとつけすぎですよね。あんなに厚化粧しないといけないなんて可哀そうに。わたしだったらちょっとのキラキラでかわいくなりますよ」

「流石はピーリカ嬢。自分に一番の自信をもっていらっしゃる」


 付き添いのシャバとイザティも含め、お見合い団体は外に出て行った。当然ピーリカとウラナも追いかけて外へ出て行く。

急遽用意させた馬車は、以前ピーリカもマージジルマと乗った事のあるものだった。

お見合い中の二人は当然のように一緒に乗せられる。窓からはエレメントがマージジルマに抱きついて座る姿が見えた。

ピーリカは先ほど鼻で笑った女に師匠を取られたようで、とても悔しがっていた。


「きぃ! あの女、師匠にべったりしてやがるです!」

「あれは完全にマージジルマ様の事を狙ってますね」

「師匠も師匠です。何故振り払わないんでしょう。わたしの方がかわいい弟子なのに。やっぱりおっぱいですかね。ウラナ君、男はそんなにおっぱいが大事なんですか」

「僕は大小問わないと言いますか、別にどうでもいいと思っているので。二人の間に愛さえあればオーケーですよね」


ウラナの答えは、再びピーリカを不安にさせる。


「ウラナ君、師匠がというより男が好きなんですか?」

「どうでしょうね。一人を好きになった事ないので分かりません」


ピピルピのように不特定多数の者が好きという事だろうか、とピーリカは納得した。

男が好きだろうが女が好きだろうが、師匠を取られないようにしないとと警戒は続ける。


「とにかく、あんなおっぱいだけの女に師匠を渡す訳にはいきません。追いかけますよ。ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ」


魔法陣を輝かせたピーリカは、誰のものだか分からないほうきを召喚する。

それを見たウラナは何故か眉を曲げた。

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