表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~親子喧嘩と師匠の師匠編~
178/251

弟子、宝を名乗る

 逃がした? わたしが? そんなまさか。

理解が出来ないでいる彼女の耳に、牢屋の中から漏れ出したさまざまな声が聞こえた。


「何ここ牢屋!? 何でこんな所に!」

「おやおや、どうしたもんかねぇ」

「ままぁー」


今まで入っていた罪人と入れ替わるようにして牢屋に入っていたのは、青年に老人、幼い子供。自身の父親はともかく、他の者達は犯罪を犯せるようにはとても見えなかった。

もしかして本当に、自分がやらかしてしまったのだろうか。ようやくピーリカの額に汗が浮かぶ。


ゴンっ。


後ろから鈍い音が聞こえ、ピーリカは振り返った。そこには膨らみのある白い袋を落とした師匠の姿があった。マージジルマは険しい表情で、子供が入れられている牢屋を見つめている。その後ろに立つファイアボルトも、青い顔をして牢屋を見ていた。


「マージジルマ様、ピーリカ嬢がやりました! ぼくじゃないです!」


おかっぱ頭はマージジルマの足元に跪き、すぐにピーリカの行動をチクった。


「違うんですよ、悪いのアイツらです。わたしのせいじゃないです」


そう言いながら師匠の前に立つピーリカだが、どこか居心地が悪そうな顔をしている。彼女の心情を察してか、マージジルマは右手を握りしめて。

ごちん。

ピーリカの頭を殴った。目の前に彼女の父親がいようと関係ない。その父親が「ただでさえバカなピーリカがもっとバカになったらどうする!」と騒いでいるが今は完全無視。ピーリカは頭を押さえ涙目になっていたが、文句は言わない。なお父親の声は彼女にも全く届いていない。


「そうだな、騙した奴が一番悪い。でも騙されたお前にも問題はあった。悔しかったら結果で返せ」


ピーリカは本当に自分が悪くないと思っていれば、マージジルマを殴り返していただろう。だが彼女がとった行動は、軽く下唇を噛んで勢いよく外へと飛び出す事のみであった。


「待てクズ共! よくもだましたですね!」


マージジルマは落とした袋を拾い、おかっぱ頭に押し付ける。袋の中にはコーヒーの入った缶三本とオレンジジュースの入った缶一本が入っていた。


「俺もジジイ連れて行ってくるから。おかっぱ頭は連れ戻した奴らの見張りをしろ。ピーリカに入れられた奴、特にこのうるさいのは早く追い出せ」


このうるさいのと呼ばれているパメルクは、ピーリカがいなくなった事を良い事にマージジルマへ罵詈雑言を聞かせていた。

マージジルマはおかっぱ頭に「やっぱり似合うからしばらく入れておいてもいい」と伝え外へ出て行く。パメルクは最初から最後まで無視されていた。



 外に飛び出したピーリカは、街中へと向かう。国民を守るのがわたしの役目だと考えているからだ。


「何するのよ、離して!」


そんな声が聞こえて、ピーリカは直ちに声の主を探した。

声を便りに、人気の無い路地裏にたどり着き。若い女が罪人に腕を掴まれている光景を目にした。


「女の子に乱暴する男は破裂しろです! ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ!」


両手を前に構えて、呪文を唱える。するとどこからか飛んできた植木鉢が、罪人の後頭部に直撃。罪人はその場に倒れ、ピクリとも動かない。自分でやったとはいえ、流石に心配になったピーリカ。


「死んじゃったですかな?」


ピーリカに助けられた女は首を左右に振る。


「正当防衛になるわよ。ありがとピーリカ嬢。ところでこの服着てるって事は、コイツ罪人でしょ? なんでここにいるの?」

「それは秘密です」


ピーリカは口元に指を当て「シー」という。

そんな彼女達の目の前に転がっている、植木鉢の中に咲いていた小さな白い花から、ある人物の声が聞こえて来た。


『黒の魔法使い代表、マージジルマ・ジドラだ。全国民に告ぐ。ピーリカがやらかした。今犯罪者が脱走してるから逃げるか隠れるかしろ。捕まえた奴には褒美をくれてやる。捕まえる手段はいとわないが殺さない程度にはしてくれ。以上』

「謝って損した」


花から聞こえて来たマージジルマの声を耳にした女は、ピーリカの事を冷ややかな目で見つめる。

ピーリカは苦い顔をして花を見つめた。この魔法は国全体の植物にかけられいる。つまり師匠の発言ーーピーリカがやらかしたという事が国民全員に知れ渡ってしまったという事だ。


「わたしの事は言わなくても良かったんじゃないですかね」

『追伸。ピーリカ、うるさい』


聞かれているのだろうかと花の裏を覗き見るピーリカだが、マージジルマは弟子の言動を予想して口にしただけなので彼女の行動は無意味である。

女はピーリカに背を向ける。身の安全を守るため、家に帰ろうとしているようだ。


「あんなのがウロウロしてるなんて怖すぎ。どうにかするか土下座して周るかしてよピーリカ嬢」

「ちゃ、ちゃんとどうにかしてやるです。他の罪人がいるのを見つけたら、わたしに知らせなさい!」


ピーリカは倒した罪人を魔法で引きずり、牢屋の前へと連れ戻す。おかっぱ頭に引き渡し、再び別の罪人を探しに行く。罪人は目立つ服のおかげですぐに見つける事が出来た。あちこち走り回って、次々と罪人を見つけ攻撃を重ねる。マージジルマとファイアボルトもそれぞれ別の場所で罪人を見つけ、牢屋にぶち込んでいく。

褒美に釣られた一般人もいたおかげで、ピーリカが捕まえなくとも牢屋に連れ戻された罪人もいた。

牢屋の前に立つおかっぱ頭は、罪人を数えていく。

ちなみに、ピーリカの父親を含め罪人の代わりに入れられていた者達は皆無事に帰されていた。パメルクは解放されたと同時に愛娘を殴ったマージジルマを殴りに行こうとしていたが、マージジルマの伝達を聞いて先回りしていた妻によって行く事が出来なかったという。

罪人を数え終えたおかっぱ頭はピーリカに顔を向けた。


「あと一人、髭の生えた罪人がいたでしょ。残りはソイツだけだよ!」


最後の一人は自分が見つけようと、ピーリカは張り切って外へ飛び出す。

もう街の方は十分探したと判断したピーリカは、今度は森の方へ向かった。


「見つけたぁっ! 待てですクソ野郎!」


捜索からわりと早くに、山へ登ろうとしている罪人を見つけた。 

男はピーリカの方をちらりと見たが、すぐに背を向け山を登り始めた。

その山の上にあるのは、自分と師匠が住む家だけだ。つまり男の狙いは我が家のみ。そう気づいたピーリカは誰のものだか分からない箒を召喚し飛び乗る。


「待ちなさい! あの家にある一番のお宝はわたしなんですよ、今行った所で何もありません!」


男はピーリカの話に耳を傾けず、ただ山を駆けあがっていく。


「わたしがいないって言っているのになぜあんなに行くんですかね。家には誰もいないし……も、もしかしてラミパスちゃんを狙っているのですか!?」


自分が宝だと信じて疑わないピーリカは、自分以外の宝の可能性を考え口にした。


「ラミパスちゃんは確かにかわいいフクロウですけど、泥棒したら許しませんよ!」 


一人騒ぐピーリカをうっとおしく思ったのか、男はようやく振り向いた。


「何だラミパスちゃんって、俺は、俺は、ただ一目嫁の姿を見たいだけだ!」


ピーリカは眉をひそめた。あの家に住むマージジルマに嫁などいない。いるわけない。いさせない。

だがその時、ふとファイアボルトの言葉を思い出した。


『弟子になる女と結婚するのに、俺がいると邪魔とまで言った』


……師匠に嫁がいるとしたら、それはわたしの事なのでは?

図々しい発想を思い浮かべたピーリカは、改めて男を睨みつけた。


「やっぱりわたしを狙ってやがるですか! いいでしょう、売られた喧嘩は全部買います。でもそれなら何でうちに行くんですか、ここで喧嘩してやるです!」

「お前なんか狙ってない!」


男は再び前を向いて走りだした。止まらないという事は、やはりラミパスが狙いか。大事なラミパスを罪人に渡す訳にはいかない。そう判断したピーリカは躊躇う心を持ちながらも、箒から飛び降り両手を構えた。


「ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ!」

「うぐっ!」


ずぶっ。

男の右足に、一本の大きな釘が刺さる。白と黒の服に、血が滲んだ。


「てめぇっ!」


男は釘を抜き、その先端をピーリカに向かって振りかざす。以前ピーリカはマハリクの気を引こうと自身に木の枝を刺そうとした事があるが、そんなものとは比べ物にならない。あの時ですら怪我をするかもと反省したくらいなのに、釘なんかで刺したら。ちょっとやそっとの怪我では済まない。

このかわいい顔を守らなくては、そう思ったピーリカは咄嗟に腕で顔面を隠す。


「にしてんだよっ!」


よく知る声が聞こえて、ピーリカは腕と腕の間の景色を見つめる。そこには足の先で男の持つ釘を蹴とばし、地面に落とすマージジルマの姿があった。


「し、師匠! ソイツはわた、し、し、師匠に嫁がいるとか訳の分からない事を言ってるんですよ! 嫁を見に行くとかいってうちに侵入しようとしている愚か者!」


自分を嫁と認める勇気はない。

男はマージジルマの顔を見るなり、泣きそうな顔になって。その場に土下座し、かすれた声で喋り始めた。


「マージジルマ、許してくれだとか、そう思ってる訳じゃない。それでも、ただ母さんに、一度でもいいから、謝らせてくれ!」


母さん、そう聞いたピーリカは腕を降ろし考え直した。

もしかして嫁ってこの男の嫁か? もしかしてこの男、自分の家を間違えているのでは? と。

だが現実は彼女が想像しているようなものではなかった。

マージジルマはその場にしゃがみ込んで、組んだ腕の中に顔を納めて呟いた。


「とっくの昔に死んだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ