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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~親子喧嘩と師匠の師匠編~
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弟子、ゴミを降らす

 自分が選ばれて当然といった様子のピーリカは、偉そうに胸を張る。


「まぁそうでしょうね。わたしがこんなのに負ける訳ないのです。師匠の弟子はわたしだけなんです。師匠は光栄に思え下さいですよ」

「バカ言ってんじゃねぇよ。おいおかっぱ、ピーリカの事は気にしなくていいから早くやれ」


おかっぱ頭は頷き、とっとと話を進める。こんなの呼ばわりしてくる小娘の事など眼中にない。


「それでは、開門しまーす。ルルルロレーラ・ラ・リルーラ」


緑の呪文を唱えたおかっぱ頭の足元に、小さな芽が生えた。芽はみるみるうちに成長し、やがて巨大な鍵の形をした蔓に姿を変える。地面と繋がった鍵を鉄の扉についた南京錠の穴に差し込んだおかっぱ頭は、両腕を使って鍵を回す。

ぎぃい、と鈍い音を響かせながら開いた扉。その奥へと繋がった通路の左右には、壁ではなく鉄格子で区切られた部屋が並んでいた。

鉄格子の向こう側には、白と黒のボーダー模様をしたツナギの服を着た者達がいる。


「変なお揃いですね」

「囚人服だ」


マージジルマは先頭に立って通路の中央を歩き始めた。その後をピーリカが続き、ファイアボルトとおかっぱ頭が追う。


「囚人、つまりコイツら全員悪者って事ですね?」

「あぁ。ほら、ここにこのクソ野郎がいつどこで何悪い事したかが書かれている。これを見てどうするか判断するんだよ」


そう言ってマージジルマは檻の端を指差す。よく見ると鉄格子の端には正方形の小さな板に文字が書かれ括り付けられていた。まるで動物園のようだ、そう感じたピーリカ。

囚人の一人が鉄格子を掴み前後に揺らす。その光景を見て、ピーリカは暴れている猿を連想した。


「出せー、だせよコノヤロー」


マージジルマは猿を指さしながら弟子に説明する。


「こういう態度をとるやつはまだださなくて良い。反省してないみたいだからな」

「分かりました。どれどれ、コイツは何やらかしたんですかね。えーと金品強奪及び暴行罪……」


板に書かれた文字を読み上げたピーリカだが、なにやら腑に落ちない思いがあるようで。マージジルマに顔と疑問を向けた。


「つまり、やってる事師匠と同じじゃないですか。なんでコイツだけ掴まってるんですか?」

「失礼な奴だな。俺は悪い奴を殴って金貰ってるだけだろ。コイツは初対面の善人を殴ったんだ」

「善人って、わたしのような者の事ですよね」

「めんどくせぇからそれでいい」

「なるほど、なら無礼者ですね」


マージジルマはツッコミを放棄した。囚人が悪者である事さえ伝われば他は彼女がどう思っていようと構わなかった。「それから」と言いながら猿の檻に隣接した、別の檻の中にいる男を指さす。


「これは詐欺罪、嘘つきだ」

「愚か者ですね」


マージジルマはさらにその隣に入っている女を指さす。


「これも嘘つき」

「愚か者め」


彼は続けて別の奴を指さす。


「これも嘘つき」

「嘘つきばっかじゃないですか!」


同じ罪状の者が続いたせいで、マージジルマがふざけているのではないかとピーリカは疑った。だがマージジルマは真剣な表情で、大真面目に答えた。


「正直者な犯罪者の方がヤバい奴だろ。そうだ、試しにピーリカも拷問してみるか。この嘘つきに好きなだけ拷問しろ」

「おぉ、いいでしょう。では早速。ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ」


師匠と同じ仕事が出来る事に喜んでいるピーリカは気前よく両手を構えた。檻内の天井に現れた魔法陣の中から、大量のゴミが降って来る。生ごみ金属、プラスチック。普通の人間であれば当然嫌がるだろう。

だが囚人たちに嫌がってる様子はない。喜んでいる様子もないが、ただただ死んだ顔をしていた。


「もう少し抵抗したらどうですか。それともゴミに埋もれる方が好きなのですか?」


不機嫌な顔をしながら手を降ろすピーリカの横で、マージジルマは首を左右に振る。


「違うな。そいつは慣れてるからだと思う」

「慣れてる? ゴミに埋もれる事が?」

「だって俺いつもそいつらの口の中にゴミ突っ込んでるし」

「それじゃあ埋もれるくらいどうってことないですね」


そんな極悪非道な魔法を躊躇いもなくかけられるなんて、やはり師匠にはまだまだ追いつかないな、とピーリカはひっそり感じていた。


「次、これは泥棒だが……」


次にマージジルマが指した囚人を見て、ピーリカは驚いた。檻の中の囚人は、マージジルマに向けて土下座をしている。


「マージジルマ様、すみませんでした」


今にも泣きそうな声で、囚人はそう呟いた。

マージジルマは口元に手を添え、少し考えたような仕草をする。


「十分反省したみたいだからな。これは出してやろう。おかっぱ」


はいはい、と言いながらピーリカの前に出たおかっぱ頭は鉄格子についていた小さな鍵を開ける。


「出てすぐに悪い事したら強制的にここに戻って来る呪いをかけてある。悪い事すんなよ」

「はい、すみませんでした」


牢屋から出された男はおかっぱに連れられ、洞窟の外へと向かって静々と歩いて行った。

空になった檻の前で、師匠は弟子に教えてきたことをまとめた。


「今みたいに、改心した奴は外に出す。それ以外は閉じ込めておく。それが大掃除の大まかな流れだ」

「普通の掃除はしなくていいんですか」

「普通の掃除は各自に任せてある。ただ家をゴミ屋敷にして近隣住民に迷惑をかけたって理由で捕まえた奴がいるから、そいつの所だけは手伝いくらい入った方が良いかもな。檻の外まで散らかされたら厄介だし。よし、ちゃっちゃといくぞ」

「分かりました、任せなさい」


それから師弟は真っ直ぐ進んでいき、50人近い囚人を分別、掃除する。通路の前にコンクリートの壁が現れた所で、ようやく足を止めた。一通だったようだ、行き止まりになっている。


「これで終わりですか?」

「……あぁ、罪が軽い奴らはな。全体で言えば、まだ半分だ」

「そんなに。全く、悪い奴らが多いというのは悲しいものですね。少しはお利口さんのわたしを見習えですよ」


まだ半分なのか、そう思うとピーリカは思わずため息を吐いてしまう。ピーリカのため息につられて、マージジルマもため息を吐いた。


「そうだな。もう帰りたいな」


そう言ったマージジルマの右肩を、今まで黙ってついてきていたファイアボルトがポンと叩いた。


「マージジルマ、そんなに疲れているなら休憩に外の空気でも吸って来たらどうだ。俺がやっておくから」

「大きなお世話だ。愚痴こそ吐いても本気で帰る訳じゃない。今は俺が代表だ、俺が責任持って最後までやってやる」

「だがそろそろピーリカも疲れたんじゃないか?」

「なんだピーリカ、疲れたのか? お前ならまだ出来るだろ」


期待されている、そう思ったピーリカは大きく頷いた。


「えぇ。わたしは天才なのでまだやれます」

「ほら、ピーリカもこう言ってる。これは遠慮して言ってるんじゃない、コイツは本当に疲れてたら疲れたと言ってくる図々しくも嘘をつかない奴だ」


マージジルマの答えに、ファイアボルトは何かを諦めた様子だった。


「そうか……分かった。もう止めない。続けろ」

「あぁ。ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ」


マージジルマは黒の呪文を唱え、壁に魔法陣を描いた。壁に穴が空き、さらに奥へ続く通路が現れる。ピーリカは不思議そうに壁の奥を覗き込む。


「本当にまだまだあるんですね」

「あぁ。ここから先は残念ながら、もう外には出せない奴らだ」

「反省してても出せないんですか?」

「反省するだけじゃ足りないくらい悪い事をした奴ら。よし……行くぞ」


戻って来たおかっぱ頭もつれて、四人はぞろぞろ奥へ進んで行った。

壁奥の檻周辺は、先ほどよりも鉄の匂いが酷く感じた。ピーリカは檻の中に入っていたある囚人を見た瞬間、思わず「ひぃっ」と声を漏らす。

体に釘を打たれ壁に貼り付いている囚人は、多くの血を流していた。


「師匠、あれとっても痛そうですよ」

「アイツはお前と同じ位の子供にあれと同じ事をしたんだよ。だから俺も同じ事をしたまでだ」

「師匠があれをしたという事は、もしかしてわたしもあれを……」


マージジルマはその場に膝を立てて座り、ピーリカに目線を合わせた。その表情は、少し寂しさを含んでいる。


「さっきはおかっぱ頭を弟子にするつもりがないとは言ったが、それはあくまでお前がいる限りだ。お前がこんな事出来ない、黒の代表になるの辞めるってんなら俺はおかっぱ頭を弟子にするぞ」

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