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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~チョコレート・クライシス編~
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弟子、師匠にあーんをしたい

 どんなに意気込んでもどうしようも出来ないので、黒の領土へと戻ってきたピーリカとシャバ。家の中に入るや、ピピルピが両手を広げて出迎える。


「シーちゃん、おかえりなさい。ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・し?」

「ただいま、人の家で選ぶのはダメだと思う」


ピピルピの言動を見たピーリカは、早速喧嘩を売る。


「痴女! 師匠には変な事してないですか!? してたら許さねーですよ!」

「ピーちゃんもおかえりなさい。してないわよ。我慢してたの。偉いでしょう。だからご褒美にピーちゃんのお尻触らせて?」

「当然の事をしているのに何故ご褒美をやらなきゃいけねーですか!」


騒いでいる二人の横で、シャバはピピルピの足元にいる火の子の前でしゃがみ込んだ。


「本当にピピルピ、マージジルマに手ぇ出してない?」


火の子は両手を上げた。


『手は出してませんが、頬ずりはしてましたぁ』

「そいつ喋るんですか!?」


驚くピーリカに対し、シャバと火の子はさも当然のように頷いた。

そんな中、ピピルピは首を左右に降って弁解する。


「手は出してないもの。ほっぺだけ。だからご褒美もらっても良いと思うの!」

「ふざけるなです、触るなと言ったはずですよ。罰を与えます。今日から貴様の名前はピラフです。意味はありません」

「まぁ、ピーちゃんだけが呼んでくれる愛称ね。嬉しい」

「喜ばれると罰にならないのでやっぱり痴女と呼ぶです」

「照れなくて良いのよ。ピラフって呼んで」

「呼びません!」


シャバは火の子を褒める。撫でる事は出来ないが、そっと手を近づけて撫でるふりをした。赤の魔法使いは熱さには強いが、平気で火に触れられる訳でもない。魔法を使えるという以外は、普通の男と同じだった。


「ありがとな」

『いつでもどうぞ』


パチンっ、と指を鳴らしたシャバ。火の子はスッと姿を消した。

ピピルピはピーリカに抱きつきながらシャバを見つめる。ピーリカが暴れていてもお構いなしだ。


「それで、ニャンニャンジャラシーは見つかったの?」

「ばーさん、ぎっくり腰。枯れてた」

「あら、どうしましょ」

「可能性があるとしたら、マージジルマが他国に売り飛ばしたっていう分を回収できれば。どちらにせよ今日はもう遅いし、出来るとしたら明日以降になるんだけど」

「うーん。マー君がどこに売り飛ばしたのか分かれば良いんだけど」

「どうだろなぁ。ところでマージジルマは?」

「さっき起きたわ。今お粥作ってあげたから、これから持ってってあーんして食べさせてあげるの」


ピピルピの言葉にすかさず反応したピーリカは、両手を上に広げる。


「待てです、貴様があーんするなんて許しません。わたしがやるです!」

「私もピーちゃんにあーんしてもらいたーい」

「貴様にはさっき黒マスクがやったでしょ! ところでそのお粥、変なもの入れてたりしないですか」

「お薬とか? 入れてないわよ。ただ、愛情をたっぷり」

「異物混入!」


怒ったピーリカはペチペチと彼女の腹を叩く。だがピピルピは喜んでいる。叩くたびに目の前で揺れるピピルピの胸を見る事も、ピーリカにとっては不快な気分になるだけで。ピーリカは叩く事をやめた。




「ほーらマージジルマ。お粥だぞー」


ピーリカがお粥の入った皿を運び、その後ろでシャバが水の入った風呂桶とタオルを運ぶ。さらにその後ろでピピルピがシャバの尻を触りながら歩く。勿論意味はない。ただ彼女の趣味だ。

マージジルマは上半身を起こしていたものの、体が重いのか猫背になっていた。

お粥をスプーンで掬い、マージジルマの前に差し出すピーリカ。


「はい師匠、口をあけやがれです」


あーん、とは恥ずかしくて言えなかったようだ。マージジルマも彼女からのあーんを断る。


「自分で食えるっての。そこまで弱ってねぇよ」

「やはりまだ具合が悪いみたいですね。自分を強いと思ってらっしゃる」

「少なくともお前よりは強いわ」


ピーリカからスプーンと皿を奪い取り、自分で口に入れるマージジルマ。ピーリカが頬を膨らませていても気にしない。

シャバは例の件を確認する。


「マージジルマ、ニャンニャンジャラシーどこに売り飛ばしたんだ?」

「オーロラウェーブ王国」

「うっわ海向こうの国じゃん……仕方ない、明日回収してくるか」

「平気だっての。寝てりゃ治るんだよ」

「無理だって。自分が一番分かってるんだろ、実は結構ヤバいって。それに今ばーさんぎっくり腰だし、バルス公国の奴が侵入してきたりしてるし。このままだとこっちも困るの」

「ババアは老いぼれだから仕方ないとして、バルス公国の奴まだうちの国狙ってんのか。しつこいな」

「ババアって呼ぶのやめろって。しかも多分ぎっくり腰の原因お前だし。バルス公国の方は追い返したけどさ」


マージジルマからスプーンを奪い返しながら、ピーリカはシャマクの事を思い出す。


「バルス公国の老人、師匠の事嫌ってたですよ」

「何だ、ピーリカも会ったのか。嫌ってるって言ったって、こっちは自分の国守るための事しかしてねぇっての」

「一体あの老人に何したんです?」

「ちょっと炙っただけだよ」

「嫌われて当然ですよ」


悪気のなさそうなマージジルマは皿に口をつけ、粥を飲んだ。

スプーンがなければあーんしてほしいと頼まれるだろうと思っていたピーリカは、悔しそうに師匠を見つめた。マージジルマは粥を全部飲み切ると、にんまり笑ってピーリカに皿を渡す。具合が悪くても意地悪をする師匠に対し、ピーリカは頬を膨らませた。それでも嫌いになれないのだから、初恋というものはどうかしている。


「とにかく、寝てればどうにかなるって。現に良くなってきてるし、もう少ししたら自分でどうにかできる」


そう言っているものの、マージジルマの顔色はあまり良くなかった。意地悪された事もあり、ピーリカは棘を仕込んだ言葉を返す。


「そんな事言って、別の病気になったらどうするですか。師匠はただでさえよわよわですからね。ばーさんみたいに腰痛めたり、白の魔法使いみたいに口内炎になったりするかもです」

「……白の魔法使い、口内炎?」

「そうですよ。そのせいで防御魔法かかってなくて、バルス公国の老人に攻撃されたです」

「口内炎……」

「はい」

「……口内炎?」

「なんでそんなに口内炎を連呼するんですか?」


ピピルピがシャバの尻からピーリカの尻へシフトチェンジしながらマージジルマに話しかける。ピーリカが叫んだが、そこはお構いなしだ。


「まだお熱で頭が働いてないのね。いっぱい食べて、いっぱい寝て。早く治して頂戴。そうすれば私ともたくさんイチャイチャ出来るわよ」

「しない」

「照れなくて良いのよ。そうだ、今夜も付きっ切りで看病してあげるわ」

「いらん」


師匠とイチャイチャしようとするピピルピに対し、ピーリカはシャバの背後に隠れたまま怒る。別にシャバを信用している訳ではない。ただ盾として考えているだけだ。


「そうです。貴様の看病なんていりません。この狭い家にはお客様用のお部屋もありませんし、師匠の世話はわたし一人で出来ますから。変態はとっとと帰れです!」

「じゃあピーちゃんと一緒に寝るわ」

「嫌です!」

「一緒にお布団入ってモゾモゾしましょう」

「何のために!?」


暴走中のピピルピを、シャバが止めに入る。


「こらピピルピ、そんな急に泊まったら迷惑だろ」

「じゃあ私シーちゃんの家にお泊りするわ。そこなら良いでしょ?」

「うーん、まぁそれは別に良いけど」

「わぁい」


シャバに抱きつくピピルピ。

その様子をピーリカはジッと見ていた。


「貴様らやっぱり恋人同士なのでは?」


ピピルピとシャバはほぼ同時に答えた。


「実はそうなの」

「違う違う。友達友達」


ピーリカは混乱した。

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