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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~親子喧嘩と師匠の師匠編~
169/251

弟子、期待し過ぎて眠れない

「ちょっと待ってて、今マージジルマくん呼ぶから。一緒に怒ってもらおう」


テクマの提案をマハリクが言葉で止める。


「待て、ワシが呼ぶからお主は行くな。心臓に悪い」

「あぁそうだね。確実に倒れ込むもんね」


テクマがマージジルマを呼ぶというのは、ラミパスの体へ意識を飛ばすという事。つまりテクマの体は抜け殻と化す。そうとは知らないエトワールは、黒の領土へ向かう途中に気絶するテクマをイメージした。その隣でピーリカはうつらうつら、船をこき始めた。

マハリクは先ほどテクマを呼び出した花を掴み、黒の領土にいるマージジルマへと話しかける。


「マージジルマ、今すぐ黄の領土に来な。お前の師匠はろくな奴じゃないよ」


マハリクはそう言って、花から手を離す。それと同時に、大きな魔法陣がファイアボルトの前に現れた。その中から飛び出したマージジルマが、ファイアボルトの頬を殴る。

あまりにも突然過ぎて避ける事の出来なかったファイアボルト、は殴られた右頬を撫でた。


「おいマージジルマ、何しやがる!」

「仕方ねぇだろ。こうしなきゃ今すぐになんか来られないっての。文句があるなら今すぐ来いっつったババアに言え」

「分かった。おいマハリク、何しやがる」


怒りの声を上げるファイアボルトだが、彼は未だに正座をしていた。

マハリクも負けじと怒る。


「ファイアボルトも反省を知らない奴だね! マージジルマ、周りを見てみな」


言われた通りマージジルマは周囲を見渡す。真っ先に見たのは、眠りに入ったピーリカだ。続けてピーリカを起こそうとしているエトワールに、どうすればいいか分からず泣いているイザティ。正座させられているファイアボルトを囲うようにして、パンプルとプリコ、マハリクまでいる。

そして極めつけに、普段は黄の領土に来る事なんてないであろうテクマの姿だ。

状況を察したマージジルマは、とりあえずファイアボルトの前に立ち再び彼を殴った。


「ジジイ! 加減ってもんを知らねーのか!」

「分かった、十分理解した。お前まで怒るな」


皆に、主にマハリクとプリコに十分怒られたと言いたげなファイアボルトは渋い顔をしている。

元同僚を哀れに思ったのか、パンプルが助け船を出した。


「まぁ、ファイアボルトも子供やないんやし。ちゃんと反省したやろ。それよりせっかくの再会なんやし、このまま皆で歓迎パーティーでもしたろうや」


ファイアボルトはちらりとプリコの顔色を伺う。いくらパンプルが良いと言っても、お金の管理もしている嫁がオーケーを出さなくてはパーティー所ではないと思ったのだ。

プリコは一度だけ大きくため息を吐いた。それから仕方ないなと言わんばかりに、ニッと笑う。


「交際費で落としたる」


提案を受け入れてくれたプリコに、パンプルは頬にキスを送ろうとしている。


「流石プリコ、寛大やんなぁ。愛しとる!」


だがプリコは手でパンプルの顔を押し返し、抵抗を見せる。


「分かっとるって。そうと決まれば、はよ準備せな。アンタはケータリング頼んできぃ」

「おう! ばーさん花貸したって」


パンプルはうきうきした様子でマハリクが出した花を掴み、花に向かって料理の注文を始めた。

マハリクも大きなため息を吐いて、ファイアボルトに冷たい目線を落とす。


「本当に反省したなら構わないけどね、次バカな事したらただじゃおかないよ」

「分かった。十分反省した。この通りだ」

「分かればいいよ。まぁパンプルの通り、久々に帰って来たんだ。少しはゆっくりしな」


そう言うとマハリクはパンプルの元へ近づき、「ご馳走を用意してくれるならメロンも用意しておくれ。中が黄色いものが好ましいね」と注文を追加させた。


「あのぉ、私仕事の途中だったので一回帰っても大丈夫ですかー? ファイアボルト様の好きなお酒でも持って戻って来るのでー」


イザティが小さく手を挙げ、申し訳なさそうにファイアボルトに言う。


「おぉ、なんか悪かったな」

「いいんですよぉ、では失礼しますー。ロロルレリーラ・ル・ラローラ」


呪文を唱え水上バイクと水の道を出したイザティは、勢いよく青の領土へと戻って行った。

残されたエトワールはプリコに問う。


「私にも何かお手伝いをする事はありますか?」

「エトワールは花でも出してうちの庭飾ったって」

「分かりました。ご期待に添えられるよう努力致します」


皆完全にパーティー開催モードだった。何だかんだ歓迎してくれている仲間達に、ファイアボルトは思わず涙ぐむ。

だがマージジルマはピーリカとテクマを小脇に抱え、今にも帰りそうな体勢になっていた。


「悪いが俺はメシもらったらコイツら連れて帰る。ピーリカは限界だし、テクマはパーティーの途中でぶっ倒れたらめんどくさいだろ」


それを聞いたプリコは言葉にこそしなかったものの、今すぐ帰るではなくメシもらったら帰るというのがマージジルマらしさだなと思っていた。

テクマはマージジルマの小脇に抱えられてまま彼の方へ顔を向ける。


「僕もたまには賑やかな所でおいしいもの食べたいよ。倒れても皆に助けてもらうから大丈夫だよ」

「迷惑かけるの間違いだろ」


膨れるテクマとは対照的に、プリコがにこやかに答えた。


「えぇよマージジルマ様。本人がそう言うてるんやし、好きにさせたり。テクマ様と一緒に食事出来るなんて滅多に出来る事やないしな。テクマ様にもしもの事があったら、うちの人にどうにかさせるから」


プリコの言葉にうんうんと頷くテクマ。


「ほらマージジルマくん、お言葉に甘えて? パーティー終わったらファイアボルトに送ってもらうからさ。ほら、君は今後ピーリカと僕とファイアボルトの面倒を見てバタバタする事になるだろうし、その前にゆっくりしなよ」

「ピーリカはまだしも、何でお前らの面倒を俺が見なきゃならねぇんだ」

「いいからいいから。さ、早く降ろして? 抱えられてるこの体制、お腹が圧迫されてちょっと苦しい。吐くかもしれない」


吐かれては困ると思ったマージジルマは、ゆっくりとテクマの足を地面へ着けさせる。テクマは逃げるように、だがノロノロとパンプルの元へ向かった。


「パンプルー、油ものばっかりだと僕消化不良起こすからお粥とかも用意してー」


テクマもまたパーティーを楽しみにしていた。


 さほど待つことなく、ピエロ家にはご馳走を届けるサービスをしている店の者がやって来た。

マージジルマは右にピーリカを、左にご馳走の入った袋を抱え魔法で出した絨毯の上に乗り。カットされたメロンの乗った皿を大事そうに持つマハリクに言う。


「おいババア、俺らの代わりにシャバとピピルピも呼んでやれよ。多分シャバは祭りだって言えば来るし、ピピルピには皆いるぞって言えば来るだろうよ」

「単純な奴らだね」


マージジルマは次にファイアボルトに目を向ける。


「ジジイはテクマ送って、帰り際ちゃんと果物買って来い。テクマにまでしたら牢屋にぶち込むからな」

「犯罪者呼ばわりするな!」


ファイアボルトの怒りを聞く事なく、マージジルマはピーリカを連れて空へと飛び立った。




 黒の領土へ戻って来たマージジルマは、ピーリカをベッドの上に落とす。その衝撃で目を覚ましたピーリカは、目元を擦りながら起き上がろうとする。


「んぅ、ししょー?」

「ん、起きたか。まぁ疲れたんだろ、そのまま寝ろよ。クソジジイの事は後で殴っといてやるから」


マージジルマはピーリカの肩を掴み、ゆっくりと倒す。寝かせられたピーリカはまだ眠気があるのか、大人しく毛布を手にし肩までかける。


「師匠、あの」

「何だよ」

「わたしまだまだ成長しますからね」


ピーリカが思い出したのは、ファイアボルトから聞いた弟子と結婚するという話。とはいえ自分はまだ結婚出来るほど大きくないとも理解していた。だからこそ成長するから待っててね、という意味を込めて想いを伝えた。マージジルマには、ただ単に魔法使いとしてのレベルアップの話だと伝わってしまったが。


「当然だ。俺の弟子なんだから、成長してもらわないと困る」


そう言ってマージジルマは部屋から出て行った。

布団の中に潜るピーリカだが、眠ってはいない。むしろ目は大きく開いていた。


「……結婚してくれるのかな!?」


ピーリカは完全に期待してしまっている。体は疲れているというのに、眠気は一気に吹き飛んでしまったのであった。


           ***


 黄の領土では賑やかなパーティーが始まっていた。仕事を終えたイザティも戻って来た上、マージジルマが言った通りにマハリクが伝えた所、本当にやって来たシャバとピピルピも含めた代表達とピエロ一家とで、パーティーは中々の大人数になった。

テクマの出題する僕が好きなものは何でしょうゲームで盛り上がる中、パンプルはひっそりとパンプルに問う。


「ところでファイアボルト、本当に国が恋しくて戻って来たんか? しかも一年は居るんやろ? お前の性格上、帰国する事はあっても一年も長居せぇへんやろ」

「あぁ……本当は仕事のため、だなぁ。あんまりにも直前に帰って来ると、マージジルマから大きなお世話だって追い出されそうだからな。けど一年前になら、流石に気づかれないだろと思ったんだ」

「仕事って……もしかしてファイアボルト、アレのために帰って来たんか?」

「まぁなぁ。マージジルマには言うなよ、その方がカッコイイだろ」

「言わへんよ。言わへんけど、お前の弟子やぞ。嘘見抜くん得意なんやから、もう気づいてんのちゃう?」

「……それは考えてなかった」


パンプルは酒の入ったグラスを片手に、どこか可哀そうなものを見る目で見つめる。


「ま、それで追い返さなかったって事はいて欲しかったんやろ。お前に」

「だと良いがな」


ファイアボルトはフッと笑って、グラスに残った酒を飲み干した。

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