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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~スーパーガール★リカちゃん編~
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弟子、一喜一憂

 ピーリカが目を覚ますと、部屋の中は窓から差し込む光で明るくなっていた。窓向こうの海では静かに波が揺らめく。

シワだらけのシーツの上で、かけられていた薄い布団をめくり上半身を起こす。彼女が着ていたワンピースは大人用のサイズで、今の彼女にはダボダボだった。それでもボタンは全て占められていて、見えてはいけない部分はしっかり隠れている。ベッドの上に座ったまま、ピーリカは自身の肌に触れた。頬も腕も足元も、妙にベトベトしている。服も少し湿っていて気持ち悪い。


「起きたか」

「師匠……」


声がした方を見てみれば、マージジルマが部屋の隅で正座していた。彼の周りには空と思われるコーヒーの缶が積まれていた。やけ酒ならぬ、やけコーヒーで気持ちを落ち着かせていたらしい。その効果があったのか、ただ一晩立って冷静になったのか。マージジルマは気まずそうな顔をしてピーリカの様子を伺っていた。

いくら相手が初恋相手である大人の姿になっていて理性がなくなったとはいえ、弟子に、子供に手を出してしまった。その事実は変わらない、と反省しているようだった。最後までした訳ではないが、幼い彼女からしてみれば似たようなものだろう、と。


「ピーリカ、その、昨日のはだな」


好き勝手してしまった事への謝罪を口にしようとしたマージジルマだが、ピーリカは彼から目線を反らす。


「……昨日とか知りませんし」

「うん?」

「わたしは昨日ご飯食べてお風呂入って、ラミパスちゃんとずっとねんねしてましたから。リカちゃんとか知りませんし」

「……そうか。そうだな。俺が遊んだ相手はリカであって、ピーリカじゃないもんな」

「そうです。でも師匠がモテるとも思えないので、そのリカちゃんとやらもきっと夢ですよ。ところで何故わたしは師匠の部屋にいるのか。さては師匠が寝ているわたしを連れて来たですね。この誘拐犯め」

「……寝ぼけたお前が勝手に来たんだよ」

「そうでしたか。多分違いますけどわたしは心優しいのでそういう事にしておきましょう。おっと、服が勝手に成長してしまったようですね。ブカブカで動きづらいです。持ってきたワンピースに着替えてきます。では失礼」


すました顔でベッドから降りたピーリカは、部屋出て。閉めたドアの前にしゃがみ込み。


「うわぁあああああああああっ」


耐えていた照れを解放した。真っ赤な頬を両手で押さえている。

師匠とえっちな事をしてしまった! 師匠を呪った自分が悪かったとはいえ、一気に大人になり過ぎた! なんて動揺をしていた。

体は元通り小さくなったが、感触を忘れた訳ではない。記憶もしっかりある。


「落ち着きなさいピーリカ。まぁ? 師匠は? バカだから? きっと夢だと納得した事でしょう。わたしは今まで通り、お勉強を頑張るのですよ」


それにどうせ師匠は巨乳じゃないと好きじゃないんだ。そういや師匠の言っていた初恋相手とやらも気になるな。今度探りを入れてみよう。

そう思いながらピーリカは部屋の前を去る。着替えたかったというのは嘘ではなかった。

一方、マージジルマは頭を抱えていた。彼らが泊まった部屋のドアと壁はそこまでぶ厚い訳ではなく、ピーリカの叫びは部屋の中にいたマージジルマにも聞こえていた。


「責めてくれた方がまだ楽だった……!」



 

 部屋の扉を開けたピーリカは、ベッド上に座るイザティと目が合った。イザティの膝上では、パッチリと目を開けた白いフクロウがいる。


「あっ、おはようピーリカちゃん。よかった、元に戻ったんだねー。起きたらいなかったから心配したよー」

「おはようですよ。わたしは天才なので心配は無用です。それよりバズーカ女、今日は貴様と遊んでやるから師匠には近寄らないで下さい。わたしと一緒に貝殻拾いしろですよ」


黒の領土へ帰るのは夕方の予定だった。それまでの間にイザティと師匠が良い感じになる事を恐れ、自分がイザティと遊んでいれば、イザティは師匠と遊べない! という暴論を考えていた。

杞憂だと言わんばかりに、イザティは首を左右に振った。


「言われなくても用もないのにマージジルマさんに近寄る訳ないよぉ。貝殻拾いはしてあげるけど、せめて名前で呼んでほしいなー」

「じゃあイザティ」


ピーリカが名前を呼んだ瞬間、イザティはぶわっと泣き始める。だが表情が笑顔である事から、どうやら嬉し泣きのようだ。


「ピーリカちゃんが名前で呼んでくれたぁ。でも出来れば様もほしいー」

「調子に乗るなですよ」


国の偉い存在である代表を呼び捨てにしている時点で調子に乗っているのはピーリカの方なのだが、そこは指摘せず泣き続けるイザティだった。

 


 約束通りピーリカとイザティは砂浜で貝殻集めを始めた。ラミパスは拾い上げた貝殻を嘴でコツンコツンと突いている。

乙女達の遊びを、マージジルマは椅子に座り見つめていた。部屋に一人で居続けても、昨日の事を思い返してしまう気がして外に出てきていた。

いくら弟子がいつも通りに接してくれているとはいえ、彼の胸には罪悪感が残っている。昨日同様お高いドリンクを口にしても、その気持ちが流れる事はない。むしろ苦いコーヒーを一晩飲み続けたせいか、甘いジュースは体に染みわたっている。

そんなマージジルマの元へひょっこりとやって来て、彼の顔を覗き込んだ者がいた。


「へい親友、もう仕事終わらせたらしいね。楽しんでる?」

「おうシャバ、良い所に来た。一発殴ってくれ」

「ん、歯ぁ食いしばって」

「ん」


シャバは躊躇う事なく、マージジルマの頬にグーパンチをお見舞いする。


「った……サンキュ」

「話聞いた方がいい?」

「そこまでじゃない。っていうか言えない」

「はいよ」


その光景を目撃したイザティは、二人の元へ駆け寄る。ピーリカもイザティの後を追って来た。


「何してるんですかー! 人んちの領土で喧嘩とかやめてくださいよぉ。ただでさえお二人ともガラが悪いんですからーっ」


黒い布で口元を覆った赤髪のシャバと、柄もののシャツでいつもよりチンピラ度の高いマージジルマ。人を見た目で判断するのはよくないと言うが、彼らの恰好は治安が悪すぎた。


「喧嘩じゃないよ。マージジルマが殴れって言ったから殴っただけ」

「もう少し躊躇ってくださいよー、理由聞いてからとかー」

「殴れって言うからには何かしら殴って欲しい事があるからでしょ。それが十分理由になってる。マージジルマは殴られて喜ぶタイプでもないし」

「おかしいよー」


シャバの言う通りマージジルマは殴られて喜ぶタイプではなく、むしろ殴って喜ぶタイプだったが。今ばかりは内心、殴られて喜んでいた。親友が来てくれて良かったとまで思っている。

悪い事をしたという意識はあるが、当のピーリカとは夢だったと言われてしまって。マージジルマからしてもその方が都合が良く受け入れてはしまったが、どうも気は済まずに。変わりに殴られた事により、少しは気が晴れた。反省はしているけれど。

そのピーリカがジッと見つめている事に気づいたマージジルマは、頑張っていつも通りに接する。


「……何だよ」

「大変、師匠の顔が余計歪んじゃいます!」

「まるで既に歪んでたみてぇじゃねぇか!」


いつも通りに接している様子のピーリカだが、彼女も内心ドキドキしていて、わりと頑張っていた。

喧嘩する師弟の事など気にせず、シャバはイザティに目を向けて。


「それよりイザティ、ちょいと仕事の話があってね?」

「そうでしたか。何でしょー」


涙を拭ったイザティは自分より背の高いシャバに顔を向け、小難しい話を始めた。

ピーリカの後ろで、二人の女性がヒソヒソと話し始めた。振り返ってみてみれば、昨日マージジルマとイザティをお似合いだと言った二人組だった。また師匠の話をしているんじゃないかと、ピーリカは聞き耳を立てる。


「お似合いよねぇ、イザティ様とシャバ様」

「うんうん。歳も近いし、外交担当同士だし」

「でもシャバ様にはピピルピ様がいるしぃ」

「あら、恋人じゃないってシャバ様言ってるもの。チャンスはあると思うの」


昨日は師匠とイザティを良い感じたと言って居たのに。驚いたピーリカの隣で、二人組の会話が聞こえていたマージジルマが怒る。


「変な噂べらべら喋ってんじゃねぇ!」


二人組は「怒られたわ」「怖いわ」と言いながらそそくさと逃げていく。


「師匠、今のは……?」

「青の民族、噂話が好きなんだよ。ある事ない事べらべら喋るから、半分くらい疑え」

「なんだ……やっぱり師匠はモテないって事か」

「何でそうなるんだよ」


一喜一憂。

振り回された、と落ち込む気持ちもあれば、師匠がイザティと良い感じでなくて良かったと安心する気持ちもあるピーリカであった。

リカちゃん編完結です。お読みいただきありがとうございました! 少しでも良いと思っていただけましたら評価いただけますと嬉しいです。次回もよろしくお願いします!

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