師匠、不幸になる
うわぁあああああああちゅうだぁああああああああああ!
ピーリカは混乱している。
だが憧れだった師匠とのキスに、嬉しさも感じていた。ドキドキが納まらなくて、困る気持ちもあったけれど。
リップクリームを塗っておくんだった、そういやどうやって息すれば良いんだろう。次第にそんな疑問も抱きはしたけれど、離れるタイミングも分からずただただ彼に身を委ねたままでいる。そんな時、突如口の中に侵入してきた、ぬるっとした感触。
「んっ!?」
うわぁあああああああこれなにいぃいいいいいいい!
ピーリカは混乱している。
キスをされたまま押し倒され、ピーリカは枕に後頭部を沈めた。
しばらくして離れた二人の間に、唾液の糸が垂れる。
「……っあ……これが、奥トントンですか……?」
「……んにゃ、これは……大人のキスってやつだよ」
大人の、と言われるだけでとくべつな感じがしてドキドキしたピーリカ。
だが彼女から離れ上半身を起こしたマージジルマは、右手の甲で口元を拭った。
「お前やっぱイザティん所戻れ」
拭われた事も、戻れと言われた事も悲しかったピーリカは同じように体を起こしマージジルマの服の裾を掴む。
「嫌ですよ。まだ奥トントンしてないのに」
「やっぱ出来ねぇっつってんだよ。今みたいな事が長時間続くんだぞ」
ピーリカは驚きはしたものの不快には思わず。むしろ続けてほしくて。大人として見てほしくて。
「構いませんもん。わたしはこんなにも大人なのに、何で師匠は出来ないんですか。師匠の方が子供なんじゃないですか。わたしは大人だから、長い時間きすだって奥トントンだって出来ますし、し、仕方ないからしてやってもいいと思ってるんです! 師匠は師匠なんですから、わたしに奥トントンとかを教えるのは当然の事なのですよ。まぁわたし奥トントンが何か知ってますけどね、寛大だから教えさせてやるんです。感謝しろください。だから師匠も大人になって、黙って言う事聞けです!」
プッツン。
「ぷっつん?」
聞こえるはずのない音が聞こえたような気がしたピーリカだが、その音の正体を確認する間は与えられなかった。
「……良い煽り方するじゃねぇか。そうだな、俺師匠だからな。教えてやる。もう知らねぇからな。泣いても止まってやれないかもしれないが、覚悟しろよ」
「ん、んぅ」
極限までギリギリに繋ぎ留められていた理性を断ち切られたマージジルマは、口に、頬に、鎖骨にと彼女にキスを送る。
「そうだ、あれも仕返ししとくか」
マージジルマは彼女を抱きしめ、ピーリカの右耳に自身の口元を近づけた。
ピーリカは嫌な予感が、いや良い予感がした。まさかこれは耳元で「大好き」と言ってもらえるやつでは!?
そんな事をされたら嬉しくて死んでしまう。
なんて思っていたピーリカの耳に、生温かいものが触れた。
「ひんっ」
思わず声を漏らしたピーリカだったが、マージジルマは止まる事なく彼女の右耳に舌をねじ込んでいた。
あぁー-! そっちかー---! うわー-------!
ピーリカは動揺している。
耳元で響くクチュッ、チゥっという音。たまに、はむっと耳たぶを咥えられ。
ピーリカは顔を赤くしたまま小刻みに震え始めた。
わたしも師匠に、これをしたのか! なんて恥ずかしい事を!
ピーリカは今になって反省した。やっぱり痴女の教えはろくなもんじゃなかったんだ、と。
しばらくして耳は解放されたピーリカだが、気づけば服の上から胸を揉まれていた。それは彼女の知識の中に辛うじてあった性知識。
「ひょわぁ!? き、気安く触るなです! 揉むな!」
「何もつけねぇで来やがって……さっきの奴にこうされてたらどうするつもりだったんだよ」
「そんなのボコボコにっ、んっ、擦るのも、ダメですって。それ、なんか変なので、止め、あっ」
胸の先端を擦られ、何故か感じた気持ちよさに彼女は困惑していた。
そんな彼女の表情を見て、マージジルマは柔らかい笑みを浮かべている。
「喜べピーリカ、俺今結構お前の事かわいいと思ってるぞ」
「ふぇ、い、意味が分かんない、です。わたしがかわいいの、当たり前の事ですし、やっ」
「自分がどんな顔してるか分かってねーで言ってやがるな。だらしない顔しやがって」
「そんな顔してない、あっ!? 待てです、何でボタン外してやがるですか!」
「外すもんなんだよ」
「そんな、それじゃあまるでエッチな事じゃないですか!」
「エッチな事なんだよ!」
とうとう逆ギレし再び彼女を押し倒したマージジルマの言葉に、ピーリカは声を失った。
まさか自分からエッチな事をしてくれだなんて言ってしまったというのか、あの痴女絶対に許さない。などと考えている内にもどんどんボタンは外されていく。前開きタイプのワンピースは、全てのボタンを外され羽織のような形になってしまった。露わになった胸をジッと見られ驚いたピーリカは、声を取り戻し見られている部分を腕で隠す。
「み、見ないで下さい!」
だがマージジルマは彼女の手首を掴みベッドに抑えつけ、彼女の胸元を見続ける。眉をひそめた彼は、ある疑問を抱いているようだった。
「俺がガキだったからデカく見えてただけだったのかと思ってたが……やっぱりお前もう少し胸デカかったよな」
デリカシーのない彼は幼い頃に触れた彼女のバストサイズの話をしている。嫌味を言われたと感じたピーリカは素直に怒りをぶつけた。
「本当に失礼極まりない奴ですね! 師匠が大きいおっぱい好きなのは知ってますけど、人の価値をおっぱいで決めるなです。誠心誠意謝れでふぇ!? ちょっ、ちょっと師匠っ、赤ちゃんじゃないんですから、やっ、そんな、ん、なんも、出ないです、からっ、あっ!」
彼女の体から口を離したマージジルマだが、彼女の体から手を離す事はなく。それどころか至る所に手を伸ばし、触れていく。やらしい事をされていると分かっていたピーリカだが、自分からやれと言ってしまった手前本気では抵抗できずにいる。彼も彼女も、体に熱を帯びていた。
「別に俺デカくなきゃ嫌だとかなかったし。たまたま……初恋相手がデカかったってだけなんだよ」
「他の女の話なんかするなです! いいからどけですよ!」
「他の……あぁ、そうか。お前そこまでは分かってないのか」
「師匠が変態だという事は十分理解しました! どこ触ってるんですか!」
「ここ」
「何でそんなとこ、んんっ」
窓から見える海には、空の月が反射して波に揺られている。
「待てです師匠、何で舐めるの、なんでなめるの!?」
流石のピーリカも多少は抵抗を見せて、彼の頭を押し返す素振りもしてみせたが全くといっていい程意味はなかった。体はいつもより大きいはずなのに、いつもより力が出ない。力をも吸い取られてるんじゃないかと師匠を疑ったくらいだった。
自分の体が自分のものではないような、違和感だらけの世界に入り込んだような。
「なんか変、なんか、なんか、あっ、んぅっ、――っ!」
ビクビクっ、と体が震えて、目の前がチカチカして。ピーリカはなんとか息を整えようとする。
マージジルマは自身の濡れた手を見て、ほんの少しの罪悪感と興奮を抱いた。
「はは、ぐっちょぐちょ……」
「やぁ……師匠、ししょ……」
嫌と言う割にはとろけた表情をするピーリカの姿に、マージジルマは生唾を飲んで。
彼女の膝に両手をかける。
「ここまでくればもう最後までしても変わんねぇだろ。責任ならもうとっくの昔にとるつもりでいた、しっ……!?」
マージジルマは思わず目を見開いた。
濡れたシーツの上に、突如光り輝く魔法陣が現れた。そこから、ぼんっ、と大きな音を立て煙が飛び出す。
マージジルマは咳込みながら煙を振り払う。ゆっくりと煙が消えていき、マージジルマは目の前に広がった光景にまた驚かされる。
ぐちゃぐちゃに乱れた少女が、荒い呼吸でベッドの上に横たわっている。身長で言えば138センチ。誰がどう見ても、彼女はまだまだ幼い。
「くそっ、こんな所で終われるかよっ……! ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ!」
呪文を口にしたマージジルマ。
しかし、何も起こらなかった。何も起こらない事にマージジルマは困惑している。
代表である自分が失敗した? そんなバカな。呪文を間違えた訳でもないし、ちゃんと想いも込めた。
そこまで考えて、ハッと気づいた。
黒の魔法は呪いの魔法。幸せになる事は出来ない。つまり。
彼女が大人になった場合、彼は幸せになってしまうという事を意味している。
海でトンネルが壊れたのもイザティが犯人という訳ではなく。本人の魔法で幸せをブロックされただけなのだ。
「だぁあああああああああああああああああっくっそ!」
彼は子供の姿である彼女に手を出す気はない。
マージジルマはピーリカの思惑通り、とても不幸になった。




