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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~スーパーガール★リカちゃん編~
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師弟、キスを

マージジルマは自分の頬をベチンっと叩いた。


「師匠!?」

「これで平等だと思ってな」

「平等って……何とですか」

 

マージジルマはチラリと足元で気絶している男を見た。

大きく深呼吸をして、すぐに彼女へと視線を戻し。理性を取り戻す。


「何でもねぇよ……やっぱお前、天才だよな」

「ようやく分かりましたか」


まさか自分が、嫌がらせの天才だと言われているだなんて微塵にも思っていなかったピーリカ。

マージジルマは呟くように、照れを隠すようにしながら彼女に問う。


「そんなに俺と一緒に居たいかよ」

「ち、違います。師匠がわたしと一緒に居たいのでしょう? 分かってるんですから」


いつもの調子が戻って来たピーリカを見て、マージジルマは頭を抱えた。このままイザティの所に帰しても脱走しそうだ。まぁ脱走するだけならいつもの事だ、どうって事はない。それよりも。

脱走先でまた見知らぬ男に手を出される可能性があると思うと、妙にイライラする。

そう思ったマージジルマは、険しい表情で彼女の要望を受け入れた。


「一緒に寝てやるけど、条件がある。寝る前にトイレに行かせろ」

「そんなの勝手に行けですよ」


つまり自家発電する時間をくれと言われているのだが、本来幼い彼女が知るはずもなかった。




 ピーリカはマージジルマが泊まる部屋へと連れて行かれた。部屋の入口に立つマージジルマの手には、気絶したままの従業員が引きずられるような形で握られていた。


「大人しく待ってろ。ただし寝るなよ、絶対先に寝るな。寝てたら食うからな」

「わたしかわいいですけど、おいしいとは限りませんよ」


食う意味が違う……いや、ほぼ同じか。

マージジルマは部屋の中にピーリカを残し、従業員の男を引きずって歩き始めた。

未だ気絶している男をロビーの中央に放り投げたマージジルマは、わざわざ自分の部屋から離れた場所にあるトイレに行き事を済ませ。一人廊下を俯いた状態で「最低だ、俺って」なんて呟きながら歩く。完全に賢者タイムへと突入していた。

長年募らせた重いと言われても仕方のない想いを、小さな弟子に押し付けて良いものか。ここはいっそ、弟子と初恋相手それぞれ別の女として見るべきなのだろうか。腕枕くらいなら許されるだろうか。

などなど、真面目な話やらデリカシーのない話やら、様々な事を考えながら部屋へと戻って行く。


 考えがまとまらない内に自分が泊まる部屋の前まで戻って来てしまったマージジルマは、なるようになれと扉を開けた。


「おかえりですよ」


ピーリカはベッドの縁に座っていた。彼女は薄着ではあるものの、マージジルマが幼い頃見た光景とは違い派手な下着を着け透けさせていたりはせず。隠すべき所は、ちゃんと隠れている。

それなのに彼がムラっと感じたのは、ピーリカ持ち前の色気が強すぎたせいだろう。派手な下着どころか、下着の上を何もつけていないせいもあるかもしれないが。

マージジルマは己の感情を即座に押し殺した。それではさっき蹴り飛ばした男と同じになってしまうではないか、と。

恥ずかしそうにしながらも、部屋の中に入ったマージジルマはピーリカの隣に座る。


「俺もまだ若いんだなぁ……」

「何言ってるんですか。そりゃお酒飲める歳なんですから一応大人ではあるんでしょうけど、師匠まだまだタバコ吸える歳ではないでしょう。全然若いですよ」

「それうちの国の基準だからな? 他の国では同じ歳で酒とタバコ解禁になったりするんだからな?」

「えっ、そうなんで……知ってますけど?」

「……20歳で酒が飲める国もある」

「20歳なんて赤ちゃんじゃないですか!」


全てカタブラ国の基準である。


「いいから寝ろ。おやすみ」


マージジルマはベッドに入ると、ピーリカに背中を向ける。ムラっとはしていたが、まだ耐えられる位置にいた。


「師匠? 本当に寝ちゃったですか?」


そう言ったピーリカは、彼の顔を覗き込んだ。目を瞑っているマージジルマの頬をつついて、本当に寝ているかどうかを確認する。

反応したら負けだ、とマージジルマは無反応を演じる。


「おーい、師匠ってばー」


マージジルマは無反応を演じ続けた。しかし。

目は閉じたままだが、感触的に気づいた。

自分は今、抱き枕にされている。

それも割と力強く、でも苦しくない程度に、ギュッと。しかも彼女の手は彼の手の上に重ねるように乗せられていて、足も絡ませてきている。背中には柔らかい胸の感触。ぬくもりというより、熱さを感じた。これで手を出すなというのは、生き地獄以外の何者でもない。

デジャヴ。

ピーリカからすれば、どうせ相手にされてないんだからこれ位大丈夫だろう。なんて気持ちでいるのだが、その思いこそマージジルマには伝わってない。


「こうしてみると師匠ってやっぱり男の人なんですねぇ。前にギュってした時に比べたら大きいしゴツゴツしてるです。可愛げが全然ないですね。だからといって嫌いになる訳ないですけど。わたしの師匠、好き、好きですよ、だーいすきです」


彼が起きていたら絶対に言えないであろう事を言いながら、ピーリカは彼の後頭部に頬すりをした。

その時だ。

バッと起き上がったマージジルマは、抱きついていた彼女の両腕を掴み。押し倒すような恰好になった。


「こ、これは夢ですからね!」


怒られると思ったピーリカは何故か強気でいられた。ただ告白を聞かれてしまったという事もあり、頬は赤くしていたが。

ぽたり、その赤い頬を涙が伝う。だがその涙はピーリカの目から流れたものではなかった。


「ほんっとに……アンタさぁっ……」


久々にその呼び方をされた、そう思ったピーリカ。

だが真上から零れてくる涙に困惑して、照れの感情は消え去った。押し倒されているという現実は理解出来ないままだ。


「し、師匠?」

「……寝る」


目元を腕で拭ったマージジルマは、彼女の右隣に寝転んだ。いくらバカンスだからって、気が緩み過ぎている。反省してはいたが、この感情を完全に消す事も出来ずにいた。

逆にピーリカは体を起こし、再び師匠の顔を覗き込む。


「寝るじゃないですよ。何ですか今の」

「寝ろ」


手を伸ばしたマージジルマは彼女を抱き寄せ、自身の隣に寝かせる。腕枕ともいう。

いつもの調子で、抱きつかれた仕返しのつもりでやったマージジルマだったが、結局自分が色々我慢する事になってしまったと若干後悔していた。

そして彼女には照れの感情が復活した。


「ししょお!?」

「寝ろよ」


寝れる訳ないだろこのバカ、そう言いたい気持ちを言葉にだせずピーリカはただ口をパクパクさせていた。

しかし彼女は、ふいに彼の胸元から聞こえて来た心音が異様なくらい早い事に気づき。

師匠もわたしにドキドキしてくれているのか?! そう思ったら、嬉しさの方が勝った。そしてその嬉しさを表に出せないのは、いつもの事だった。


「まぁ、仕方ないですよね。わたしかわいいから。でも師匠、そんなかわいい子とただ寝るだけなんて勿体ないとは思いませんか」

「……十分だろ」

「えぇまぁ。確かに師匠のような犬相手では寝るだけでも頭が高い行動ではありますけど。わたしまだ眠くないですし。もう少し遊んでやってもいいですよ」


嬉しさのあまりピーリカは少し調子に乗っている。

二人共ベッドに寝転んだまま、腕枕の体制のまま話を続ける。互いに互いを離したくないと思っている事は、奇跡的にバレていない。


「もう遊んだろ。砂とか海とか」

「砂はともかく海は遊んだうちに入らないと思うのですよ」

「じゃあ何がしたいんだ。時間的にもう店の類はほぼ閉まったと思うぞ」

「それなら……」


大人は何をして遊ぶのだろうか。なんて考えていたら。

ピーリカはある事を思い出した。


「そうだ師匠。せっかくですから、奥トントンしてくださいよ」


にっこりと笑みを浮かべて提案してきたピーリカに対し、マージジルマは照れを通り越して真顔になった。


「お前、それ、は? 何?」

「とぼけるなですよ。奥トントンです。大人にならないとしてはいけない遊びでしょう」


そう言われてマージジルマも思い出した。ピーリカが呪いのチョコレートを作った時に、ピピルピから教わって来たとんでもない話。しかもあろう事か自分は『大人になったら、もっかい言ってみろ。そしたら教えてやらん事もないかもしれん』などと言ってしまった。

マージジルマは嫌な汗をかきつつも、冷静を装う。


「それをやるには、ある条件をクリアしないとダメなんだよ」

「何だか分かりませんが、わたしは天才なので不可能はありません」


自信満々なピーリカを見て、マージジルマは不安になった。俺相手だからではなく、コイツは誰にでもそう答えるんじゃないか、と。

彼女がこのまま成長し、悪い奴に騙されないようにしないと。そのためには、あえて自分が悪い奴になろう。

そう思ったマージジルマは人差し指を彼女の唇に押し当てる。


「それをするにはな、キス出来ないと無理なんだよ。あ、口にな」

「むぅ!?」


カーッと一気に頬の熱が上がるピーリカ。体を起こし、師匠の手から自身の唇を離した。


「まぁ俺は出来るけどな、お前は無理だろ」


そう言って同じように起き上がったマージジルマは、ピーリカの唇に当てていた人差し指を自身の唇に押し当てた。この位なら許されるだろう、なんて。


「なっ、なっ、なっ、なぁああああ!?」


マージジルマはピーリカの反応に安心していた。これで彼女が今後、易々とねだってくる事はないだろう、と。

嫌われたら、それはそれ。自分の初恋は、とっくのとうに終わっているつもりでいる。師弟関係まで崩れたら、それは少し寂しいかもしれないが、とも思っていたけども。


そう、マージジルマは失念していたのだ。彼女が普通の少女ではない事を。そして彼女が『無理だと言われたら無理な事でも、出来ないと言われたら出来ない事でも出来ると言ってしまう』少女である事を。


師匠と大人の遊びをしたかったピーリカは、ギュっと拳を握って。

意を決して、目を瞑ったまま師匠に顔を近づける。

ほんの一瞬、それこそ一秒にも満たない時間。それでも確実に触れ合った唇を、ピーリカはすぐさま離した。

ちゅうしちゃったちゅうしちゃった! わぁわぁ!

と、思いはしたが動揺した姿を見せる事はない。プライドの高い彼女は心の中でだけ騒ぐ。真っ赤な顔だけは隠せなかったが、素直さは隠して偉そうな態度を見せた。


「はーっはっはっは! ちゅうごときよゆーなんですよバーカバーカ、わたしとちゅう出来た事を光栄に思えです。さぁ、これで条件はクリアしましたね、早速奥トントンをっひえっ!?」


ピーリカの右手の上に、マージジルマは左手を重ねた。それに驚いたピーリカが重なる手に目を向ける。そして、彼女が次に顔を上げた瞬間。

マージジルマは、ピーリカにキスをした。

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