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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~スーパーガール★リカちゃん編~
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師弟、砂遊びをする

胸元がフワッと膨らんだ、真っ黒な水着。下もスカートタイプで、大人びた色のわりには愛らしい印象だ。

ただし、ピーリカには一か所だけ気になる点があった。上下分かれたその水着は、思いっきりへそが出てしまう。


「お客様ーどうですかー」


部屋のドア越しに声をかけてきた店員に、ピーリカは小さめの声で伝えた。


「これだとお腹冷えちゃうんですけど」

「でもお腹出てた方がセクシーですよ。愛らしさもあって大抵の男はイチコロですね!」

「なら仕方がない……」


ピーリカはすぐに受け入れた。やはり少しだけセクシーに憧れていたようだ。イチコロとあっては、もう着ない理由がない。

とはいえまだ気恥ずかしいらしく、そおっと試着室から出て行く。そして試着室の前で待機していた、イチコロにしたい男にお披露目。


「ど、どうですか。似合うでしょう」

「……か」

「か? かわいいって? 知ってます」

「いや……顔がいいなって」


昔から思ってはいたが伝えられなかった感想を、真面目な顔して伝えたマージジルマに対し。

ピーリカは頬を膨らませた。顔を褒められた事は嬉しいが、それだけじゃ満足できなかったのである。


「もう少し水着に関しても何か言えですよ。顔がいいのは大前提なんですから」

「相変わらず自信満々だな。でも、そうだな。かわいいもある、かもな。似合って、る。うん」

「そ……そうでしょう! そうでしょう!」


希望通りの、いや希望以上に褒められて嬉しくなったピーリカ。

マージジルマも恥ずかしさを感じてはいたものの、かつて味わった後悔を知っていたせいで言わずにはいられなかったようだ。

二人の間に甘い雰囲気が漂う。

だが店員にそんな事は関係ない。


「マージジルマ様は? 何着ます?」

「……何も着ない。俺はいいから」


まだ少し頬の赤いマージジルマは首を左右に振った。

わたしは分かっているぞと言いたげに、ピーリカはマージジルマを指さす。

 

「この男は極力お金使いたくないんですよ」

「あぁ、彼女にだけ使いたいタイプなんですね?」


わたしだけか、それは嬉しいな。ちょっと待て、彼女、彼女かぁ、いい響きですよ。

ピーリカは幸せを噛みしめながら、勝手に返事をした。


「ま、まぁそういう事です」

「分かりました。マージジルマ様、夜の海は冷えます。こちらとしては水着の上に一枚、羽織る事を推奨しております。女の子の体を冷やしていいとお思いですか?」

「貴様! 師匠を困らせるなです!」


怒るピーリカの事など気にせず、店員は白い薄手のパーカーを手に取りマージジルマに見せつける。

マージジルマはパーカーではなく棚に陳列されていた、表面がツルツルした素材の洋服を手に取った。


「じゃあこれを」

「それは……雨具ですね。今晩、雨が降る予定はないですよ?」

「ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ」


彼の唱えた呪文によって現れた魔法陣は、雨具を吸い込み。交代するかのように現れたお金が、チャリンチャリンと音を鳴らしてマージジルマの手のひらに落ちる。

店員は首を傾げた。


「マージジルマ様? それは?」

「水着と上着の金」

「雨具代は?」

「まぁ今度払ってやるよ。じゃあな」


そう言うとマージジルマは手の中のお金を棚の上へと適当に置いて、店員からパーカーを奪い取る。それから反対の手でピーリカの腕を掴み、走って店内から出て行った。

驚いた店員が急いで追いかけるも、逃げ足の速いマージジルマに追いつく事はなく。


「あ、雨具泥棒ー!」

「後払いだっての」


言葉だけを残し、師弟は海へと向かう。


 店員が言った通り、夜の海はひんやりしていて。月明り以外は黒と紺色に見える風景は、色味だけでも肌寒さを感じた。

マージジルマは奪って来たパーカーを彼女に羽織らせる。


「お、フードついてんじゃん。人目も気になるし、かぶってろ」

「人目が気になるのは師匠が泥棒してきたからでしょう。わたしはどこに出しても恥ずかしくない顔をしてます」

「泥棒じゃないっての。あとお前の顔は恥ずかしい訳じゃない、目立つんだよ。俺が隣にいたとしても、変な目で見てくる奴がいないとは限らないだろ」

「変な目って?」

「ピピルピみたいな」

「あぁ、それはいけませんね」


納得したピーリカは大人しくパーカーについたフードをかぶる。


「どうです? これでもわたしの愛らしさは隠しきれないかもしれませんが」


自慢げに水着パーカー姿を見せつけてきたピーリカを、マージジルマはジッと見つめてしまう。

見惚れてしまうの方が正しいだろうか。

フードの下から覗く整った顔に、自分と同じくらいの背丈。胸は過去に見た姿と比べ少し小さいような気もしたが、そこは許容範囲内だった。

見た目だけなら完璧好みドストライクの美少女に、うっかりときめいた彼は。

フードをもっと深くかぶせようと、グイっと彼女の頭を抑え込んだ。隠した所でときめいた事実は変わらないというのに。


「痛いんですけど!」

「仕方ないだろ、お前顔良いんだから!」

「どんな怒り方ですか! 全部良いって言えです!」

「お前こそどんな怒り方だよ!」


なんて口では怒っているマージジルマだが、その喧嘩すら楽しいと感じてしまっていた。

ちなみにピーリカは普通に怒っている。わたしは存在全てが素晴らしい。悪い所など一つもない。そう過信していた。


「全く、師匠は本当にダメですねぇ。こうなったらわたしの良さをもっとアピールしてあげないと。分かりやすく伝えないと、バカな師匠は気づかないんですもんね」


これ以上アピールされたら、呪いで大きくなっている事も忘れて手を出してしまうかもしれない――なんて危険な発想が飛び出た事に自分でも驚いたマージジルマは、彼女との喧嘩を強制的に終わらせる。


「もうお前の良さは十分伝わってるから。それよりほら、せっかくの海だ。喧嘩してる時間なんて勿体ないだろ」

「本当に伝わってますか?」

「あぁ。お前は顔だけじゃない、頭も性格も良い」

「ふむ。どうやらバカな師匠も少しは学習するみたいですね」


ちょっと殴りたいな、そう思ったマージジルマだがここは大人の意地と余裕を見せつけるためにグッと堪えた。


「まぁな。それより海だ、遊べ」

「じゃあ、砂遊びします?」

「子供じゃねぇんだから」

「なら大人は何をするんですか」


その問いでマージジルマの脳裏に一瞬だけチラついた、いかがわしいイメージ。いくら見た目は大きくなっていても、それらを目の前で披露するのはまだ早い。そう思ったマージジルマは適当な事を口にした。


「……砂で城を作るんだよ」

「砂遊びじゃないですか!」


そう言いながらもピーリカはその場にしゃがみ込み、砂で山を作り出した。海水を含んだ重めの砂に、サラサラとした乾いた砂を振りかける。いかがわしい事を考えないためにも、マージジルマもその場に座り作業を手伝った。

両手でポンポンと形を整え、さらに砂を重ねていく。しばらくはその繰り返し。たまに指先で段差をつけたり穴をあけたり、形に変化をつけさせたりもして。

共同作業をひたすら続けて、最終的に不格好ではあるが建物の形になった。


「ピーリカ城と名づけました」

「お前いつもピーリカ嬢って呼ばれてるだろ。かぶらないか?」

「それもそう……いいえ! わたしはリカちゃんです!」

「まだしらばっくれる気なのか」

「しらばっくれてません。事実ですから」

「あっそ」


完成したピーリカ城を見つめながら、ピーリカは次に何をするか考える。

師匠のためにも、お金は極力使いたくない。話しながら散歩をするのも良いが、それならここでなくとも出来る。ここでしか出来ない事、とあらば。

ピーリカはやはり、目の前に広がる大きな海が気になった。

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