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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~スーパーガール★リカちゃん編~
157/251

師弟、デートの行先を決める

「でっ、でぇとぉ!?」


驚きのあまり裏返った声を出してしまったピーリカ。その顔色は、言わずともがな。


「つってもメシももう食ったしなー、お前どっか行きたい場所あんのか?」


ピーリカはマージジルマからの問いにすぐ答えられない。ショッピングも行きたいし、お腹がいっぱいとは言えお茶くらいなら飲める。

そう、彼女にデートをしないという発想はないのだ。貶めたい気持ちと同じ位、デートをしたい気持ちが強かった。

いや待てよ。

ピーリカは考え直した。

お金を愛してやまない師匠だ、例えデートでもお金を使うはずがない。そう判断したピーリカは偉そうに答えた。


「お金のかからない場所で構いませんよ!」

「おーおー、俺の事よく分かってんじゃねぇか。でも遠慮しなくていい、金ならその辺のものと適当に交換すればうちから持って来れるし」

「そうですか……ん? それって師匠のお金って事ですか? 師匠がお金を使うだなんて、貴様本当に師匠ですか?」

「本当に俺の事よく分かってるな。でも安心しろ、お前に使う用に貯めといた金がある」


マージジルマから出た予想外の言葉に、ピーリカは目を丸くする。


「そんな、わたしのためのお金があったなんて初耳ですよ。一体何を買ってくれる気だったんですか?」


結婚資金――――喉元まで出かかった言葉を飲み込んで、マージジルマは本音でもある嘘をつく。


「お前の欲しいもんだよ。でもなるべく安いのにしろよ」

「あぁ良かった、いつもの師匠だ」

「どこで判断してんだよ」

「金銭感覚ですよ。あっ、バズーカ女に言えばお金貰えるんじゃないですか?」

「いくらイザティでも女と遊ぶ金はくれんだろ。俺だって嫌だよ」


確かに他の女からもらったお金でデートするなんて、なんか嫌だな。そう思ったピーリカは「うーん」と言いながら、どこへデートに行くか考えた。


「師匠はどこか行きたいんですか?」

「シャバん所で祭りやってたら真っ先にそこ行くんだけどな。ちょっと聞いてみるか」


マージジルマは部屋の大きな窓を開け、その場にしゃがみ込んだ。窓サッシの淵に、ひっそりと咲いていた黄色いポポタンの花。その花の根元を掴み、マージジルマは緑の魔法で親友を会話を始める。


「おうシャバ、今そっち祭りやってる? あー……分かった、そこまでじゃない。サンキュ、じゃーなー」


花から手を離したマージジルマに、ピーリカは期待を込めて質問する。


「お祭りやってました?」

「雑巾絞り祭りとかいうのならやってるって。行きたいか?」

「絶対デートで行く場所じゃねぇですよ」

「だよな。そもそも何でそんな祭りを開催してるんだアイツは」


ならばどこに行こう。ピーリカはそう思いながら、ふと窓の外に広がる海を見つめ。気づいた。


「そうだ、せっかく目の前に海があるんですよ。海に行かなくてどうするんですか」

「それもそうか、海なら金もかかんねぇしな。じゃあ行く……あ、ちょっと待ってろ。イザティにラミパスもう少し預かってろって言ってくる」

「ラミパスちゃんなら連れてっても構いませんよ」

「邪魔されたら嫌だから置いていく」


師匠の言葉に、ピーリカは頬を赤く染める。ラミパスを邪魔者扱いするのは心苦しくもあったが、つまりデート中は本当に二人きりだという事でもある。

ピーリカは思った。メロメロ作戦うまくいきました。あぁ、美しいって罪、と。


「じゃあ海に向かいながら言いに行きましょう」

「そうだな……じゃあ、ん」


マージジルマは右の手を広げてピーリカに見せる。突然の行動に、ピーリカも理解が追い付かない。


「何ですか? 自主的にお手をしてるですか?」

「俺は犬じゃねぇっての。まぁ、手ではあるけど」


そう言うとマージジルマはピーリカの左手を握り、引っ張って歩いていく。ピーリカにとっては手を握られただけでも事件なのに、その手のつなぎ方が俗にいう恋人つなぎなのだから。思わず「ひぃえっ!?」などと変な声を出してしまった。

衝撃的すぎる出来事に、ピーリカの中ではイライラしていた八つ当たりの気持ちが一瞬の内に消え去って。

彼女はもう、師匠とのデートを完全に楽しむつもりでいた。



 手を繋いだまま先ほど夕食を終えた場所へとやって来た師弟は、椅子に座っていたイザティの前に立つ。


「おいイザティ」

「しー」


そう言って口元に人差し指を当てたイザティの膝上では、ラミパスが眠っている。働く気なんて微塵もなさそうなフクロウ(元白の魔法使い代表)の姿に、マージジルマは呆れていた。


「良いご身分だよな」

「そうですねぇ。ところでマージジルマさん、すごい美人さん連れてらっしゃいますねー」

「あぁ、良い女だろ?」


ピーリカから左手を離したマージジルマは、彼女の首の後ろに腕を回し自分の胸の方へ抱き寄せる。そしてそのまま、ピーリカの頭をポンポン。

照れているピーリカを前に、イザティは眉を八の字に曲げる。


「良い女ですけど、どこから連れて来たんですかー。女の子代まで出すのは私ちょっとぉ」

「買ってねぇよ。まぁ遊んでは来っから、ラミパス見ててくれ」

「分かりましたー。それにしても本当にキレイな人……え? あれ? もしかして……ピッ、ピーリカちゃんっ!?」

「違う、こいつはリカという女だ」


マージジルマは自分にもそう言い聞かせている。

だがイザティも引かない。


「そんなはずないですよぉ。魔力が完全にピーリカちゃんのですもんー」

「あぁ、魔力見えるのか。そういやお前も代表だったな」

「ひどいー」

「まぁこいつはリカであってピーリカじゃないから。魔力も似てるだけで別物別物。じゃ、行ってくる」

「ま、待って下さいよぉ、あーん動けないー」


心の優しいイザティには、膝上でスヤスヤ眠るラミパスを下手に動かせないのであった。



 ホテルの入り口前までやって来たピーリカは、隣にいるマージジルマの顔を覗き込んだ。


「良かったんですか、バズーカ女をあのままにしといて」

「いいんだよ、お前だって余計な詮索されたくないだろ」

「そうですね。女はミステリアスな所があってもいいものですからね。さぁ、海に行くですよ」


彼女はこれでもまだ自分がピーリカだとはバレていないと思っている。見破られたら都合が悪い、そう思って話を合わせようとしていた。



 足元でザッザッと音が聞こえて、ピーリカは歩いていた道の造りがコンクリートから砂へと変わった事に気づいた。

海の前にたどり着いたものの、彼女が着ているのはホテルで借りたワンピースだけで。そのワンピースも、とてもじゃないが泳げそうな素材ではないただの布。


「せっかくの海ですのに水着がないですね」

「そうだな。今のお前じゃ昼間の白い水着じゃ入らねぇよな……よし、その辺の店で水着くらい売ってるだろ」

「そうですね、白いワンピースのかわいい水着なんて知りませんし、持ってないので。まずは見に行ってみましょう」


下手くそな演技をしたピーリカは、師匠を連れて海岸沿いにある店の中へ入って行った。

店に入ったと同時に、眼鏡をかけた青の民族の女が近寄って来た。どうやらこの店の店員のようだ。


「いらっしゃいませー、あっすごい、マージジルマ様がめちゃくちゃ美人さん連れてる!」

「そうだろ。この美人に見合う水着があるものなら出してみろ」

「すごく怖い注文をされた! えーと、そうですねぇ。美人さんにはビキニタイプが似合うと思います」


師匠に美人と言われた事に関しては当たり前だと思っている。それよりも店員が口にした単語が気に入らなかったピーリカは、顔をしかめた。


「痴女が着てるやつじゃないですか」

「ピピルピ様とお揃いはお気に召しませんか?」

「わたしも痴女と同じにみられるのはちょっと」


とんだ営業妨害を受けつつも、店員だって諦めない。


「でも絶対にお似合いですよ。もしかしたらピピルピ様より似合ってしまうかも。あぁいえ、お客様が痴女という訳ではありません。言うならばそう……セクシー?」


ピーリカはセクシーという言葉に惹かれた。いつもなら愛らしさで勝負するピーリカにとって、セクシーは必要のないもの。だが大人である今は、セクシーさを持っているのも悪くないのではなかろうか、と考えたのだ。


「わたしに似合わないものなんてないです。まぁ、もしかしなくとも痴女よりセクシーになってしまうでしょうね。わたし、美しいので」


その気になりつつあるピーリカの態度に、目を光らせた店員は店内のハンガーにかけられた一着の水着を手にとる。黒一色の水着は、セクシーさを引き出すにピッタリ。


「ですよね。よろしければ試着出来ますよ。試しに一度着てみては? マージジルマ様がお喜びになるかもしれません」


ピーリカは思い出した。そうだった、目の前にいるこの男……巨乳が大好きなんだった! と。

巨乳とまではいかなくとも、いつもと比べれば胸の膨らみがある。今ここでセクシーさを出さずに、いつ出すんだ! よし、胸を出そう!

そう思ったピーリカは店員から黒色ビキニを受け取った。


「どうしてもと言うなら。試着ならタダですからね」

「ストップ」


ピーリカの前に立ったマージジルマの態度に、店員の眉がピクリと動いた。せっかくの商売チャンスを邪魔されたくない一心のようだ。

しかしピーリカは二人の想いに気づかない。


「何です師匠、お値段を気にしてるのですか?」

「違う。ちょっと耳貸せ」


自分の右耳へ手と口を近づける師匠のドキリとしながらも、彼女は耳を傾ける。


「お前これ一人で着れんのか?」


小さな声でそう言われたピーリカは、改めて水着を見る。今彼女が持っているビキニは、背中の後ろで結ぶタイプだ。ちょっと難しいかもしれない。そう思ったピーリカだが、彼女は自分に出来ない事はないというプライドも持っていた。


「……天才なので出来なくはな」

「よし、違うのにしろ」


師匠は弟子の性格を把握している。

そんなマージジルマが密かに思い出しているのは、ブラジャーつけられないから変わりにつけてくれと言われた淡くはない初恋の日の記憶。あの時は自分しかいなかったからいいが、今は店員の目もある。何より大人になったとはいえ、再びそんな事をさせられては。

一体どうなってしまうのか、それは自分でも分からない。それが怖かった。

ピーリカは師匠の前で失敗した姿を見せたくないというプライドも持っていたので、大人しく彼の提案を呑んだ。


「出来れば後ろで結ばないやつがいいです」


店員はこのさい商品が売れればどれだっていいと考えている。


「なるほど。じゃあタンキニでどうでしょう」

「短気に?」

「タンキニ。キャミソールと短パンみたいな感じですね。ビキニより布面積が多くて、形によっては上がTシャツっぽかったり下がスカートみたいになってるのもありますよ」

「それは良いですね、簡単に着れそうです」

「じゃあ、これとかどうです?」


店員に見せられた水着を見て、ピーリカは満足そうに頷く。


「ふむ、なかなか良いじゃないですか。師匠、これはどうです?」

「……良いんじゃないか?」

「じゃあ試しに来てみましょう」


ピーリカは水着を持って、試着室と書かれた小さな部屋の中に入って行った。

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