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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~スーパーガール★リカちゃん編~
155/251

師弟、混浴する

「あ? イザティか?」

「そうですよ」


ピーリカは日中聞いた話を気にしていた。

同じ代表の中で師匠に近づく奴がいるとすれば、テクマくらいだと思っていた。それがイザティもとなると、ピーリカにとっては新たなライバルが出現した事を意味している。ちなみにピピルピは論外。アイツは師匠だけでなくわたしも狙ってくる。そう思っている。

マージジルマは未だ弟子が見た事のなかった、爽やかな表情で答えた。


「パシリ」


答え自体は、最悪だったが。

マージジルマの答えが聞こえていたイザティは、美味しそうに焼かれた肉の乗った皿を両手にプリプリ怒っていた。


「ひどい事言わないで下さいよ。私パシリじゃないですもんー」

「肉いただきます」

「パシリじゃないって言ったの聞いてましたー? どうぞ召し上がれー」


二人の雑なやり取りも、親しみある良い雰囲気と言われればそう見えない事もない。

椅子から降りたピーリカはイザティの背後に回り込み、ジッと尻を見つめる。


「どうしたのピーリカちゃん。お尻ばっかり見ないでー」

「師匠を誘惑するとしたらここかなと」

「そんな事しないよー」


恥ずかしそうに手で尻を隠すイザティの周りをウロウロするピーリカ。マージジルマは肉を切りながら弟子の行動を止めさせた。


「ほらピーリカ、変な言いがかりつけてないで早く食え。それにイザティは俺よりピピルピに遊ばれる方が好きなんだ」

「ちょっ!? マージジルマさん、適当な嘘つくの止めてもらえますー!?」


代表二人は少し前、イザティがピピルピに遊ばれた時の事を思い出している。嘘じゃないだろ、という顔をしているマージジルマにイザティは頬を赤くして怒った。

その時の事を知らないピーリカだが、彼女は師匠の言葉を信じる。


「そうですか、それは変態ですね」

「違うんだってばー」


ピーリカに冷たい目で見られたイザティは恥と悲しさで涙を流す。



 テーブルの上に並んでいた料理をほぼほぼ平らげた師弟。

ピーリカは食後のデザートにミルク味のアイスを食べていた。ほんの少し塩がかかっているのか、濃厚な甘めのミルクの味が引き立てられている。


「ごっそさん、食った食った」


腹をさするマージジルマの前に立ったイザティは、彼らが食べ終えた食器を片付け始める。


「お粗末様でした。お気に召して頂けたようで良かったですー」

「おう。あ、そうだ。余った食材があったら適当に折詰にしといてくれ。このホテルの持って帰れるものは全部持って帰る」

「常識の範囲内で持って帰って下さいよー?」

「さて、メシとくれば風呂かな」

「話聞いて下さいってばー」

「聞いてる上で流してる」

「ひどい……まぁお客様なのでご丁寧に対応しますよぉ。うちには立派な露天風呂もあるんですよー」

「ん、じゃあちょっくら行ってくるか。イザティ、他の奴入れんなよ」

「大丈夫です。当ホテルは本日貸し切り、いるのはマージジルマさん達と従業員だけですー」


それなら胸の代表印を見られずに済むか、とマージジルマは安心した様子で席を立つ。

ピーリカはスプーン片手に師匠を引き留めた。

 

「待てです師匠。わたしまだ食べてます」

「食べられるだけ食べてていい。ラミパスもまだ食ってるみたいだし」


ピーリカ達の隣のテーブルの上に留まっているラミパスは、足元に並べられた皿の上しか見ていない。皿上には細かく刻まれた赤い生肉。今日与えられた高級な生肉は、別世界のべちょべちょした肉とは大違いで美味しいらしい。おかげで食欲が増しているのか、ラミパスはいつもより多く肉をついばむ。


「ごちそうさまですよ」


ピーリカがアイスを食べ終えた時、ラミパスはテーブル横にある椅子の上に座り眠っていた。満腹になったようだ、とても幸せそうな顔をして眠っている。

イザティはラミパスを撫でながらピーリカに言った。


「テ……ラミパスちゃんの事は私が見てるから、ピーリカちゃんもお風呂行っていいよー」

「分かりました。ラミパスちゃんを危険な目に合わせたら許さねぇですからね」

「分かってるよぉ。あ、でもちょっと待って」


ラミパスから手を離したイザティは、少しの間だけその場を離れる。しばらくして、淡いピンク色のワンピースを持って戻って来た。茶色いボタンがついている、前開きデザインのかわいらしいワンピースだ。


「これ無料で貸し出してる旅館着。自分で持ってきた服があるならそっち着てもいいけど、この服ゆったりしてるからおススメだよー」


ピーリカはイザティからワンピースを受け取り、ほう、とワンピースを見つめる。


「かわいいですし、貸してくれるなら着てやるです」

「男湯と女湯、間違えないよう気を付けてねー」

「分かれてるですか?」

「うちはねー。桃の領土にあるホテルとかは全部混浴みたいだけどぉ」

「こんよく? うちのお風呂も師匠とわたし二人で使ってるですけど、混浴ですか?」

「交代で入る事じゃなくて、一緒に入る事が混浴だけど……ピーリカちゃんマージジルマさんと一緒にお風呂入る事あるのー?」

「なっ、ないです! 一人で入れるですもん!」


だよねぇ、というイザティの声も届いたかどうか。

ピーリカは急いで風呂場へと向かった。


 二つの出入口にかけられた、中央に「♨」の絵が描かれた色違いの布。右側は赤く染まり、左側は青く染まっている。部屋から替えの下着を持ってきたピーリカは、その布の前で立ち止まっていた。

どちらかが女湯への出入り口である事は想像のついたピーリカだが、文字が書かれていない布だけではどちらが女湯なのか判別がつかない。父親がピーリカを大事にしたがあまり、家族で温泉に行く事などなかったのだ。それにイザティどころかマージジルマだって、まさかピーリカが男湯女湯の区別もつかないとは思ってもいなかったのである。


「聞かずともわたしは分かりますよ、天才ですからね。青の代表は女、赤の代表は男!」


謎の自信を胸に、ピーリカは下着を抱え。

堂々と男湯へ入って行った。

広々とした脱衣所には、大きな鏡に洗面台までついている。棚には多くのカゴが並んでいて。


「さっきホテルはわたし達しかいないと言ってたですね。きっと従業員達はまだまだ仕事中でしょうから、今はこの広い空間全部わたしのものという事になるですね!」


一番下の段にあった、かごの一つに脱いだ服を入れて。

ピーリカは全裸で浴室へと向かう。ここで上の方にあるかごの中を覗きでもすれば、もう少し違う結果になっていたかもしれない。



 海の香りが漂う夜空の下。ゴツゴツした岩で囲われた穴の中には、大量のお湯が溜まっている。立ち込める湯気のせいで、奥行きがどれくらいあるのか見えなかった。それ程広さがあるようだ。ピーリカは入口付近に設置されたシャンプーを使い、まずは髪を洗うべく両目を閉じた。


「おいピーリカ、とっとと出ろ!」

「ん? 師匠?」


どこからか聞こえて来たマージジルマの声。さては男湯から声を出しているなと思ったピーリカだが、かわいいおめめにシャンプーが入ってはいけないという理由で両目は閉じたまま受け答えをする。


「まだ洗ってる最中ですし、あったまってもいないので出ません。師匠は先出ていいですよ」

「出来ないから言ってんだよ……」

「何を訳の分からない事を。乙女のバスタイムを邪魔しないで下さい」


師匠が黙った事に満足したピーリカは、頭のシャンプーを流し目を開けた。そのまま体も洗ってから、ちょっと熱めのお湯にゆっくりと入る。


「それにしても広いですね。探検してみましょう」


肩までお湯に浸かりながら、ピーリカは奥へと進んでいく。

最初の内は大して変わらない風景が続いた。

岩、岩、マージジルマ、岩。月で照らされた海が見え始めたと思ったと同時に、ふと、さっき変なもんが視界に入らなかったか、と振り返る。そこには半身浴をしながらも岩を抱えるようにして胸元を見せないようにしていたマージジルマの姿があった。

動揺したピーリカは、とりあえず罵倒。


「な、にっ、師匠のバカっ、スケベ、変態ーーっ!」

「後から入って来たのお前だろうが! 何で男湯入って来てるんだよ!」

「男湯!? ここは女湯ですよ、だって青の布でしたもん!」

「青が男なんだよバカ!」


何だって!? そう思ったピーリカだが今更知らなかったとも言えず。


「とりあえず出てげ下さい!」

「お前が出てげ。ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ」


マージジルマが呪文を唱えたと同時に、ほんの一瞬、ふわっ、とピーリカの体が浮いた。


「ぶっ!?」


それから、バシャンっ! 音を立てて落ちた先は、本物の女湯の中だった。

濡れた顔を拭っている間に、壁越しに聞こえてきた師匠の声。


「心配すんな、お前に手を出すとかあり得ねぇから」


少なくとも今は、という意味で言ったつもりのマージジルマだが、ピーリカには伝わらなかった。

ピーリカは震え、怒鳴り声を上げながら脱衣所へ向かった。


「師匠のクソハゲーーっ!」

「ハゲてねぇだろうが」



 女湯の脱衣所へ来ても服がない事に気づいたピーリカは、ご自由にどうぞと置かれていたバスタオルを体に巻いて泣く事しか出来なかった。悲しみの中思い出すのは、先ほどのマージジルマの発言だ。

こんなにもかわいいわたしに手を出さないなんて、師匠はどうかしてるんじゃないだろうか。やはり胸か、胸なのか。でもそればっかりはどうしようもない。そもそもこんなにも素晴らしいわたしを、胸が小さいだけであり得ないだなんて。

悲しみを通り越して、なんだかイライラしてきた。

そうだ、わたしの価値は胸のサイズで変わる事はない。むしろ悪いのはおバカな師匠だ。なんて。

キライになるとまではいかなかったが、悪人には天罰をとは思ったピーリカは。

両手を構え、最大級の八つ当たりをぶっ放す。


「ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ……師匠なんか、師匠なんかっ……何でもいいから不幸になっちゃえーっ!」


ピーリカの足元から大きく広がった魔法陣。予想外の出来事に、ピーリカは焦りながら魔法陣を見つめる。


「えっ、えっ!? 何でわたしの周りで光るですか!」


師匠を呪ったはずなのに、と困惑するピーリカの体を、突如魔法陣の中から出てきた煙がボムンっ、と音を立てて包み込んだ。


「きゃあーーっ!?」


しばらくして煙が消えると、ピーリカは咳込みながら周囲を見渡す。


「けほん、こほんっ……全く、どうなってやがるですか。まさかかわいいわたしに傷でもついたんじゃ……え?」


彼女は自身の体を見て驚いた。ぽにゅん、ぷにゅん。すごく大きいとは言えないが、まぁまぁ揉める。手や足はスラっと伸びていて、髪の毛先は腰元に当たる。

今脱衣所に居た者はただ一人。

ピーリカ・リララ、158センチver.である。

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