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弟子、ゴロンゴロン

髪を乾かし終え、呪いの解けた小さなピーリカは師匠に対し、ある不安を口にした。

 

「まさかわたしのお部屋もないとか言わないでしょうね」

「ないに決まってるだろ。基本物置になってる。大きなピーリカが泊りに来た時用に服とか入れる棚は置いてあるけどな」

「そんな! わたしのベッドは!?」

「あれ腐ったから捨てた」

「じゃあどこで寝ろって言うんですか!」


小さな彼女の問いに、大きなピーリカは床を指さす。


「仕方ない、床で寝なさい」

「床で寝るなんて可哀そうでしょう! 風邪でも引いたらどうするですか!」

「確かにわたしはデリケートですけど、一日くらい大丈夫ですよ。天才ですから」

「天才だからこそ風邪を引くんです。というか、それであれば貴様はどこで寝るんですか? お泊りするのでしょう?」

「師匠と一緒に寝るに決まってるじゃないですか」

「なっ、じゃ、じゃあわたしも一緒に寝てやるです」

「よく考えなさいわたし、師匠のベッドはおっぱいの大きい者しか入れないのですよ」


確かに師匠はいつもそう言っている。そう思った小さな弟子は師匠に偉そうな態度で頼み込んだ。


「師匠、やっぱり今すぐわたしのおっぱいも大きくしろです!」

「出来る訳ないだろ!」

「じゃあ師匠が床で寝ろですよ」

「何で俺が床で寝なきゃなんだ。大丈夫だって、俺のベッドも一回りデカいのに買い替えたし、チビリカも小さいから。三人で寝れるだろ」

「……わたしおっぱい大きくなくても入っていいですか?」

「特別な」


いつでも入れるとは言わないマージジルマ。味を占めた弟子が頻繁に潜り込んでくる可能性があるからだ。

最も、幼いピーリカがすぐさまその可能性を思いつく事はないのだが。彼女は今だけでも一緒に寝れる事に喜んでいた。特別という響きに対しても、悪い気がしない。今後の事を深く考える余裕など全くないのである。

だがいつも通り、捻くれた態度は取る。


「仕方がない。本当は師匠と一緒に寝るのなんて嫌なんですけど、わたしが風邪を引いたらいけないので一緒に寝てやります。とりあえずわたしが真ん中です」


しかし大人になった彼女はひねくれずに、素直さを前面に出した。


「待ちなさい。それだとわたしが師匠の隣で寝れないでしょう」

「寝なければいいじゃないですか。わたしは真ん中じゃなきゃいけないんですよ。だって、もし泥棒が来たらどうするんですか。わたしが端っこの場合、簡単に誘拐されちゃいますよ。かわいいから。真ん中だったら誘拐しにくいでしょうし、隣に師匠がいれば安心出来ます。一応代表ですからね」

「何を言いますか。わたしだって可愛いんですよ。加えて美しいのですから、わたしが端っこの方が危険です。私が真ん中です」


マージジルマは呆れていた。こいつら自分の顔の良さなら誘拐されて当然だと思ってやがる、と。

だが子供の方に言っても聞く耳を持たないのは分かっていた師匠は、辛うじて言う事を聞きそうな大人の方に注意を入れる。


「ピーリカ、大人げない」

「う、ぐ、だ、だって」

「今日は我慢しろよ。お前はこれから、いつだって寝れるだろ」

「じゃあ師匠は泥棒が入って来てわたしが誘拐されてもいいと言うですか!」

「そんな奴そうそう入って来ねーし、仮に入って来たとしても助けてやっから。安心して寝ろ」


師匠の言葉を聞いて、二人のピーリカは顔を見合わせる。どちらの彼女も、嬉しさを隠しきれていない。


「聞きましたか過去のわたし、師匠が守ってくれるんですって」

「聞きましたよ未来のわたし。頼りにはなりませんが、まぁ、少しは期待してやりましょうか」


言うんじゃなかった、とマージジルマは後悔している。

小さいピーリカは彼の心情など気にせず地下室へと向かい、大きなベッドに潜りこむ。ふんわり柔らかな布団は、ほんのりと彼女の好いている匂いがする。


「ほれ、もうちょっと詰めろ」


そう言うとマージジルマは小さなピーリカの右側に潜り込む。彼女にとって夢にまでみた光景。この時間がずっと続けばいいのに、なんて思いながらも口にはしない。


「そうですよ。特等席を得た事、光栄に思いなさい」


そう言うと大きなピーリカは小さなピーリカの左側に潜り込む。これは別に小さな彼女にとって夢にも思わなかった光景。未来のわたし邪魔だな。なんて思いながらも、余計な事を言うと師匠の隣を取られてしまうかもしれないので口にはしない。

大きなピーリカは優しく微笑んだ。


「おぉ、温か。不服だと思ってはいましたけど、家族みたいですね。悪くないです」


彼女も過去の自分が未来の自分を邪魔だと思っている事を理解しているが、余計な事を言うと師匠に嫌われかねないと分かっているので口にはしない。だが三人で寝てみた感想だけは言葉にした。

だが小さなピーリカにとってその感想は、理解しがたいものであったようだ。


「貴様がママとか不服です」

「何を言いますか。かなり光栄な事でしょうに。いずれはわたしもママみたいになるですからね」

「じゃあ、師匠もパパみたいになるですか?」

「それは……」

「「やだぁ……」」


マージジルマは本気で嫌がってるピーリカ達に「ならないから早く寝ろ」と嘆く。

小さなピーリカは瞳を閉じて、何だかんだ幸せに思いながらまどろみの中へと落ちていく。


「おやすみですよ師匠。ついでに、未来のわたしも」

「わたしをついでにするなです。早く寝やがれです」


しばらくして静かになった部屋の中、大きなピーリカは天井を見つめながら目を瞑っていたマージジルマに話しかける。


「師匠も寝ちゃいました?」

「……何だよ」


マージジルマは彼女の問いかけに答えるように、体を寝かせたまま目を開いた。


「別に用はないですけど。まだわたしは眠くないので、暇つぶしに自慢してやろうかなと」

「人を暇つぶしにすんなよ。で、何を自慢する気だ」

「ご覧ください、過去のわたしの寝顔がとても愛らしい」

「よく自慢できたな」

「だって自分の寝顔は普通見れるものじゃないですし」

「俺からしたらお前の寝顔なんてもう何回も見てるもんだからな」

「おや、それは少々恥ずかしいですね」

「お前、もっと恥ずかしい事散々やらかしてきただろうが」

「まぁ今となってはそうかもしれませんが……そんなわたしの事も、嫌いじゃないでしょう?」

「……ま、あれだ。トイレットペーパーの次くらいに、ってやつだ」


右腕を伸ばしたマージジルマは小さなピーリカを間に挟んだまま、恋人の頭を撫でる。にんまり笑った大きなピーリカは師匠の方に体を向けて。


「師匠、好きですよ」


素直に好意の言葉を口にする。

マージジルマはパッと彼女から手を離し、背を向ける。


「あーはいはい、俺も好き」


暗い部屋の中では見ずらいが、マージジルマは耳まで真っ赤になってた。しれっと言ったように見せかけて、結構勇気を持って言ったようだ。

直後に腰上でズシりと感じた重み。見れば自分の恋人が、馬乗り状態で自分の上に跨っている。

マージジルマは顔を赤くさせたまま、隣で寝ているチビに考慮して小声で怒る。


「おい何考えてんだ、チビリカいるだろ! 降りろ!」

「仕方ないでしょう。師匠から好きと言われる事なんて滅多にないんですから」

「そうポンポン言えるかよ」

「わたしは言って欲しいのですよ」

「本当にお前、そこら辺に関しては変わったな。今転魔病になったら昔みたいに俺の事好きじゃねぇだ何だって言うんかな。チビリカみたいにさ。あぁいや、偉そうなところは変わってねーけど」

「わたしを変えたのは師匠ですよ。多分これからも」

「……そうかよ」


漂い出した甘い雰囲気。

その時だ。

寝ていたはずの小さいピーリカが、ガバッと起き上がる。


「お、っといれに行きます!」


それだけ言うと全身を真っ赤にさせた幼き少女は、ベッドから飛び降りて。部屋からも全速力で逃げ出した。

その言動に覚えのある師匠は元弟子へ問う。


「あれ起きてたのか?」

「そもそも完全には寝てなかったですよ。それが話し声で完全に起きちゃいまして」

「お前それ覚えてて俺に話しかけて来たのか?」

「えぇまぁ。忘れる訳ないですよね。というか、こっちの印象が強烈すぎて頭乾かしてもらうっていう素敵な出来事を忘れちゃったんですよ。謝ってほしいくらいです」

「絶対謝らねぇ」

「そうだ師匠、お願いがあります」



 その頃、螺旋階段を駆け上り廊下へと出た小さいピーリカ。ぺたりと廊下に座り込んだかと思えば、寝転んでうつ伏せ状態になる。そして。


「う、ぅ、う、うわぁーーあー-?!」 


叫びながら床上を左右に転がる。時々転がるのは止めて、足を上下にバタバタさせて。そしてまた横へゴロンゴロン。その繰り返し。

目の前で起きた出来事に、気持ちの整理がつかない。

やはり未来のわたし達は恋人になるんだ。それはいい、それは嬉しい。だが一体何を食べればそんな関係になれるのか。結果より先に過程が知りたい。

何でだーー! 誰か教えろーー! 教えてーー!

そう叫びたかったが、叫ぶわけにもいかず。

しばらくの間ゴロンゴロンしていたが、ふと今この間にも未来の自分達が二人きりである事を思い出し。

彼女は焦った。

もしかしたら、まさかとは思うが。

ちゅーくらいしてるのではなかろうか!? と。

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