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弟子、頭を乾かしてもらう

 気まずさを顔に出しつつも、マージジルマは答えた。


「それはあれだ、その内分かる」

「その内っていつですか」

「お前が俺と同じ身長になった時」


小さいピーリカは不服だった。自分と師匠の身長差は、まだニ十センチ以上も差があるというのに。一体どのくらいの時間がかかるのだろうか、と。

でもおっぱいさえ大きくなれば、師匠に好きになってもらえる。それなら大人しく待つしかないのか。いや待て、方法さえ分かれば別に師匠に大きくしてもらわなくても、自分で大きく出来るかもしれない。何故ならわたしは天才なのだから。

そう思った小さなピーリカは、右手をパーにして師匠へ向ける。


「ヒントよこせ下さい」

「ヒントはない。心配しなくともデカくしてやっから、今はそんなに心配すんな」

「ケチ!」


デリカシーはないが子供に言って良い事と悪い事の区別は一応つく男、マージジルマ・ジドラ。

大きい方のピーリカは猫を追い払うように、小さいピーリカをシッシッとあしらう。


「師匠がケチなのは昔からでしょう。いいから一人で入れです」

「ケチなのは知ってますけど、それと貴様のおっぱいについては別問題です。本当に本物なのか、見ない事には信用出来ません。さぁ、一緒に入るですよ」


困った顔を見せた大きいピーリカは、師匠に相談を持ちかける。


「これ見せない方が、というか言わない方がいいですよね? それとも、言ってしまった方があの事件は起こりませんか?」

「あの事件がなければ俺お前とこんな風になってねぇけど」

「そうですか。じゃあやっぱり言わないでおきましょう。下手な事言って、師匠が死んだら困るですし」


師匠が死んだら、なんて恐ろしい言葉に小さなピーリカは目を見開いて問い質す。


「何を隠してるですか?」

「その内分かるですよ」

「今知りたいです。言えです」

「言いません。そうだ、師匠と入れです」


未来の自分のとんでもない提案に、もうピーリカの頭から師匠の死なんてものは消えた。


「なっ、そんな事出来る訳ないでしょう!」

「もう師匠には隠すものは何もないですし。将来的には一緒に入るようになるですから、今入ったところで何ら問題ないですよ」

「大ありに決まってるでしょう!? 一緒に入るなんて破廉恥な! それだったら急いででも一人で入るですもん! 師匠、服!」

「仕方ない。師匠、過去のわたしへ、服」


「貸して下さいくらい言え」と言いながらも、マージジルマは小さな彼女にも着れるサイズの服を取りに行く。しばらくして折りたたまれたTシャツを持って来た彼は、小さいピーリカの頭の上へ乗せた。


「流石にパンツは貸しても意味ないだろ。また今履いてるのでも履いてろ」

「オシャレ魔女的にそれはアウトです。魔法でお店のものと交換するですから、覗くなですよ。イチャイチャもするな!」


彼女の中で一度身に着けたものを他人にくれてやるというのは破廉恥ではないというのだろうか?

小さなピーリカは頭の上にシャツを乗せたままお風呂場へと向かった。


 自分の世界とほぼほぼ変わらなかった脱衣所。小さなピーリカは猛スピードで服を脱ぎ、勢いよく風呂場の扉を開ける。未来の自分が言っていたように、リフォーム工事をしたようで。小さい彼女の体であればバタ足くらい出来るんじゃないかと思う程大きくなったお風呂は、それはそれは魅力的だった。だが今の彼女はそれどころではない。大きいお風呂より師匠の事が大事なのである。

いつもなら湯舟にも浸かるが、今日はもうシャワーでいい! と、急ぎながらも丁寧に髪の毛と体を洗い。


「ラリルレリーラ・ラ・ロリ―ラっ」


即座に出て、身に着けていた下着とどこかの店にあったであろうお子様ぱんつを魔法で交換。ワンポイントのお花柄ぱんつを履いて、上に師匠から借りたTシャツを着る。ふわっと香ったよく知る匂いに「師匠臭い」と言いながらも笑みを浮かべている。

だがすぐさま「喜んでる場合じゃないんでした!」と今居る現状を思い出し。首にタオルをかけただけ、頭もまともに乾かさずリビングへと戻った。


「戻りまし……ほっ、ほぁあああああああ! な、何してるですか!」

「有言実行、チューしてやろうかと」

「するなです、やめろです、いい加減にしやがれですよーーっ!」


大きなピーリカはソファの上に座る師匠に向かい合うように抱きつき、顔を近づけている。マージジルマは少し頬を赤らめながらも、恋人から目線を反らす。


「だから言ったじゃねぇか」

「いいんですよ。だって過去のわたしは師匠と一緒に住んでるんですよ? わたしは一緒に住んでないんですもん。これくらい許してほしいものです」


悲しそうな顔をした恋人を見て、マージジルマはため息を吐いた。


「何とかしてまた一緒に住めるようにしてやっから。もう少し我慢してくれ」


マージジルマの言葉に、未来のピーリカはにっこりと微笑んだ。

その表情のまま師匠の上から降りて、小さいピーリカに顔を向ける。そして両手を構え、口を開いた。


「ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ」

「わぁー-!?」


光る魔法陣に包まれた小さいピーリカは、両手を前に伸ばしたポーズのまま固まってしまった。

ほほほ、と笑った大きなピーリカ。偉そうな態度で、過去の自分を見下す。


「逆に師匠に手を出されては困りますからね。そのまま固まってなさい」

「酷いじゃないですか! わたしは固まっててもかわいいですが動いてるともっとかわいいんですよ!」

「知ってますよ。だから喋れるようにはしてあげたじゃないですか。パパなんか石にしてきたから喋れもしないんですよ。それよりは幸せでしょう」

「不幸ですよ!」

「知りませんよ。では師匠、少し待っててくださいね。何なら覗いても構いません」


マージジルマが「俺が構うわ」と言う一方、小さいピーリカは「しんじられない」と驚いていた。覗いてもいいだなんて自分が言うとは思えない。そんな事を言う奴は痴女、ピピルピくらいだ。小さなピーリカは思った事を口にする。


「貴様! さては変身してわたしに見せかけた痴女なのでは!?」

「失礼な。わたしはわたしですし、師匠相手にしか見せませんよ!」


そう怒りの声を上げながらも、大きなピーリカもお風呂場へと向かう。

じゃあ未来のわたしも痴女になるというのか? なんて考える小さなピーリカの髪の先から、水がポタリと垂れ落ちた。

濡れた床を見たマージジルマは、ピーリカの首にかけられたタオルを手に取る。


「何だよ、頭も乾かさずに来たのか? お前らしくない」

「だって!」

「そんなに俺の事好きかよ。未来の自分にでも取られたくないってか?」

「ちっ、ちげーます!」

「あっそ」

 

弟子が素直でない事くらいもう十分理解しているマージジルマは、濡れた彼女の髪にタオルを被せて左右に動かす。乱雑な拭かれ方に小さなピーリカは頬を膨らませながらも。


「ふ、拭くならもう少し優しく拭いて下さい。ゴシゴシすると髪が痛むんですよ」


ちょっとだけ幸せを感じていた。

彼女の髪がある程度乾ききった所で、大きなピーリカが戻って来た。彼女は自分で髪を乾かしてきたようで、長い髪の先はサラサラと揺れ動く。


「あっ! 何してるんですか、ズルいじゃないですか!」

「このままだと風邪ひくだろ。そうしたらお前、自分で自分の事可哀そうとか言い出すだろ」

「そりゃ可哀そうですけど、わたしだったら何とか治せますもん!」

「治せるからって風邪引かすな」

「そういえばわたしも昔乾かしてもらった気がしますね。すっかり忘れてました。悔しいので今度お風呂に入った時は乾かさずに出てきますかね。それか風邪を引いて師匠に看病してもらうです」

「風邪を引こうとするな」


自分自身に嫉妬する大きなピーリカはマージジルマに呆れられていた。

だが小さなピーリカには、考える事がほぼ同じだ、やっぱり未来のわたしなのか? と思われていたのだった。

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