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弟子、ガーディアンの存在を知る

「わたしの世界ではまだパンプル様が現役ですねぇ。ついでに言うとマハリク様も現役ですよ」

「あのババアまだ生きてんのか」


眉は八の字に曲げていたものの、口角は上がっていたマージジルマ。マハリクの事は心の底から嫌いという訳ではないらしい。

そんな彼の元に、椅子から降りたエトワールが近寄る。パフェを飲み込み、空っぽした口を開いた。


「マージジルマ様。お兄様達が騒がしくした事は私からも謝りますが、殴るのは少々やり過ぎかと」

「そんな事ない。俺は適した罰を与えたと判断している」


何とか痛みに耐えた兄弟はゆっくりと起き上がり、マージジルマにクレームを入れる。


「酷いやマージジルマ様! 僕は妹を助けに来ただけなのに!」

「俺だってエト可愛がってただけっすよ。何で殴られなきゃいけないんすか!」


兄弟は怒りの矛先が変わった事により、いつも通りカッコつけた標準語で喋る。

だがマージジルマも怯む事なく「うるさい! 店の中で騒ぐな!」と最もらしい事を言い黙らせた。

その様子を見ていたミューゼは、関心そうにマージジルマを見つめる。


「すっごい。行動はアレだけど、ちゃんと二人を止めたや。まぁマージジルマ様っていうか黒の魔法使いの仕事って、実は警察みたいなもんですもんね。確かに殴るのはやり過ぎかもしれないけど、注意自体は間違ってないし、仕事の内に入るんだよなぁ。もし日本でそんな警察いたらすぐクビでしょうけど、ここファンタジーの世界ですしね! 何も問題ないですね!」

「お前は何を言ってるんだ?」

「あっ、個人的な話です。お気になさらず」


疑いの目で見てくるマージジルマの視線を遮るべく、ミューゼは両手で顔を隠した。

そんなミューゼをよく見るべく、エトワールは眼鏡の淵をクイっと上げた。


「マージジルマ様、彼女は?」

「未来から来たシャバの弟子だとよ」

「……未来からだなんて、本当にそんな事があり得るのですか?」

「ミューゼを過去へやって来させたのは、ピーリカだそうだ」


マージジルマの言葉にエトワールだけでなくピエロ兄弟も揃って「あぁ……」と言い納得した様子を見せた。彼女なら何かをやらかしてもおかしくない、そう言いたいようだ。


「何です貴様ら! わたしの事バカにしてないですか!?」


いくらピーリカが怒っても、今の彼らの興味はミューゼにあり。シーララはミューゼの前にしゃがみ込み、優しく微笑む。それが兄らしさだと思っている。


「試しに何か未来っぽい事言ってみてよ。将来の僕、何してる?」

「あ、シーララさんは弟子入りしましたよ」

「……えっ?」


さらりと言われた自分の未来が信じられずに、シーララは目を点にした。

ポップルも信じられないといった様子で弟を見る。


「なんやシーララ、今は俺より魔法使わへんのに継ぐ気になったんか」

「知らないよ。まぁ魔法嫌いな訳じゃないし、継ぐ可能性は否定できないけど……いまいちピンとこないよね」


兄弟の会話に、ミューゼはすぐさま首を左右に振った。


「あぁ違います、違います。黄の魔法使い代表にじゃないです。黄の代表の弟子はまだ決まってないです。ポップルさんが『誰もならなかったらなるけど面倒そうだから他に立候補する人が出たら遠慮なく譲る』とは言ってますけど」


今度は答えに納得したのか、兄弟は揃って頷く。


「そうだろうね。俺魔法好きだけど黄の魔法に執着してないもん」

「だとしたら僕は何なのさ。貴の代表じゃないって、なら他に誰の……あ、イザちゃん?」


シーララが思い浮かべた青の魔法使い代表、イザティ。親が魔法使い代表だったという接点があり彼女とは幼い頃よく遊んでいたという。だがシーララもポップルも、再び納得出来ないといった顔をしている。


「今は様つけて呼ばなあかんって。それよかシーララ青の魔法使えへんやん」

「青どころか黄以外使えないよ。それ本当に僕?」


ミューゼはすぐさま否定の顔を見せた。


「いやシーララさんが弟子入りしたの魔法使いにじゃないですよ」

「それ先に言ってよ。じゃあ誰に弟子入りしたのさ」

「ピーリカ様の父親のパメルク様です」


ピーリカは信じられないといった顔をしていた。逆にシーララは、ぱぁっと顔を明るくさせる。


「何言うてくれてんねん……それがいい、それしか考えられない、そうしよ!」


エトワールを抱きかかえたシーララは、颯爽とお店を出て行った。ポップルは慌てて店員にお金を渡し、ダッシュして弟を追いかける。ミューゼが「あっ、ちょっと」と止めようとしたがポップルの目にミューゼの姿はもう映ってなかった。

 

「待たんかいシーララ! さりげなくエト誘拐ってくな!」

 

店から出て行った兄弟を見て、ミューゼはやれやれと手を広げた。


「あぁ行っちゃった。聞いた話だと、この後シーララさんに弟子入り志願されたパメルク様は、コイツうちの娘と距離を縮めるために志願してきてるんじゃって、とんでも勘違いして暴れたらしいんですよね。追いついたポップルさんも合わせて、マジ大乱闘巻き込まれブラザーズって感じになったらしいです。シスターは置いてけぼり状況で立ってたって」


いくら話を聞いても、ピーリカは未だシーララの気持ちを理解出来ずにいる。


「パパも馬鹿ですがそんな奴に弟子入りする三男も馬鹿ですね。でもパパ、弟子にしたんでしょう?」

「えぇ。それから三年くらいは追い返してたみたいなんですけど」

「三男もしぶといですね」

「ある時パメルクさんの勘違いを知ったウラナ君が」

「またその男ですか!」

「『シーララさん達にはエトワールさんがいるんです! ピーリカ嬢の事は僕が責任もって幸せにするので大丈夫です!』とか言ったせいで、ウラナ君がビンタされるようにはなりましたがシーララさんは無事弟子入りを認めてもらえた感じです」

「……待ちなさい。そのウラナ君というのはわたしの何なんです??」

「自称ガーディアンです」


ピーリカは考えた。

わたしはかわいいので将来ガーディアンがついてもおかしくはない。ウラナとかいうのがガーディアンであれば自分の横にいるのも納得はいく。だが出来ればわたしは師匠に守ってもらいたい。でもやっぱりそんな事言えないし。一体どうすればいいのだろうか、なんて。

そんな彼女の隣に立ったマージジルマは、ピーリカを指さしながらミューゼに問う。


「もしかしてウラナってやつ、ピーリカの事好きなんじゃないのか?」

「なんて事を聞いてやがるですか!」


一応いつも通りの反応をする事が出来たピーリカだが、マージジルマに動揺している様子が一切ない事にも憤りを感じた。わたしを好きかもしれない人間の話を聞いたのだから、もう少し悔しそうだったり動揺した顔をしてほしい、と。

ミューゼは乾いた笑みを浮かべながらマージジルマの質問に答える。


「マージジルマ様の事も好きだって言ってました」

「それはよく分からんが、そいつの事に関して未来の俺は何か言ってるのか?」


ミューゼは一瞬だけ目線を外して、すぐさま彼の方へ戻す。


「んー、特に何も言ってませんね」


そんなミューゼの目線の動きも、マージジルマは見逃さなかった。だが弟子のいる手前、今はまだ何も問い質さない。

一方、彼女の答えを聞いたピーリカは頬を膨らませた。好意がバレないように、怒りをぶつける。


「何で師匠は何も言わないですか。かわいい弟子にストーカーがついたら追い返すのが師匠の役目でしょう!」

「知らん」


マージジルマはピーリカの顔を見ることなく答えた。今は弟子よりもミューゼを警戒している。

彼に見られていると気づいていたミューゼはその視線を外すため、両手を胸の前で合わせ。にっこり笑って、おねだりポーズ。


「そんな事より、次の恋愛話をお聞かせ下さいな。まともな恋愛話聞けてないですけど。むしろこっちが喋ってますけど」


一瞬、ピーリカは口をつむいだ。下手に喋り自分の想いを表に出す事を恐れたためだ。だがこのまま黙っていては師匠が余計な事を言うかもしれない。

そう思ったピーリカは話を誤魔化すように、次の提案を口にした。


「次ですか、そうですね。あのバズーカ女の所にでも行くですか?」

「イザティ様はこの時代で聞かずとも、未来で話聞けるんで大丈夫です」

「そうですか。後は三男達の親か、緑のばーさん?」

「ピエロ夫婦は未来でも喧嘩とイチャラブを繰り返してるから過去がどんなだったかなんて想像つくし、マハリク様に今更恋愛事情を聞き出しても面白くもないですよぉ。だったら……白の魔法使い代表、テクマ様のところに行きたいですねっ」

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