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弟子、女の子が分からない

「何ですか例えばって! そんなのないに決まってるでしょう、このあんぽんたん! そんな事よりほら、他の奴らの恋愛話でも聞きに行くですよ。そうだ、エトワールの所に行きましょう。あれから会ってませんからね、もう元気になったか確かめに行くです!」


下手くそな照れ隠しである。

ピーリカは再びほうきを召喚し、ミューゼを後ろに乗せて飛び立った。そしてマージジルマもほうきを召喚し、彼女達の後を追う。


「ついてこないで下さい! このストーカー!」

「誰がストーカーだ!」


頑張ってスピードを上げたピーリカだが、結局師匠を追い払う事は出来なかった。



『この先黄の領土。言葉は独特』



黄の領土へ入ったと同時に、ピーリカは人通りの多い街中をもの凄い剣幕で走る男を見つけた。

前髪をカチューシャで上げ、露わになっている額に伝う汗。熱さを軽減させるためか、着ているTシャツの袖をめくり肩を出している。それ程走り続けているらしい。

彼は黄の代表であるパンプルの息子、シーララ・ピエロである。


「おーい三男、わたしのために止まりやがれです。そして恋愛事情とやらを話せです」


偉そうな声にシーララは足を止め、額の汗をぬぐいながらピーリカのいる空を見上げた。


「その感じはピーリカ嬢も転魔病治ったね? 仕方ないけど、ちょっと勿体ないね」

「勿体ないって何ですか。わたしが元気なんですよ、素晴らしい事でしょう?」

「本当に勿体ないね」

「何が言いたいんですか!」

「あぁもう、悪いけど今ピーリカ嬢と遊んでる場合じゃないんだよ。うちのバカ兄がエト誘拐したの。助けに行かないと」

「兄って次男ですか? 誘拐は悪い事ですね。わたしも助けてやるです」

「うん。そうして。ポプ兄に向かって爆弾とか投げつけて」

「任せなさい」


ピーリカは自信満々な様子で胸をポンと叩く。頼りにさせてとても喜んでいた。

シーララは真正面を指さしながら再び走り出した。 


「じゃあこっち! 多分パフェ食べに行ったから!」

「パフェ……」


思い出してしまったのは、黄の領土でパフェを食べた時の事。その後パンプルに攻撃し、師匠に撫でられ褒められた記憶。

彼女の反応を見たミューゼは興味津々と言った様子でピーリカに声をかける。


「ピーリカ様、パフェで何かあったんですか?」

「な、内緒です。それより行きましょう!」


ピーリカは本音を言わぬままシーララの後を追った。マージジルマを追い払うまでは対処しきれず、仕方なくついてこさせた。


          ***


 高級そうなレストランの中、部屋の中央に置かれた四角いテーブル席に座る男女がいた。

眼鏡をかけており顔立ちも大人びて見える少女は、胸元に茶色いリボンが巻かれた若草色のワンピースを着ていた。彼女の名はエトワール・シュテルン。緑の魔法使いの弟子である。

その向かい側に座っているのは、シーララによく似た顔で黄色い長髪を細いリボンで束ねた青年。白いシャツに深紅色のネクタイ、灰色チェック柄のズボンは自身と弟が通う学び舎の制服だった。彼の名はポップル・ピエロ。シーララの言う誘拐犯だ。

彼女達の斜め前に置かれた、巨大なパフェ。スーパーウルトラハイパーミラクルとってもとってもロマンチックパフェとかいうふざけた名前のパフェは、とてもじゃないが少女一人で食べきれる量ではない。だがポップルにとってはそれも計画通り。

エトワールは持ち手が長めのスプーンでパフェをすくい、ポップルの前へ腕を伸ばす。


「で、ではポップルお兄様……口を開けて下さい」

「エト……教えたやろ? その後なんて言うん?」

「えっと、その、お兄様……あーん」

「ん」


エトワールは言われるがままスプーンを口元に運ぶ。目を閉じたポップルは、口を大きく開いた。

彼の口の中にスプーンの先を入れたエトワールは、ポップルが口を閉じたと同時にスプーンを抜き取り。少し頬を染めた。


「お兄様、やはり恥ずかしいのですが。お兄様は本当にこの行動が嬉しいのですか?」

「めっちゃ嬉しいに決まっとるやん。食べさせてもらう事によって、その分俺は体力を使わなくて済む。つまり効率的なんよ。加えて、人に食べさせてあげられるっちゅう妹の成長を見れる。これ以上幸せな事が兄にあるかいな」

「なるほど。なら仕方ありませんね」

「せやろ。じゃ、次はエトの番なぁ。はい、あーんしたって」


テーブルの上、自身の前に置かれていた持ち手の長いスプーンを手に取った兄に対しエトワールは疑問を抱いた。


「お待ちくださいお兄様、それでは私で温存した体力が無駄になりませんか?」

「無駄とは何やの。むしろここで使わんでいつ使うん」

「少なくとも私のために使う事はありません。そうです、もっと国のために使って下さい」

「分かった、考え方を変えよう。エトは緑の魔法使いになるんやろ?」

「はい。そのために日々勉強に励んでおります」

「せやんなぁ。エトはお利口さんやもんな」

「ありがとうございます」


エトワールは座ったまま深々と頭を下げる。そんな生真面目な彼女の性格を理解した上で、ポップルは笑みを浮かべていた。


「でもなぁエト、勉強すると糖分が足りなくなるやろ?」

「そうですね。お師匠様からも適度に糖分を取るようにと言われ、ここに来ました」

「エトが接種した糖分は、エトの体の一部になるやん。次期緑の代表の体を作る手伝いをする事が、無駄な事や言うんか?」

「それは……無駄ではありませんね。むしろ国のためです!」


顔を上げたエトワールの表情は真剣そのもの。ポップルは笑みを絶やさない。さも当たり前かのように彼女を見つめる。


「せやろ?」

「えぇ。流石はポップルお兄様です。では早速、いただいても宜しいでしょうか?」

「えぇよ。いっぱいお食べ」


エトワールは耳の後ろの髪が邪魔にならないように、右手で押さえながら口を開いた。兄が閉じていたからという理由で、彼と同じように目を閉じる。

ポップルはわざと大き目にすくい、エトワールの口の中に入れる。口いっぱいに入れられた甘さは、あまりにも大きすぎて。エトワールは飲み込めずに、ゆっくりと租借をする。

彼女の口からスプーンを抜き紙ナプキンの上に置いたポップルは、しらじらしく「あぁ堪忍な。おれエトより下手みたいやわ」なんて言い。今度はスプーンを持たずに手を伸ばし、エトワールの口横についた生クリームを指で拭う。その指を自身の口元に持って行き、舐める。絶やさずにいた笑みを消し、ボソリと呟いた。


「はー……えっろい……」

「こんのクソ兄、えーかげんにせぇっ!」


卑しい目で妹を見る兄を蹴り飛ばした弟。怒りで気が回らず、普段のカッコつけた話し方ではなく昔から馴染みのある言葉で話す。床に両手をついたポップルは急いで起き上がり、シーララの胸倉を掴んだ。


「お兄様に対して何さらすねん!」

「何やないわ、妹を何ちゅう目で見とるん!」

「愛でてしかないわボケぇ!」

「愛で方に問題ある言うとるんじゃ!」


人目を気にせず喧嘩をし始める二人。一見シーララの方がまともな発言をしているように見えるが、実の妹ではない事を考えると彼もどうかしていた。

店の店員はものすごく迷惑そうな顔で彼らを見ている。後から入って来た師弟とミューゼも、呆れた様子だった。


「変わりませんねぇ、あの兄弟」

「まさか未来でもエトワールを取り合ってるんですか?」

「はい。強いて言うならシーララさんがエトワールさんを見る目は変わりましたけどねー」

「見る目? 何を変える事が?」

「普通に女の子として見始めたって事ですよ。だから今まで通り触っちゃいけないんじゃとか思ってるっぽいです。でもポップルさんは今現在、この時代の時点で既に女の子として見てるので。シスコン、ロリコンならぬエトコン。いやコンプレックスには思ってなさそう。とにかく、人の目気にせずエトワールさんにベッタベッタするポップルさんにシーララさんが怒って喧嘩する感じです」

「貴様何を言ってやがるですか。エトワールは今も女の子ですよ?」

「そういう事じゃあないんですよ。まぁ、その内分かりますって」


ピーリカは混乱していた。どう見てもエトワールは女の子なのに。それ以外に意味なんてあるのだろうか、と。

だがピーリカの混乱など気にする事なく兄弟は喧嘩し続けた。


「ばあちゃんの事メロンで買収までしおって!」

「せやなぁ。賢くってごめんなぁ?」

「うっわめっちゃムカつく!」


うるせぇな、そう思ったマージジルマは一発づつ兄弟を殴った。同僚の息子達であろうと関係ない。あまりの痛さにその場へうずくまった二人。

罪悪感など一切ないマージジルマは彼らを指さし、ミューゼに問う。


「そうだミューゼ、あの二人のどっちかが黄の代表になったりすんのか?」

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