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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~兄と野球と転魔病編~
133/251

弟子、収入を得る

 半壊している学び舎で、幸いにも無事だった部屋の中。急に怪我や病気になった者が使用するためのその部屋には、白いベッドが並んでいた。内一つの上に寝かされていたエトワールは、未だに目を回している。

 

「は? 疲れたら早く寝ると思った!? ド阿呆、熱ある子が無理に動いたら熱上がるだけに決まっとるやろ!」


学び舎側から連絡を受け駆けつけた母、プリコにより息子達は床上で正座をさせられていた。その横には父であるパンプルとエトワールの師匠、マハリクが立っている。ちなみに学び舎で自由を奪われていた者達は皆自由になり、それぞれ帰った。

ピーリカも隣のベッドで眠るように言われ横になってはいるものの、まだ眠くないのか足をパタパタさせていた。

息子達は反省よりもエトワールへの心配を見せつける。

 

「エト死んじゃう!?」

「エト死ぬん嫌なんやけど!」


マハリクはエトワールの顔を見ながら彼女の容体を説明する。

 

「安心しな、持ってきた薬草が効いたようだ。これでも顔色は良くなってる。命が危ういという程ではないね」


二人は「そっか」「なら良かった」と安堵の声を上げた。だがそれも一瞬。


「だがもっと早くエトワールを寝かせていれば早く治ったんだよ、それなのに野球なんて動き回るような事をさせて! 反省しな!」

 

一喝。驚いたピーリカの肩は大きく跳ね上がった。年寄に怒られる事を恐れているピーリカ。いつもなら自分の方が偉いと強気な態度を取っているが、今日は素直に怯えた。それどころか恐怖のあまり、声を出して泣く。

ピーリカを怒ったつもりのなかったマハリクは戸惑った。

 

「なんでピーリカが泣くんだい、今怒っているのはピーリカにじゃな……ピーリカが泣いた!?」


ピーリカの事を反省しないクソガキだと思っているマハリクは、彼女が泣いたという事実を受け止めきれずにいる。

同じようにパンプルも驚きを隠せない。


「転魔病でなけりゃワイらが見る事なかったやろな。ほらピーリカ、怖ないでー」


驚きはしたものの三人の子を持つ父親、子供の扱いは慣れている。パンプルはふっくらとした大きな手でピーリカの頭を撫でた。

パンプルの手の温かさに、ピーリカはスンスンと鼻を鳴らし。わたしのパパとは大違いだ、なんて思っていた。

マハリクに怒られたシーララは眉を吊り上げ、反論。


「いや元はと言えばエトを逃がしたマハリクばあちゃんにもちょっとは責任あると思う!」

「なんじゃと!」

「エトがどこ行ったか分からなくてうちから連絡行くまでずっと探してたんでしょ。もうせめてエトとばあちゃんは僕らと一緒に暮らそう。兄妹離れて暮らすなんて寂しいし、ばあちゃんだって歳なんだしさ。その方が皆でエトの事見れるじゃん。うちオトンが意味もなく増築したおかげで部屋余ってるし、エトの親だってその方が楽なんじゃない!?」

「誰が歳だい! ワシはまだ若いんだ、心配なんかされたくないよ。基本的に手を借りるのはエトワールの両親からだけで十分だ。エトワールの事が見たけりゃそっちから来ればいい。それから、ばあちゃんばあちゃんうるさいよ。お姉さんと呼びな!」


マハリク・ヤンバラヤン、一万歳を超える老婆である。

少しだけ声量を押さえながら会話する兄弟。


「とんでもなく厚かましいな」

「考え直せシーララ。エトと一緒におるんは魅力的やけど、ばあちゃんとも住んだら毎日あぁいう事言われねんで」

「それはそれでしんどいな。エトもエトの両親もよく一緒にいられるよね」


マハリクは険しい顔をして怒鳴り声をあげる。老婆とはいえ耳は遠くないらしい。


「聞こえてるよ!」


マハリクの怒りに、またピーリカがビビった。布団の中に潜り、頭を隠す。

正座をしていたポップルは少しだけ腰を上げ、片足を立てマハリクの前に跪く形になった。


「マハリク様、愚弟の無礼お許し下さい」

「次男……相変わらずお主はまだマトモじゃな」

「ありがとうございます。じゃあ褒美としてエトをうちの子に下さい」

「お主もマトモじゃないかもしれん」


息子達の行動を恥じた母親は、眉間にシワを寄せ頭を抱えた。


「マハリク様、うちの阿呆がほんますいません」

「プリコ、そもそもお主がエトワールを妹代わりにしろなどと言うから」

「まさかここまでシスコンになると思って無かったんですもん」

「まぁいい、三男の意見も全て否定は出来ないしの」


マハリクはピーリカをあやすパンプルに顔を向けた。


「パンプル、悪いが今日ばかりはそっちに泊めとくれ。あまり長時間移動させるのも体に負担がかかるじゃろ」

「構わん構わん。何なら本当に住んでもえぇんよ」

「嫌だね、黄の領土は緑の領土に比べて物価が高い」

「マージジルマみたいな事言うなや」


師匠の名が聞こえたピーリカは、ある事を思い出した。ベッドからずり落ちるように降りて、ポップルの前に立つ。


「次男、次男」

「何ピーリカ嬢、マージジルマ様ならもう来るよ。オトンが呼んだらしいからね」

「違います。お金まだもらってません」

「あぁ、そういう約束だったね。はい」


ズボンのポケットの中から小袋を取り出したポップル。袋を開け、中から金色の硬貨を一枚ピーリカに手渡す。

ピーリカの手のひらの上にちょこんと乗った、小さな硬貨。だがピーリカはその重みを理解していた。

これを師匠に渡せば、きっと喜んでくれる。それすなわち! 結婚!


「ありがとうですよ、これで幸せになりますね」

「そこまで言う?」


目を輝かせているピーリカの真意が分からないポップルも少し困惑していた。

その時、部屋の窓がガラリと開く。


「パンプルー、プリコー。ピーリカ回収しに来たぞー。おぉ、まだ生きてたのかババア」

「ぶっ飛ばすよ」


窓から部屋の中へと入るマージジルマ。マハリクの怒りについては気にしていない。


「師匠っ!」


嬉しさを顔に出すピーリカは、誰がどう見ても彼の事が大好きですオーラを放っている。勿論、マージジルマから見てもだ。


「何だピーリカ、機嫌が良いな」

「師匠に会えましたから。でもあんまり見ないで下さい、今かわいくない恰好しているので。でもわたしは今日いっぱい頑張りました。なので嫌いにならないで欲しいです」


ピーリカはベッドの上に乗っていた布団を掴み、自身の服を隠す。そもそもファッションに関心興味のないマージジルマにとっては、例えピーリカがゴミ袋を着ていようとどうでもいいのだが。

彼女からの好意が、やはりまんざらでもなかったマージジルマは彼女をからかうように笑う。


「そんなに俺の事好きか」

「はい、大好きですよ。そんな師匠にプレゼントです。はい、お金どうぞ」

「いらん。俺が最低野郎に見えるだろ」

「師匠は最低野郎ですよ。でもわたしはそんな師匠でも好きですから。はい、お金どうぞ」

「誰が最低野郎だ。いいから取っとけ、貯金も良いもんだぞ」


どうせ師匠のためのお金だ、自分が貯金しても結果は同じだろう。そう考えたピーリカはギュッとコインを握りしめ、自分で管理しておく事に決めた。

そんな師弟の様子を見ていたパンプルは呆れた様子でマージジルマに声をかける。


「おいマージジルマ、あんまりピーリカの事からかうなや」

「からかってねぇよ。貯金は良いもんだ」

「ちゃう、人を好きになる気持ちに大人も子供も関係あらへん。転魔病は性格が反転するだけで好みは変わらへんからな。今ピーリカが好きだって言ってるもんは、多分本気で好きなもんや。ワイ、その辺はピピルピと同意見なんよ。子供だからって適当に扱うなや」

「……分かっちゃいるけど、いじるの楽しいというか」

「遊ぶなっちゅーの」

「へーへー。おらピーリカ、帰るぞ」


パンプルの忠告を軽くあしらったマージジルマはピーリカを連れ部屋を出て行こうとする。

そんな彼の足をシーララは口で止めた。


「マージジルマ様、ちょっとだけ待って! まだパメルクさん戻って来てないから!」

「戻って来るってのはよく分かんねぇけど、アイツならゴミ捨て場の前に捨てて来たから。お前の所に来ることないと思うぞ」

「何でそんな酷い事を!?」

「うちにいきなり来て殴りかかって来たから、その前に殴っただけだ。どう考えても酷いのはアイツだろ。アイツが来なけりゃ俺だってもっと早く来て、花の化け物? も退治出来たんだ」


ピーリカは「そうですよ、師匠悪くないです。悪いのパパです」と援護している。

捨てる事ないのに、と思っていたシーララだが、彼にとってマージジルマは怒らせたらヤバい相手。だとすれば今はマージジルマにピーリカを引き渡し、パメルクさんの事助けつつ宥めに行こうかな、なんて考えている。


「ほら帰るぞ。ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ」


窓の外に絨毯を浮かせたマージジルマは、窓枠をまたぎ絨毯の上に乗る。ピーリカも後を追い、うんしょと窓を乗り越えた。マージジルマに顔を向けたまま絨毯の上に乗ったピーリカは、そのまま抱きつき「飛んで良いですよ」と伝えた。

流石のマージジルマも照れを感じたのか、少しだけ弟子から目線を反らす。

素直なピーリカをプリコとシーララは微笑ましく見つめ、パンプルはマージジルマの態度に呆れていた。マハリクはフンと鼻を鳴らし、気絶したままのエトワールに目を向け。ポップルは絨毯の上に乗る師弟には興味を持たず、魔法の絨毯そのものに興味を持った。彼は長男と違い、魔法を使う事を楽しんでいた。


「黒の魔法って事はこれもどっかの誰かから盗んだもんなんやろな。けど、便利やなぁ」

「何だ三男、黒の魔法を覚える気か」


マージジルマは気恥ずかしさを誤魔化すために、ポップルの独り言に反応した。

ポップルは小さく頷いた。


「次男っす。まぁ、齧る程度には。今のところやっぱり黄の魔法が一番しっくりくるけど、もしかしたら他の魔法の方がうまく使えるようになるかもしれないじゃないすか。学生の内に色々試しておこうと思って」

「良い心掛けだ。まぁ学生でなくなっても試したい事があるなら試せばいい。若い内の方が時間があるのは確かだけどな」

「じゃあマージジルマ様、今回の事で分かったんすけど、ピーリカ嬢ガチで美少女っすよ。若い内捕まえておいた方が良いんじゃないすか」

「それは大きなお世話だ! 帰る!」


マージジルマは弟子を連れ、逃げるように飛び去った。

兄弟は窓の外に目を向ける。


「まぁ逆にピーリカ嬢が逃がさない可能性もあるんやけどな」

「むしろそっちの可能性の方が高いよね」

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