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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~バチバチ親子レター編~
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弟子、成長に気づく

「何なんですか毎回毎回、おんなじ事ばっかり! ずっとシンバルを叩く事しか出来ない猿の人形ですか!」

「誰が猿の人形だし!」


ピーリカは広々とした実家のリビングでフカフカのソファに座り、腕と足を組んでいた。そんな娘の前に立つ両親。母親は誘拐されてきた娘を宥めた。


「ピーリカ、パパもピーリカが心配でこんな事してるの。悪い事だけど、許してあげて。マージジルマ様にも連絡しておいてあげるから、とりあえずお洋服に着替えて来なさいな」

「許しません。着替えろって言ったって、わたし何も持たずに拉致されたんですもん。頭のおリボンすらないんですよ」

「大丈夫よ。ピーリカの部屋にパパが作った新しいお洋服大量にあるから。アクセサリーだって昔パパがあげたのあるでしょ?」

「これでもくらえ、って言ってくれたアクセサリーなんてつける気になりません。見た目がかわいいから取っておいてやってるですけど」

「じゃあアクセサリーはつけなくてもいいから、服だけでも着替えなさい」


パパが作った服という点には興味の湧かないピーリカだが、新しいお洋服という点には大変興味を持っている。それにもし師匠が迎えに来た時に、いつまでもパジャマでいるというのもいただけない。そう思ってピーリカはソファから降りた。


「パパの作った服ならどうせ大したことないのでしょうけど、天才のわたしが見立ててやらない事もないです」


娘に見て貰える事が嬉しい父親。しかし彼はピーリカの父親なので。


「おれが見立てさせてやるってのが正解だし。あまりのすばらしさに泣いて着ろし」


当然素直に喜びは表さない。


「わたしがパパの服を着て泣いて喜ぶなんて事ありえません。どうせいつもの黒いワンピースみたいに地味なのでしょう。あれだってパパの作ったものですからね、本当は着たくないのですよ」


ピーリカは自分の部屋に足を運びながら憎まれ口を叩く。

自身の事を悪く言われ腹を立てている父親は、後から娘をつけて来た。


「シンプルと言えし。というか、おれの作った服を着られているのに何故感謝しないのか……待てし。そのパジャマ、おれが作ったやつじゃないな?」


広い廊下のど真ん中で、ピーリカは一回転してパジャマの全身を見せつける。


「えぇ。お店で見て愛らしいわたしにぴったりだと思いましてね。ケチな師匠はただおねだりしただけじゃ買ってくれなかったですけど、いつもの黒いワンピースで床の上に背中をつけて手足をジタバタさせたら買ってくれました」

「子供特有の強請り方に負けて買ってやるなんて、アイツも甘やかし……いつもの黒いワンピースはおれが作ったやつだろ、おれの服で床に寝そべんなし!」

「うるせーですね、ついて来るなですよ。ママに怒られててください!」

「おれはおれの服を見に行くんだし、悪い事なんかしてないから怒られないし!」

「わたしを誘拐したじゃねーですか、誘拐は悪い事です!」

「娘を連れて帰って何が悪いんだし!」


騒ぎながらも大きな扉の前に到着した親子。ピーリカは扉を指さし父親に命じた。


「おい使用人、開けろですよ」

「お父様に向かって使用人とは何だし!」

「扉を開ける事すら出来ないんですか? 使用人失格ですよ」

「使用人じゃないし、こんなの開けるの楽勝だし」


強がった父親はすぐさま扉を開けた。ピーリカは開いた扉の前で腕を組む。


「貴様にも出来る事があったですね」

「むしろ出来ない事なんかないし。というか、このおれに開けさせたんだ。深々と頭を下げて礼を言えし」

「開けさせて下さりとても光栄、とそっちが言う立場でしょう?」

「そんな訳ないし!」


扉を開ける事ですら喧嘩をする二人の元へ、母親もやって来た。


「喧嘩しながら歩かないで、早くなさい」


そう言われて二人は一斉に互いを指さす。


「だってパパが!」

「だってピーリカが!」


冷たいため息を吐いた母親。流石夫婦と言ったところか、父親の方はそのため息が怒りを表している事を知っていた。慌てて娘の部屋の中に入る。

ピーリカがマージジルマと暮らす家の方の部屋に比べ、倍の広さがある部屋。だがその半分は大量の服で埋め尽くされていた。一応クローゼットはあるものの、入りきらないらしい。トルソーにかけられ置かれていたり、畳まれた服が床上に直接積まれていたりする。その服の全てが子供服であり、全て父親がピーリカのために作ったものだ。当然父親はピーリカのために作ったなんて言わないので、ピーリカは自分の部屋を倉庫代わりにされていると思っているが。


「あー、あれだし。ピーリカは早く服着ろし。好きなの選べし。このワンピースとかとても素敵。おれが作ったから最高傑作」


父親は青い顔して一枚のワンピースを手に取る。母親の心理に気づかない、しかめっ面のピーリカは父親の手元を見つめた。青いリボンがついた、白地のワンピース。物自体はかわいいが、パパの作ったものかと着ることに躊躇っている。


「ピーリカ、嫌でもパパの服着なさい。いつまでもパジャマでいるのはレディのする事じゃないわよ」

「ふむ。一理あるですね。仕方ない、着てやるですよ」


母親からの後押しもあり、ピーリカは仕方なさそうに父親からワンピースを受け取り。その場でパジャマを脱ぎ、受け取ったワンピースに着替えた。

ウエストや肩幅はピッタリサイズだったが、妙に丈が短くて。中途半端に出ている腕や太もも。ピピルピのような変態が見たら興奮するような状態であった。

娘の成長に母親は少しだけ機嫌を良くした。笑みを浮かべて、娘の頭を撫でた。


「それピーリカサイズに作られたものなのに。背が伸びたのねぇ」

「……ま、まぁ当然ですよ。わたしはこれからどんどん成長して、背もおっぱいも大きくなるです」


ピーリカは自分でもまだまだ子供だと思っていたが、ちゃんと成長していたと気づき喜んでいる。

そんな娘を見て、父親は突然声を上げた。


「こんなの、おれの美的センスに反するしーっ!」


そう言って部屋を出た父親は、裁縫道具と青い布を持って数秒で戻って来た。

ワンピースの裾を掴む。


「なっ、何するですか!」

「動くなし!」


父親は目にも見えぬ早業で、裾部分に青いフリルを継ぎ足した。フリルがついた分、丈も伸び。ピーリカには丁度いいサイズになった。

父親の事は相変わらず嫌いなピーリカだが、父親が作った洋服は気に入った。


「ふん、パパにも出来る事があったのですね。驚きですよ。まぁパパの腕はともかく、布の質が良いので着てやるです」

「ピーリカが無知なだけだし。布がボロでもおれは良いモノを作る。天才だから。おれ超天才。これ世界の常識」

「そんな常識あるわけねーです!」


母親は再び言い争いを始めそうになった父親と娘の間に入り、あからさまに話題を反らした。


「そういえばピーリカ、お裁縫出来た?」

「まだ出来てませんけど、わたしに不可能なんてないので」


娘の言葉を聞いた父親は高らかに笑う。


「何だピーリカ、裁縫も出来ないのか。全く、どうしようもない奴だし!」

「ママとの会話に入って来るなです!」


怒るピーリカを庇うように、母親は背中の後ろに隠す。


「パパ、意地悪しないで教えてあげて頂戴な。得意でしょう?」

「おれが? ピーリカに? 何でだし。そんなの時間の無駄だし」

「あら。パパなら出来ると思ったんだけど……出来ないのね。なら仕方ないわ」

「はーー!? おれ超天才だから出来ない事とかないですけどー?」

「そう。ならお願い」

「ふん、それくらい朝飯前だし!」


父親はチョロかった。

だがピーリカは首を左右に振り、嫌がる。


「パパから物事を教わるの嫌です」

「ピーリカ、天才は嫌いな相手からも教わるものよ。それが出来ないんじゃ……ピーリカは天才じゃなかったのね」

「そ……そんな事ないですもん! 教わるくらい朝飯前です!」


娘もチョロかった。


「なら頑張りなさい。でもピーリカ、ボタンをつけたかった服って今日持って来てないわよね? 違う布とかで練習する?」

「いえ、わたしのシャツでもないしパパのソーイングセットですからね。召喚出来ると思います。ちょっと待って下さいね」


ピーリカは両手を構え、黒の呪文を唱えた。


「ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ」


ピーリカの手元で光る魔法陣。その上に師匠のシャツとソーイングセットが現れる。

それらを手にしたピーリカ。やってる事は泥棒と同じなのだが、母親は娘を褒めた。


「まぁピーリカ、魔法も上手になったじゃない」

「ふふん、当然ですよ」


ピーリカは誇らしげに答えた。そんな娘の腹が、グウと鳴いた。

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