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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~バチバチ親子レター編~
112/251

師弟、光を眺める

 マージジルマは梯子に上り、木の枝に大量の電球を括り付けている。


「いるみねーしょん? ってやつだ。夜に電気を通すと、光ってキレイになるらしい。この道に面してる木全部につけて、見世物にしよう。そして通行料として小銭を稼ごう」

「かわいい弟子が誘拐されてる間に金儲けの事考えてやがったですか! なんて師匠だ!」

「誘拐ったって、父親にだろうが。それにお前が連れて行かれた直後、お前の母親から連絡来たから」

「ママ?」

「あぁ。すぐ帰らせるから大丈夫ですよーってな。あまりにも直後すぎて、どっかで見られてるんじゃねぇかって思ったけど。お前の母親魔法使えたりしないよな?」

「使えませんよ。けど、ママはすごく勘がいいんです。わたしがかくれんぼしてても五秒で見つけるからつまんないです」

「それはお前の隠れ方が下手くそな可能性もある」

「そんな訳ないでしょう」

「まぁ本当に早く帰って来たし。無事ならいい。それよか手伝え。今晩試しにつけて、明日から稼ぐぞ」

「全く、本当に師匠は金に汚いですね」


そう言いながらもピーリカはマージジルマの乗る梯子の足を掴んだ。これで十分手伝っている気でいる。

梯子の上に登らせる訳にもいかないと判断したマージジルマは、そのまま梯子を掴ませておいた。


「そういや、お前の父親悪夢見たとか言ってたよな。呪い、成功してたって事だな」


マージジルマは電球をつける自身の手に目を向けたまま、言葉だけを弟子に向ける。


「まぁわたし天才なので。当然なのですよ」

「どんな悪夢を見せたんだ?」

「どんな? パパが一番嫌な事を考えて呪ったですよ。多分落とし穴に落ちた夢とかじゃないですかね」

「ショボい悪夢だな。つーか自分でどんな悪夢を見せたのか分かってないのかよ。魔法をかける時に、どんな夢を見せたいか考えれば見せられるから。勿論悪い事限定ではあるけどな」

「じゃあ落とし穴に落ちて欲しいと思えば」

「その通りの夢を見せられる」

「うーん……わたしがかわいいのは悪夢じゃないから見せられないですね?」

「……そうだな」

「じゃあ落とし穴の夢を見せるですよ」


自信たっぷりの弟子をすごいと思いながらも、否定する程ではないと思ったマージジルマは作業を続けた。

一本道から見える木全てに電球が括りつけられた頃、夜がやってきた。

マージジルマは梯子から飛び降り、電球と繋がったコードの先を掴み。そのまましゃがみ込んでピーリカの肩に腕を回した。


「よしピーリカ。一緒に悪い事しようぜ」


ただでさえ距離が近くてドキドキしているというのに、マージジルマはにんまりと笑っているのだからピーリカとしては余計に困る。


「そ、そんな。わたしはお利口さんなので悪い事なんて」

「お利口さんだってたまには羽目外す事もあるだろうよ。それにお前そんなにお利口さんじゃねぇぞ」

「いえわたしはお利口さんです。でも、し、師匠がどうしてもと言うのなら仕方ねぇですね。い……一緒にやってあげてもいいですよ」


ピーリカは頬を赤らめながら答えた。間違いなく自分はお利口さんだと思っているが、どんな事でも師匠と一緒にやりたかった。

マージジルマは笑みを浮かべたまま、ピーリカにコードを握らせる。そして地面を指さした。


「よし、これの先を地面に刺せ。そうすれば土の下で溜まってる黄の魔法と繋がって、電気使いたい放題だ。使った分は金取られるけどな」

「……思ってたのと違うですけど、それが悪い事です?」

「無駄遣いってやつだな」

「おぉ、それは悪い事ですね。でもそれを率先してやる師匠、とても悪い奴です」


そんな悪い奴の事をカッコイイと思っているピーリカは、言われるがまま土にコードの先端を刺し込む。


「暗くてよく見えねぇんですけど、ちゃんと入ったですか?」

「いやまだだな。もっと奥まで入れねぇと」

「っむりです、これ以上入んないです」

「力入れれば入るっての」


固い土に無理やりコードの先端を刺した師弟。

パッ。

土下の黄の魔法と繋がったのか、みるみる内に木につけられた電球が光り始めた。


「ほわぁ……なかなかキレーじゃないですか」


赤、青、黄、緑、桃、白、黒色に輝いている木々。ついているのはただの光る電球とはいえ、なかなかロマンチックな光景だった。

ピーリカに同意するように、マージジルマも頷いた。


「あぁ。いかにも金かかってそうな感じがするよな」

「そういう事を言うから師匠はモテねぇんですよ」

「いいんだよ別に。よし、そろそろ家の中入るか」

「えっ、もう見ないんですか?」

「今じっくり見なくたって、これから一か月間毎日見れるぞ」


マージジルマは本気で一か月間つけっぱなしにする気でいる。

こんなロマンチックを台無しにしてくる男の傍でも離れたくなかったピーリカは、ほんの少し勇気を出して彼の腕を掴んだ。


「師匠、寒いので暖房になりやがれです」

「あ? 俺そこまで体温高くねぇぞ」

「すごく寒い訳でもないので。師匠で我慢してやるですから、手を差し出せです」

「頼み事をするんだからもう少し態度を改めろってんだ。ほれ」


師匠の差し出した右手を、ピーリカはニッと笑って左手で握った。笑ったのは嬉しさと照れ隠し。


「師匠も素直じゃねぇですね。わたしと手を繋ぎたいならそう言えばいいですのに」

「繋ぎたがったのはお前だろうが。とっとと行くぞ」

「待てです、乙女の歩幅に合わせやがれです」


手を繋ぐ時間を少しでも長くさせようと、ピーリカはゆっくりと歩いた。光に照らされた二人の影は、確かに繋がっている。




 翌日。ピーリカ達の元へ再び手紙が届いた。送り主はピーリカの父親である。


「きっと読む価値もないので、このままゴミ箱に捨てちゃっていいですかね」

「一応読んどけ」


師匠にそう言われてしまっては断れないピーリカ。渋々手紙を目で読んだ。


_______________________


ゴリラへ


めんどうだしそもそも悪いと思わない。ママが頼む

んで仕方なく書いた。謝りたくない。

ねこ大好き。


_______________________



「……やっぱり読む価値なんてなかったですよ! 誰がゴリラですか。それを言えば一応親なんだからパパだってゴリラです!」

「落ち着けピーリカ。ゴリラに失礼だろ」


一番失礼なのはマージジルマである。ピーリカは手紙をクシャクシャに潰した。


「大体何なんですか、猫大好きって!」

「思い浮かばなかったんだろ」

「書く事が思い浮かばなかったんならそもそも手紙なんて書いてこないでほしいです……今の手紙に謝罪の言葉なかったですね!? 本当に無意味な手紙です」

「縦には書いてあんじゃん」

「何言ってるですか。文字は横に書いてあるですよ。縦と横の区別もつかないなんて師匠はやっぱりバカですね!」

「そんな事ない。こんなのでも一応返事は書いとけ。お前からの手紙なら悪口でも喜ぶだろうからな」


ちなみにマージジルマへ向けた手紙に書かれた言葉は。


_______________________


ハゲろ。

_______________________


以上である。

ピーリカは明らかに不機嫌な顔をして師匠に反論する。


「わたしのやった事でパパが喜ぶはずないでしょう」

「そうでもねぇよ。数行でいいから書いとけ。俺も書くから」

「何て書くんです?」

「そうだな……例え俺が禿げたとしても、娘は俺の方がいいみたいです。とでも書くか」

「ほう……ハゲたら躊躇うですよ」

「そうかよ」


こんな事を言っているが、ピーリカは以前マージジルマにハゲる呪いをかけようとして失敗している。本当にハゲてもピーリカが彼を嫌いになる事はない。


「じゃあわたしも書いてやるですかね。うーん」


ピーリカは何を書くか悩みながらも、師匠からゴミの紙をもらいペンを握る。

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