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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~バチバチ親子レター編~
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師弟、絡まる

「おいピーリカ、そろそろやろうぜ」

「はい?」

「お前もまだ失敗するとはいえ、少しは魔法を使えるようになった訳だ。そろそろやってもいいと思うんだ」

「そろそろって、何をです?」

「忘れたのか? お前が俺に弟子入りした理由」


そう言われて真っ先に思った理由は『師匠と一緒にいたかったから』。だが最初は違う理由でこの家に住み始めた気がする。

頑張って思い出すピーリカ。そして。


「……パパをボコボコにするんでしたっけ」

「そうだよ」

「あぁ、はいはい。忘れてねーですよ。ただあれです、念のため確認しておくですけど、パパをボコボコにした後もわたしは師匠の弟子ですか?」

「何の確認だよ。まぁお前が将来代表になりたいってんなら、それまでずっと俺の弟子だろ」

「そうですよね。いえ知ってました。師匠は頭が悪いから忘れてないかなと思ったですよ」

「失礼な奴だな」


正直な所、今のピーリカにはパパをボコボコにするなど本当にどうでもよくて。それこそ師匠と離れ離れになるくらいなら、ボコボコになんてしなくていいやと思う程であった。

だがパパをボコボコにしても尚、弟子でいられるというのなら。それはそれでパパをボコボコにするのも悪くないと思った。何だかんだで、やっぱり自分の事を役立たずなどという者は許せなかった。


「じゃあボコボコにしましょう」

「思ってたよりテンション低いな。もっとはしゃぐかと思ってた」

「はしゃぐだなんて。わたしも大人になっただけです」

「あぁそう。ちなみに聞くけど、お前どれくらいボコボコにしたいの?」

「どれくらい?」


マージジルマは木の枝を拾い、地面に五本の線を引いた。一番下に引いた線を枝で叩く。


「ボコボコにするって言ったって、種類があるからな。まずレベル1、腹痛」

「それボコボコですか?」

「レベル1だからな。レベル2、打撲」


そう言ってマージジルマは下から二番目の線を叩く。そのまた次の線も順に叩きながら、レベルの説明をしていく。


「レベル3、骨折。レベル4、睡眠不足。レベル5、死」

「待てです。睡眠不足より骨折の方がレベル高いでしょうに」

「そうでもねぇって。睡眠不足を続けると一気にレベル5になるんだから。で、どのくらいに酷い目にあってほしいんだ」


ピーリカは分かりやすく頭を抱えて考えている。


「うーん……どれが一番、わたしはかわいいんだって知らしめる事が出来るですか?」

「お前の第一優先それなのな」

「今はボコボコにしたいというより、わたしがかわいい上に凄いって所を見せたいのです。そりゃわたしを貶す者ですから、多少痛い目にあっても、ざまぁみろとは思うですけど。流石に死んでほしいとは思ってねぇですからね」


ピーリカの意見を聞いたマージジルマは、一番上に引いた線にバツ印をつける。


「そうか。じゃあレベル5ではない、と。なら軽めのレベル4だ。眠る事を恐れてしまう程の悪夢を見させよう」

「悪夢? 悪い夢見せてボコボコになんてならねーでしょう」

「何も体にダメージ与えるのだけがボコボコにするって訳じゃねぇしな。お前の父親は精神的にボコボコにしよう」

「ほう、悪くないですね」

「と言っても一回やるだけじゃダメだ。悪夢なんざ魔法かけなくても見る事のあるもんだからな。定期的に、何回もやらないと」

「うーん、三日に一回くらい?」

「そうだな。そのくらいでいいだろ。で、しばらくしたら、その悪夢はわたしの力だってピーリカが言えば良いんじゃないか」

「なるほど」


マージジルマは持っていた木の棒を放り捨て、街の方を指さした。


「じゃあ早速。呪ってみろ」


人を軽々しく呪おうとする師弟。ピーリカは躊躇う事なく両手を前に構え、呪文を唱えた。


「ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ!」


いつものように魔法陣が光らない。ピーリカは周囲を見渡し魔法陣を探すも、何も起こった様子はない。


「これ失敗しちゃったですかね? いや、わたしが失敗するはずないんですけど」

「お前はよく失敗するけど。今のは成功だろうな。父親の所で魔法陣が光ってるはずだ。それに魔法が発動するのは相手が寝てからだろうからな。今行った所で何も起こってない」

「失敗ではないはずですけど、確認できないんですか?」

「認めない奴だな。そんなに確認したきゃ父親んとこ行って来いよ」

「ふむ……別に会いたい訳でもないので、もう少し魔法かけてからにするです」


パパに会いに行く時間があったら、少しでも師匠と一緒にいたいとピーリカは思っている。

だが当のマージジルマは、よっぽど父親が嫌いなんだな、くらいにしか思っていない。


「そうか。まぁそれはそれとして、手紙の返事は書け」

「あんなの手紙じゃないから返事なんて書かなくていいんですよ」

「そんな事ねぇよ。むしろお前も似たような言葉で書いてやればいいだろ」

「なるほど」

「それよりシャバにも電球借りてこねぇと。寄ってから帰ってくればよかった」

「あれ本気だったんです?」

「当然だろ」


マージジルマは家の中に入り、地下室へと向かおうとする。


「その前に脱ご。堅苦しい服はどうも好かない」


ピーリカもマージジルマの後を追い家の中へ入る。その表情は、少し悲しそうな顔。


「ぬ、脱いじゃうんですか?」

「おう。そもそも飯食いに行くのに着ただけだしな。ドレスコードってめんどくせぇな」


いつもと違う師匠の姿をもう見られないのは、何だか勿体ないなと思ったピーリカ。ケチな師匠だ、ドレスコードがあるようなレストランには滅多に行かないはず。そう考えたら次にあの服装の師匠を見られるのは、一体いつになるのか。下手したらこれが最後になってしまうかもしれない。許されるのであれば最後の瞬間まで目に焼き付けておきたくて。

ピーリカはマージジルマの手首を掴んだ。


「しょうがないですね、お着換えをお手伝いしてやってもいいですよ。介護が必要でしょう?」

「何でだよ。いいよ、そんなの。まだ介護される歳じゃねぇよ」


掴まれていない方の腕で、マージジルマはピーリカの頭を押さえつける。弟子に脱がされるのも嫌だが、腹と胸にある二つの三日月を見られる訳にもいかない。互いに譲らず、暴れる師弟。


「「あっ!」」


異変に気付き、二人揃って声を上げた。

暴れている間に、マージジルマのシャツのボタンとピーリカの髪が絡まってしまったらしい。マージジルマが右手を上げようとすると、袖部分についていたボタンはピーリカの髪の毛先を引っ張って。結果的にその髪は、彼女の右頬を撫でる。


「何するですか、可愛い弟子の髪に!」

「お前がやったんだろ。くそ、取れねぇ」

「強く引っ張らないで下さい。わたしの美しい髪を傷つけたら許さねーですよ!」

「あぁもう、千切るぞ」

「千切るって……そんな野蛮な!」


ピーリカが抵抗する間もなく、ブチっという音が聞こえた。思わず一瞬目を瞑ったピーリカだったが、特に痛みは感じていない。引っ張られている感触もなくなり、ゆっくりと目を開いた。


「痛……くない?」

「後は自分でどうにかしろ」


そう言ってマージジルマは地下室の方へ歩いて行った。ピーリカは彼を追いかける事はなく、その場に立ったままマージジルマの後ろ姿見えなくなるまで見つめていた。

ボタンのついていない彼の袖口。自身の髪の毛先には、未だ絡まったボタンと千切れた糸が取り残されているものの。

ピーリカの髪には傷一つついていない。

上機嫌になったピーリカはソファに座り髪に絡まったボタンを外す。千切れた糸は少し触れただけで簡単に解け。ボタンも今ではピーリカの手の内だ。部屋の隅の止り木で眠っていた白フクロウのラミパスは、目を覚ましたと同時にピーリカの膝上へと飛び立った。


「おぉラミパスちゃん。起きたですね。見ろです、このボタンは師匠の優しさなんですよ。わたしが愛らしいと思われている証拠です」


優しさはあるかもしれないけれど愛らしいとは思われてないんだろうな、と思いつつもラミパスは喋らない。

マージジルマは先ほどのシャツを持って、いつものシワだらけのローブを着て戻って来た。


「おぉ、いつものモサい師匠です」

「うるせぇ」

「このボタンくれるですか?」

「何でだよ。必要ねぇだろ。また付け直して次着るんだからダメだ」

「全く、師匠はケチですね。しかし、師匠ボタンなんてつけられるんですか?」

「んにゃ、そもそも俺ボタンつけるような道具持ってねぇから。イザティに頼むわ、アイツ裁縫得意だからな」


ピーリカの表情が固まる。自分への優しさであるボタンを、他の女につけさせるなんて。

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