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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~バチバチ親子レター編~
107/251

弟子、父親から手紙をもらう

 ピーリカは歯を見せて笑った。


「当然です。わたしの師匠ですからね」


首を傾げるジェスチャーをする雲男。


「何だかよく分かんないけど、オトンに負けて欲しい流れ?」

「そうですよ。貴様の父親は金遣いが荒いと怒られてるです」

「それは怒られても仕方ないよね」

「ろくでもない親を持つと苦労するですね。その気持ちはよく分かるです。それに比べて、師匠は自分の金は無駄遣いしないですからね。ケチすぎる気もするですが、無駄遣いするより偉いですよ」

「いいなぁピーリカ嬢」


雲男は指をくわえた。その姿に気を良くしたピーリカは、高らかに笑う。


「そうでしょう、わたしには釣り合わないんですけどね」

「交換してよ」

「ダメです。あげません。わたしのです」

「あーあ、欲しいな。パメルクさんみたいな父親ー」

「そうでしょう、師匠は……あ? パパ?」


てっきり師匠についていいなぁと言われたと思っていたピーリカは顔を引きつらせた。雲男は興奮した様子で答えた。


「だってパメルクさん、うちの国で一番の超有名なデザイナーだよ? オトンも有名だし嫌いじゃないけど、パメルクさんは見た目もセンスもイケてるよね! めっちゃカッコいい」

「パパのどこがカッコイイんですか。作る服はまぁ良いものかもしれねーですが、性格はゴミと同じですよ。あれなら師匠の方がまだマシです」

「マージジルマ様は……国的にいないと困るけど、別に父親として欲しいとは思わないし……合法犯罪者みたいなもんだし……」

「誰が犯罪者ですか! 確かに師匠は悪い事ばかりしてるですが、あれはあれで根っからの悪者ではないのです。きっと可愛いお嫁さんだって見つかるし、いずれ良いパパになるです。限りなく可能性は低いですけど」


訳:わたしがかわいいお嫁さんです。


「そうかなぁ。でもやっぱり僕はパメルクさんの方がいいなー。ピーリカ嬢のその服だって、パメルクさんが作ったやつでしょ? 僕もパメルクさんの服毎日着たい。パメルクさんの作ったカッコイイ服着て、ヘアスタイルキマった朝はそれだけで幸せな気分」

「じゃあパパあげます」

「ほんま!?」


喜びのあまり、雲男は思わず方言を使う。ピーリカはそんな彼を貶している。


「えぇ。パパならいくらでもあげます。あれを欲しがるだなんて、貴様のセンスもどうかしてやがるですね。センスのいいわたしには理解出来ません」

「何言われてもえぇ……いいや。頂戴!」

「いいでしょう。あげます」

「やったーー痛っ!」


雲男の頭を、プリコが叩いた。


「人の親欲しがるんやないの! ピーリカ嬢も、パパあげたらあかんて」


余程強い力で叩かれたのか、雲男はその場にしゃがみ込み頭を押さえている。

ピーリカは自分も叩かれないようプリコから離れつつ答えた。


「だってわたし、パパ嫌いなんですもん。パパだってわたしの事嫌いですよ。すぐブスって言うです」

「確かにそないな事言うんは悪い事やけど。自分の子供の事本当に嫌いな親なんておらんよ」


そう言ったプリコに三男は「じゃあ何で叩いた!」と言い「教育やド阿呆!」と返された。

ピーリカはプリコのいう事を理解出来なかった。


「そんな事ないですよ。わたしのパパは普通じゃないから、きっとわたしの事嫌いです。でも寂しくなんかねーですよ。わたしは師匠と一緒にいるですからね。そうだ、やっぱりわたしは師匠のお手伝いするです」


その場で両手を構えたピーリカは、何でも良いから、とパンプルの不幸を願って。

プリコと雲男が慌てて止めようとするも、ピーリカの唇が動く方が早かった。


「ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ!」


その瞬間、窓の外で小さな爆発音が聞こえた。ピーリカは窓から顔を覗き込む。見ればパンプルがアフロヘアーになっていた。

驚いた顔を見せたパンプルの隙を狙い、マージジルマは彼の顔を思いっきり殴った。しつこいようだが再度記載しておこう。彼は魔法使いだ。

パンプルはその場に倒れ、攻撃してくる様子はない。

一瞬ガッツポーズをしたマージジルマは窓の方を向き、師弟の目と目が合う。ピーリカはサッと窓横に隠れた。目が合ってしまい、若干照れている。

その後、外から勢いよく扉を開けたマージジルマが部屋の中へ入って来た。頬は煤塗れになっていたものの、その瞳は輝いている。


「よっしゃピーリカ、明日から一晩中電気つけっぱなしにして寝ような!」


マージジルマは顔も汚れているが心も汚れている。

後からよろよろと入って来たパンプルが怒りの声を上げた。


「電気は大事にせぇ! 人の金だからって無駄遣いすんなや!」

「うるせぇ、負けた奴は黙ってろ!」


ピーリカはいかにも嬉しそうな師匠の元へ近寄る。


「師匠、勝ったですね。まぁ、このわたしの師匠をしてるくらいですし、当然ですね」

「俺が負ける訳ないだろ。金絡んでるんだから」

「流石師匠、汚い!」

「後でシャバの所行こうぜ。祭りで使う装飾借りる。あのすげーキラキラする七色の電球!」


汚いと言われても気にしないマージジルマ。それほど人の金を得て喜んでいる。

逆にパンプルは悲しみと怒りを得た。


「やめろや、あれクッソ電気使うねんで!」


そんなパンプルの肩を、プリコはポンと掴んだ。


「約束やろ。負けたんなら大人しく言う事聞いたり。大体、アンタが言える事やあらへん」

「そないな事言うたって……」

「負けたんやろ?」


圧で旦那を押さえつける嫁。横に大きいはずのパンプルの体が、ピーリカには何故か小さく見える。

マージジルマは弟子に視線を向けた。


「ところでピーリカ、さっき何か魔法使ったか?」

「えっ!? ま、まぁ使いはしましたけど、別に師匠を助けるためじゃねーですからね。あれは、そう。アイツをアフロにしたかっただけですから」


素直にはなれないピーリカを、三男とプリコは微笑ましく見つめる。


「せっかく失敗しなかったんだし、正直に言いなよピーリカ嬢。ねぇオカン」

「せやで。ピーリカ嬢、師匠と一緒にお仕事したいんやと」


乙女心をバラされ、ピーリカは動揺している。


「うわーっ! 黙れ貴様ら、アフロにするですよ!」


腕を振り回し、ピーリカは消える事のない言葉を消そうとする。

マージジルマはピーリカの前にしゃがみ込んだ。


「ピーリカ……」

「な、何ですか。怒るですか。わたし悪い事してねーと思うですよ」


マージジルマは両手を上げ、ピーリカの頭をワシャワシャと撫でる。


「……あぁ、よくやった!」

「ひょわぁっ!?」


嬉しいけれど、恥ずかしさもある。

頬を赤くさせて「やめろです!」なんて言っているピーリカだが、本当はやめてほしいだなんて思っていない。

師匠はただ、電気代を払わなくて済む事に喜んでいるだけなのだが。

プリコはマージジルマの前に立ち、頭を下げた。


「マージジルマ様、おおきに」

「礼は報酬で答えてくれ。んじゃ、馬車の中の食い物ダメになると困るから帰る」

「ブレへんなぁ。えぇわ、明日から電気ガンガン使こうてな」

「任せとけ。二人暮らしとは思えない金額にしてやる」


マージジルマの言葉を聞き悲しそうな顔をしているパンプルの肩を、三男は優しく叩いた。



 プリコ達に見送られ、馬車に乗り込む。ピーリカにとっては、再びひっつきタイム。あわよくばまた膝枕タイムになるかもしれない。なんて思っていた。

だがピーリカが寝に入る前に、マージジルマから質問が飛び出た。


「魔法使う前は何してたんだ? プリコと遊んでたのか?」

「可愛げのないお人形遊びしようとしてたですけど、雲男が帰って来てそれどころじゃなかったですね」

「あぁ、息子な。脇を通ってた気がしたの、気のせいかと思った」

「気のせいだと思う程夢中で戦ってたですね……そういえば師匠、あのプリコとか言う女が子供を嫌いな親なんていないって言うんですけど、本当ですか?」


歪んだ表情を見せ一瞬黙ってしまったマージジルマだが、すぐに口を開いた。


「俺の父親、俺と母親捨てていなくなったから。その質問の答えは俺もよく分からない。母親には好かれてたと思うけどな」

「おぉ。そういえばそんな話を聞いた事があったような、なかったような」

「でもプリコの言葉は嘘じゃないんじゃないか? 人によってなんだろ」

「人によってという事は、パパはやっぱりおかしいという事ですかねぇ……師匠から見て、うちのパパどう思います?」

「態度がデカいクソ野郎」

「そうですよね……ついでに聞いてやるですけど、わたしの事はどう思います?」


ちゃっかり自分の事も聞き出すピーリカ。彼女は「愛らしい弟子」と言われる事を望んでいる。しかし。


「態度がデカいクソガキ」

「ほぼ同じじゃないですか!」

「ほぼ同じだからだよ」


ピーリカは信じられないといった様子で目を見開いた。


「そんな、師匠までわたしとパパが似ているというのですか」

「そうだよ。何だ、今更気づいたのか。お前もアイツも、素直になれないひねくれもの」

「じゃ、じゃあパパがわたしを可愛くないというのは嘘?」

「多分な」


ピーリカは黙った。自分が父親に似ているという事に、軽くショックを受けている。そしてそんな事を考えている内に、黒の領土へと到着してしまった。せっかくの膝枕タイムを無駄にしてしまった、なんて思っている。

馬車はどんどん先へ進み、彼女達が暮らす家のある山の前までやってきた。彼女と師匠は大量のお土産を掴み、麓で馬車を降りた。ピーリカは、せめて残り僅かな二人きりの時間を楽しもう、と一生懸命師匠の歩幅に会わせて山を登り始める。しかし、ただでさえ違う歩幅と速さを合わせる事に疲れてきた。お土産もあるせいで、いつもより体も重い。


「師匠、休憩しましょう。それか抱っこさせてあげるです」

「もうちょっとだから頑張れよ」


好きな人に頑張れと言われてしまっては、頑張るのが恋する乙女。むしろ頑張らないのは、自分が出来ないと思われそうで嫌だった。

ぜぇはぁ言いながら歩き続けるピーリカは、なんだかんだ言って努力家だ。

しばらくして、家の前まで到着。師弟は足元に荷物を置き、ピーリカは息を整える。


「よく考えたら……魔法で飛んで行けば良かったのでは?」

「いいんだよ、たまには運動」

「師匠暴れまくったから既に運動してるでしょうにぃ」

「いいんだよ。運動し過ぎて悪い事なんかない」


実を言うと食べすぎた自覚があったマージジルマは、同じように食べていた弟子のカロリーも消費させていた。

彼の考えに気づいていないピーリカは「わたし、疲れちゃって可哀そう」なんて言っている。

マージジルマは家の扉の間に、二枚の封筒が挟まっていた事に気づいた。すぐさま封筒を手にし、差出人を確認する。


「噂をすればだぜ、ほら」


差出人は父親で、娘宛てになっている。一枚の封筒を受け取ったピーリカは、すぐさま封を開けた。




___________________


はじさらしへ


やみくもに走り回って迷惑極まりないアホな

くそがき、元気ですか?

かなり役立たずで、きっと人々に苦痛を与

えている事でしょう。でも、我が家へもど

って来られても困るという気持ちを伝るため

てがみを書きました。正直お前の事を思うと

きもちわるいです。

てを煩わせないでください。


____________________





「きぃーーっ!」


クソみたいな手紙を読んで怒ったピーリカの頭には、もうプリコの言葉なんて消えた。


「師匠、やっぱりパパはクソ野郎です!」

「そうだろうな」


もう一通の手紙を読んで、マージジルマはそう答えた。差出人は彼女の父親だ。




_________________



くたばれ


_________________




ただそれだけが大きく書かれた手紙。マージジルマはただただ腹が立った。


「こんなの取っておく価値もないです、ゴミ箱に捨てちゃえ!」


手紙をクシャクシャにした弟子を見て、師匠はにんまり笑った。

PC投稿で調整しているため閲覧方法によっては手紙の文字にズレが生じるかもしれません。ご了承ください。

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