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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~子供のためのサンタマン編~
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弟子、口を塞がれる

 恥ずかしそうに言ったピーリカだが、エトワールが理解する事は出来なかった。


「ピーリカさん、弟子ではなくお嫁さんとして預けられてたんですか?」

「ち、違うですけど。師匠はほら、短足ですし、ケチですし、頭も悪いですから。お嫁さんなんて絶対出来ないでしょう。だからもしわたしが大人になっても師匠が短足の独身だったら、仕方なーくわたしがお嫁さんになってやってもいいってだけです。わたしにもっと相応しい男が求婚しに来たら、その時は師匠なんて知りませんけどね!」


嘘である。ピーリカは他の男に目を向ける気など一切ない。もしも師匠の嫁候補が現れたら、塩をまいて追い払うつもりでいる。きっと嫁候補ではないと分かってはいるが、ピピルピが師匠に近寄った場合も同じ対応をする気でいる。

エトワールは理解出来ないながらも、冷静に現実を見つめた。


「マージジルマ様は一応お偉い方ですから。見た目や性格がどうであれ見合い話が来ると思います。ピーリカさんがそんなに心配する事ないですよ」

「それはすごく心配しないといけない事じゃないですか!」

「何故?」

「な……なんででもです! それよりほら、降りますよ!」


ピーリカは誤魔化すように地面の上に足をつけた。エトワールもゆっくりと土の上に足を降ろす。

ほうきを放り投げたピーリカは、マハリク達が住むという大きな木についた扉を叩く。


「ばーさん、ばーさん!」


ピーリカは近所迷惑など考えずにドンドンと扉を叩く。勢いよく開き、扉に弾かれたピーリカは「うわっ」と言いながら転がった。

中から出てきたマハリクは杖に支えられながらもその場に立ち、地べたに手をつけながら座るピーリカを睨みつけた。


「騒々しいね、騒がしい所までマージジルマの真似しなくていいんだよ!」

「何言ってるですか、師匠だったら足でドンドンするです。わたしは愛らしいおててでドンドンしました。真似なんかしてねーです」

「そういう問題じゃないんだよ。大体何だい、そんな地面に座って。みっともない」

「これは貴様のせいでしょう!」

「おだまり、誰に向かって貴様だなんて言ってるんだい!」


どうやらピーリカは師匠に似て、マハリクとは相性がよくないらしい。エトワールは二人を宥めた。


「お二人とも落ち着いてください。お師匠様、ピーリカさんは悪くありません。確かに口は悪いかもしれませんが、私の事を思ってついてきてくれたのです。そんなに怒らないであげてください。さぁ、ピーリカさんは立ち上がって」


素直に立ち上がったピーリカ。だがこれはエトワールに言われたから立ったのではなく、いつまでも地面に手をつけるなんてわたしには似合わない、なんて思っているからである。

一方のマハリクは、叱って当然という態度のままだ。


「そんな事よりエトワール、しばらく旅に出るんじゃなかったのかい。嘘つきは嫌いだよ」

「嘘をつこうと思った訳ではありませんが、旅に出るのはやめました。今はお師匠様の元で勉学に励みます」

「……やめる位なら最初からいい加減な事なんてするんじゃないよ。大体、サンタマンを探す旅だなんて馬鹿げている。サンタマンなんか本当はいないんだからね!」


パンプルに止められたのにも関わらず、マハリクは子供達に真実を伝えてしまう。ピーリカはショックを受けているが、エトワールはクスリと笑って。


「えぇ、分かっております。分かっておりますとも。お師匠様の中ではそういう事になっているのですよね。このエトワール、理解しておりますから」

「何か勘違いしてないかい」

「もう無理にサンタマンの話題を口にしなくて大丈夫ですよ」


どうやらエトワールはマハリクが現実逃避をしていると思い込んだらしい。

エトワールの発言で、ピーリカはサンタマンが実在しないというのは嘘だと認識した。だがいくら悲しいからとはいえエトワールに冷たい態度をとるなんて、とマハリクに怒る。


「なんて意地悪な言い方するですか、それじゃあ師匠がババアって言っても納得です!」

「うるさいね、そもそもピーリカには関係ないじゃろ」

「そういう事言うのが意地悪です!」

「えぇい黙りな、ルルルロレーラ・ラ・リルーラ」


マハリクが唱えた緑の呪文。ピーリカの顔の前に魔法陣が現れ、ピカッと光った。光と魔法陣が消えたかと思えば、ピーリカの口元には緑色の葉が引っ付いていた。鼻は封じられていないので呼吸は出来るものの、これだと愛らしい唇が見えなくなってしまう。おいしいものも食べられないし、師匠とも話せない。なんて可哀そうなんだ。そう思ったピーリカは「ンーっ、ンンーっ」と唸りながら両手で葉を剥がそうとする。

喋らなくてもうるさいピーリカを見て、エトワールは哀れんだ。


「お師匠様、それは少しピーリカさんが可哀そうでは?」

「いいんだよ。それよりエトワール、さっきの木は消してきたのかい?」

「いいえ、そのままにしてあります」

「馬鹿者、あのままでは通行の邪魔だろうに。今すぐ枯らして消してきな」

「そんな。私は植物を育てる魔法なら使えますが、植物を退化させる魔法はまだ取得していません」

「出来るか出来ないかなんて聞いてないよ。ワシはやれって言ったんだ、黙ってやりな。とっとと行くよ」


マハリクは杖をついてゆっくりと歩き始める。エトワールはその後ろを歩き始めた。

その場に残ったピーリカは葉と格闘していた。だがいつまでも剥がれる様子のない葉に、こっちをどうにかするよりマハリクをどうにかした方が早そうだと考えて。口に葉をつけたまま二人を追いかけた。



 魔法使い達が集う建物の前を塞ぐように聳える大きな木。その手前にあった切り株に腰をかけたマハリクは、大木の前に立つエトワールに言った。


「いいかい、緑の呪文はルルルロレーラ・ラ・リルーラ。ただそれだけさ。その呪文を間違えてしまえば、植物は枯れるどころか成長し続けるだろう。最も、エトワールが呪文を間違えた所は見た事ないから。その辺は心配ないだろうけどね」

「はい。ルルルロレーラ・ラ・リルーラ」


両手を前に構えたエトワールは、緑の呪文を唱えた。だが何もおきず、大木は青々しく生い茂っている。

弟子の魔法の様子を見て、マハリクはため息を吐いた。


「想像する力が弱いんじゃよ。もっと植物が枯れるイメージを強くしな」

「はい。ルルルロレーラ・ラ・リルーラ」


もう一度呪文を唱えたものの、木に変化はない。その後何度も同じ呪文を唱えるものの、何かが変わる事はなかった。しいて言えば、空に浮かぶ雲が少しだけ移動したくらいだ。それでもエトワールは諦めずに呪文を唱え続ける。

そんな彼女達の元へ追いついたピーリカ。口にはまだ葉が引っ付いている。

喋る事の出来ないピーリカはマハリクの肩をポンと叩いた。一瞬だけピーリカに目を向けたマハリクだったが、すぐにエトワールへ視線を戻した。無視されたピーリカは、もう一度マハリクの肩を叩く。だがマハリクは先ほど同様、一瞬しかピーリカを見なかった。

自分の弟子ではないわたしを無視する気だな。そう思ったピーリカは、何とかしてマハリクの気をこちらに向けようと考える。


『話す事の出来ない可哀想なわたしが見てもらうためには、余程インパクトのある所を見せつけなければ。だが相手は、世界で一番愛らしいわたしを無視するばーさんです。頭がおかしい。普通に魔法を使って驚かそうとしても、驚かないかもしれないですね。待てよ? そもそもわたしは今呪文を唱えられないな?』


そう気づいて。

ピーリカは魔法を使わずともマハリクを驚かすものはないかと周囲を見渡す。草木ばかりの緑の領土。パッと見て面白いと思えるようなものはなかった。見つかったのは一本の木の枝。何かの衝撃でか自然にかは分からないが、先端が折れて鋭くなっている。

枝を拾い上げたピーリカは、その先端をマジマジと見つめ。マハリクを驚かす方法を思いついた。

右手に枝を掴んだピーリカは、すぐマハリクの真横に立ち、再びポンポンと肩を叩いた。


「しつこいね、何度やっても葉は剥が……」


先ほど同様、マハリクは一瞬だけピーリカを見た。だが先ほどとは違い、ピーリカは木の枝を掴んでいて。

いつも愛らしいと豪語している自身の顔に向けて、勢いよく枝の先を突き刺そうとしていた。

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