小説を書こう
その頃自分にはとにかく時間があった。特に次を決めることなく今まで働いていた仕事を辞め、どうしようかとぶらぶらしていた頃だった。
時間はたっぷりあった。やりたいことができる。最初の頃は悠々自適だったが、二か月も過ぎれば楽しさはすっかり消え失せ不安と焦りに変わり始めた。
自分はどうしたらいいのか。辞めるべきではなかったという考えはなかったが、もう少し計画性を持って行動するべきだったとは後悔し始めていた。そして当たり前だが時間も金も有限であるという事実が日毎に自分を圧迫し始めた。
何かしなければ。毎日気になる仕事先を探し、たまに面接に行っては落とされる日々。今考えれば当然だった。何かしたいという気持ちはなく、前の職場よりしんどい思いをせずに済む仕事を探せればそれで良かった。そんな程度の人間を誰が雇いたいと思う。
無駄な日々が続いていた。そんな日々の中で自分はある恐ろしい事に気付いた。
口と頭が回らないのだ。今まで毎日のように頭を捻り続け、お客様とひたすら打合せをするような仕事から一転して一人で向き合う時間が続いていた。圧倒的に人との交流がなくなった事がもろに脳みそを劣化させた。まるで脳みそが段々溶けていっているような感覚だった。
不安と焦りに恐怖が混ざり始めた。このままでは仕事に就くどころか、人間ですらなくなってしまう。そんな気さえしてきた。転職活動と言っても一日中何かできるわけでもなかった。そんな中で自分は考えた。
時間を潰せる。お金もかからない。頭も使える。
この三つを満たせる何かないか。そこでふっと思いついた。
ーーあ、小説を書こう。
小説を書き始めたきっかけはそんなものだった。
自分でもびっくりしたのは気付いたら一本書けた事だった。今まで学生時代に何かしらを書こうとした事はあったが、どれも2.3ページ程度で飽きてしまって書き上げられた事は一度もなかった。
だがその時は何の苦も無く書き切る事が出来た。自分が書いてみたいというものが初めてうまく頭の中でまとめられたからだろう。数日ほどでひたすらに自分が好きなものを詰め込んだ小説が出来上がった。
達成感は心地よいものだった。十分満足だった。でもどうせならこれを誰かに読んでもらえたらもっと面白くなりそうだなと思った。
そういった場所がないかを探していた時に見つけたのが、「小説家になろう」だった。
ライトノベル系、今でいう”なろう系”と呼ばれる作品が中心と書いてあったが、一番分かりやすいし使いやすそうだったのでここに投稿する事にした。
タイトルと本文をサイト内に貼り付け、投稿ボタンを押した。
初めて書いた小説を初めて他人の目に触れる場所に置いた瞬間だった。