初めての運動会
今日は運動会がある。
うちの学校では6月にやるから、たまに雨で延期になるときもあるらしいけど、今年は私が雨を吹き飛ばした。本当に吹き飛ばした。
実は私は今でも、ドラゴンに変身できる。魔法で一時的にだけど、
そんな大きなドラゴンとなった私が、本当に雨雲を吹き飛ばしてやった。
今朝のニュースでは、天気予報士がびっくりしてたね。
私は腹筋が鍛えられてしまうほど笑ってしまった。
なお、この年から6年間は、運動会の日は絶対晴れるようになった。
今日の運動会では、おかしくない程度に頑張るつもり。両親も来ているし、優衣も来ている。
乃愛や同級生、知り合いも多く見ている。
かっこいいところを見せつけるのだ。
運動会では、5つのチームに分かれて戦う。1学年に1クラスが割り当てられ、1~6年が同じチームになる。縦割りってやつ。
私は玲先輩のクラスと同じチームになったので、小学校最後の運動会に、優勝を送りたい。
私が出る種目は、クラス対抗50メートル走、チーム対抗リレー、そして、チーム対抗大玉送りに、学年の団体演技がある。
クラス対抗50メートル走と、大玉送り、団体演技は全員強制参加なんだけどね。
校長先生の保護者向けの長い挨拶や開会式が終わり、競技が始まりだした。
私は最初に、学年の団体演技がある。今年はポンポンを持って、可愛いダンスをする。
元ドラゴンの私は、もちろん完璧にダンスを覚えている。
演技も完璧に終え、次の出番までのんびり過ごすことにした。
「真白ちゃん、次はクラス対抗50メートル走だね。」
「そうだね。がんばろうね、乃愛ちゃん。」
「うん。でも、私運動苦手だから、運動会って嫌いなの…。」
「そっかぁ。でも、結果にこだわらなくて良いと思うよ。乃愛ちゃんが頑張ったら、それでいいと思う。」
「でもぉ…。」
「じゃあ…。」
私は乃愛ちゃんの耳元に近付き、小さな声で言った。
「頑張ったら、帰りにチューしてあげるね。」
「っ!うん!私頑張るね!」
「あはは…入場口に行こうか。」
小学生の女の子が、チューでやる気を出すってどうなんだ…?
50メートル走はもちろん1位で終え、気付けば昼食の時間になっていた。
うちの学校は生徒が多いから、昼食は各々の教室で食べた。
昼休憩をし、大玉送りで2位になり、プログラムはどんどん進んでいった。
そして、最後の競技になった。
チーム対抗リレーは、1~6年が1クラス1人ずつをだし、一人200メートルを走る。
低学年にとってはかなりの長距離のため、1~3年は、1クラス2人だし、100メートルずつ走ることも出来る。
そして、走る順番は、チームで自由に選べる。しかし、1クラスから2人出す場合は、1~3走までは、1~3年の順番で走ることがルールになっている。
例年、ほとんどのチームは、1~3走は、1~3年が走っているらしい。
しかし今年の私のチームは、その常識をぶち壊すこととなった。
「真白ちゃん頑張ってね!」
「うん、乃愛ちゃんありがとね。」
出場者の皆と合流し、運動場に入場していく。
「さぁ、いよいよ最後の競技、チーム対抗リレーになります。今年はなんと、3組チームの1年は、1人で200メートルを走りきるようです。これは過去10年以上無かった事です。どんな展開になるのでしょうか!」
解説の先生の声にも、力が入っている。
ちなみに、3組チームとは、私のいるチームである。
…へぇ、10年以上ぶりなんだね。
「ではいよいよ、スタートの合図が鳴らされます。…今始まりました!」
ピストルの音が響き渡り、リレーが始まった。うちのチームは、2・3・4・5・1・6年の順番で走る。
さすがに6走目は、6年が走ることが暗黙のルールとなっている。
その方が迫力あるもんね。
「今2走にどのチームも変わりました!3組は、2走を3年生が走っています。そのおかげで、どんどん間が開いていきます!」
おぉ、作戦通りに行ってるね。これで何もなければ良いんだけど。
「そして、3走が終わり、4走が走り始めました!このあたりになってくると、皆迫力が違います!3組も速いですが、他の組も速いです!」
開いていた間も、徐々に埋まってきている。
今年は、他のクラスの走者が強いみたい。
まぁ、うちの組がまだ勝っているけど。
「いよいよ、第5走になります!3組は1年が走るということですが、大丈夫でしょうか。
…あっ!バトンを渡す直前で、3組が転倒しました!この間に他の組が抜いて行きます!」
うっわっ、タイミング悪い!すぐ4走の女の子は立ち上がったけど、転けた瞬間にバトンが飛んでいってしまった。
女の子はバトンを拾って、私に渡してきた。
「ごめんなさい!」
私と他のチームでは、50メートルほどの差が生まれていた。
女の子も泣きそうになっている。
でも…私は元ドラゴンだ。
「任せて。」
私はバトンを受け取り、前を向いて走り出した。
今の私が、魔法も何も使わずに、走れる本気を出す。
「今3組の5走目が走り出しました!おぉ!1年なのに速い!どんどん間が埋まっていきます!」
他の走者は全員5年だから、身長も高く、歩幅も大きい。
でも、私は元ドラゴンだから大丈夫。身体のスペックが違う。
うちのチームの6走は、玲先輩だ。
他のチームとの差は15メートルほど。
でも玲先輩は、余裕の笑顔だった。
「お願いします!」
「任せて!」
バトンを受け取った玲先輩は走り出した。
「今、3組が6走にバトンを渡しました!1年の真白さんが埋めた間を、さらに詰めていきます!3組速いです!」
玲先輩はどんどん他のチームを抜かしていき、そして…。
「ラストのカーブを曲がり、残り50メートル!3組が1組を追いかけています!その間もどんどん埋まっていきます!」
パンッ!パンッ!
走者がゴールした瞬間に、ピストルが鳴らされた。
「アクシデントもありましたが…今年のチーム対抗リレーの1着は…3組です!」
玲先輩が、1位でゴールテープを切ったのだった。
「玲先輩速かったですね!」
「真白ちゃんが詰めてくれたから勝てたんだよ。真白ちゃんも走るのすっごく速かったね!」
「遅かったらあんな作戦たてませんよ。」
「そうだね。勝てて良かった。」
「はい。」
「そろそろ閉会式だね。真白ちゃん。」
「はい?」
玲先輩、その手は何ですか?私に掌を見せても何もないですよ?
「真白ちゃんってハイタッチって知らない?」
「あぁ、ハイタッチですか。」
「知ってたんだ。じゃあしよっ?」
「はい!」
「いい走りだったよ。おつかれさま!」
「おつかれさまでした!」
パチンっといい音を鳴らして、玲先輩とハイタッチをした。
「それでは、いよいよ優勝した組の発表です!」
閉会式になり、校長のありがたくないお話を聞いた後、ついにその瞬間がやって来た。
「今年の優勝は…。」
先生が変に溜めるから、周りがザワつく。
「優勝は…3組です!」
「やったっ!」
つい喜んでしまう。でも、皆で頑張ったもんね。
良かった、玲先輩を勝たせることが出来た。
「それでは、賞状の授与を始めます。」
部門ごとの賞状や、2位までの賞状が授与されて、最後に私の組の授与の番になった。
「それでは、優勝した3組は、トロフィもありますので、代表者2人前に出てきてください。」
あ、今までは1人だったのに、最後は2人なんだ。
1人は玲先輩として、もう一人は誰だろう?
玲先輩が立ち、こちらを向いた。
「真白ちゃん、前に来てー!」
「えっ!?」
え、私を呼ぶの!?
6年の中から選ぶものでしょ!?
「皆、もう一人は真白ちゃんで良いよね?」
玲先輩がそういうと、3組の皆が頷いてしまった。
うそぉ、逃げ道無くなったじゃん。
私は周囲の視線に促されて、前に立ってしまった。
「さっきのリレーで大活躍したお二人ですね。それでは校長先生、よろしくお願いします。」
校長先生が賞状を渡してくれる。
トロフィはそこそこに大きいから、玲先輩が自然に持つ流れになった。私でも持てますけどね?
「優勝おめでとう!」
「「ありがとうございます!」」
二人で皆の方を向き、賞状とトロフィを掲げる。するとクラス関係なく、皆が拍手してくれた。
「それでは、最後に生徒会長による、閉会の言葉です。」
最後の役割は、玲先輩がするらしい。
玲先輩は、笑顔で朝礼台に立った。
「生徒のみんな、今日はお疲れ様でした!優勝したのは3組だったけど、お互いに協力して、本当に素晴らしい運動会になったと思います。これからまた勉強をしたりで大変だと思うけど、今日みたいに皆で頑張ろう!
それでは、これを以て、閉会の言葉とします。」
生徒や先生、保護者からも大きな拍手が送られる。
玲先輩は1度礼をして、朝礼台を降りた。
これで、私の初めての運動会は終わったのだった。
お読みいただきありがとうございました。
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