恋が一瞬で冷めてしまうかどうかは人による
ぼくはその日のうちに大助の家に押しかけて早々に尋ねた。
大助が春風さんを好きになったのは、自分の夢に堂々と胸を張っているところ。でもそれは……。
「ああ、神妙な顔で何を聞くかと思ったら、春風さんの夢が嘘だったって話を気にしてるの?」
「お、おう」
大助はあまりにもあっさりしていた。なんだか予想していた反応と大分違う。
「いやおまえ、二人が喧嘩してからずっと落ち込んでたんじゃないのか?一日中ずっとぼーっとしてたみたいだし……」
「それはその、文化祭をどうにか成功させるためになにか方法はないかなってずっと考えてたからで、別に落ち込んでたからじゃないよ」
どうやら、ぼくが勝手に勘違いしていただけのようだった。恥ずかしいったらない。
「で、まだ好きなのか?春風さんのこと」
「えっと、嘘だったっていうのを聞いたときは確かにびっくりしたけど、ぼくはそんなこと関係なく今でも春風さんのことがす、す……好き、だよ」
最後の方に行くにつれてボソボソと喋りながら、大助は顔を赤らめた。本人に伝えるわけでもないんだから、もう少し堂々と言えないものだろうか。いざ春風さんに告白する時が心配で仕方がない。
「でもおまえ、春風さんの、夢を堂々と公言しているところを好きになったって言っていたじゃないか」
「確かに最初はね、それでよく目で追うようになったんだ。でも次は何気ない仕草を好きになってさ、その次は話し方とか、外見じゃない中身も好きになって。春風さんの夢が嘘だったとしてもそんなのどうってことないくらい、それ以外の春風さんの好きなところをぼくはいっぱい知ってるから」
大助はそう言って、笑みを浮かべた。
そういうのを本人に言えたら世話ないのになぁ……。
嘘だと知って大助が傷ついているやもと思ったけど、どうやら僕の杞憂だったらしい。
文化祭を成功させる方法とやらを考えているらしいが、「なにかできることないのかなぁ……」と唸ってるところをみると、良い案はまだ浮かんでいないようだった。
劇についてはぼくも、どうしたものかと絶賛頭を悩ませ中である。
「春風さんの役、主役だからセリフはかなり多くて、セリフ覚えてるやつも短時間で覚えられそうなやつも居なさそうだからなあ。それに加えて振り付けとかも覚えなきゃいけないわけだし。本番で付け焼き刃のグッダグダ演技でもしたら黒歴史待ったなしだからな。周りがめちゃくちゃ練習したのもあって、粗はかなり目立つだろうし。進んで代役やろうってやつはいないだろうなあ」
ぼくがそう言うと、大助は顎に手を当て何やら小声でぶつぶつと独り言を言い出した。
「セリフと、演技か。でもそれって……」
「おーい大丈夫かー」
ダメだ。声をかけても目の前で手を振ってもまったく反応がない。
「でもぼくに人前に出てそんなことするなんてできるわけ……」
ブツブツが途切れたと思ったら、今度は突然、自分の頬を両手で挟むように思いっきり叩き出した。パアンという破裂音が部屋に響きわたる。
大助は両頬にもみじ型の跡をつけながら、真剣な眼差しでぼくを見た。
「ねえ、佐藤くん。ひとつ提案があるんだけど」
そしてぼくにそう話を持ちかけてきた。