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こんなしょうもない罪でぼくは地獄に堕ちかけているらしい

「裁判って言うけどさ、裁判官は閻魔ちゃんで良いとして……いや全然良くはないんだけど、弁護人とか居ないのかよ」

「無論いない!」


 力強く肯定された。つまりこのちまっこい閻魔大王代理の独断と偏見でぼくの行く末は決まるらしい。絶望しか無い。


「ここでの裁判は現世でいう裁判とはシステムが異なるからな。まずこれを見よ!」


 閻魔ちゃんは裁判官席の右隣を指差した。そこには裁判官席と同じぐらいの高さまで伸びた透明なガラスの筒の中に、半分ほど黒い液体がチャプチャプと揺れていた。


「この中に入っている黒い液体は、お前が生前に犯してきた罪を表したメーターだ。地獄行きメーターと言ったところだな。この中身が満タンになると、おまえは晴れて地獄行きというわけだ」


 なにも晴れ晴れしくない。


「じゃあ、その中身が満タンになってないってことは、ぼくは地獄に行かなくても済むってことか?」

「残念ながら、それは違いますね。今容器に入っているのは、あなたが行ってきた小さき罪のみをまとめたものです。大きくメーターを上げるだろうと予想される罪は、これから加算されていきます」


 と、ぼくの疑問に青鬼さんが答えた。


「えと、どういうこと?」


 しかし、ぼくの残念な頭では、その内容を噛み砕くことができなかった。


「要するに、地獄行きになる可能性はまだ十分にあるということですよ」


 そこまで簡潔に言われて、ようやくぼくは納得する。


「まあ、こういうのは実際にやってみたほうが早いだろう。……説明するのもめんどくさいし」

「おいおまえ今なんて言った」


 小声でぼそっと付け足したのが聴こえたぞクソガキが。職務を全うしろ。


「では最初の罪を読み上げるぞ。えー、唯一の友人である西宮大助から恋愛相談された際、おまえには無理だと冷たく突っぱねて、恋を諦めさせた罪」

「なんだそのクソしょうもない罪は!」


 そのあんまりな内容にぼくは叫んだ。そんなことでいちいち裁かれてたらたまったもんじゃない。つーかこんなのがメーターを大きく上げる罪なのかよ!


「しょうもないとはなんだ。 西宮大助は告白しなかったことを今でも後悔しているというのに他人の人生を狂わせた自覚がないとは」


 閻魔ちゃんがやれやれと首を振った。


「だって相手が明らかに高嶺の花だったんだぞ。どうせ断られてたんだから、それを食い止めてやったんだ、むしろ善行だろ」

「罪を認めないだけには飽き足らず、自分の行いを正当化するとはまったく救いようのないクズだな」

「清々しいほどの開き直りですね」


 なぜか弁解するぼくを鬼二人は冷めた目で見てくるが、事実を言ってなにが悪いというのか。


「ところがだ。その高嶺の花と大助は運命の赤い糸でつながっていたのだ。だから、おまえは親友と、その運命の相手である相手と、二人の人生を狂わせたわけだな。これは大罪だぞ」


 なぜか愉快そうに閻魔ちゃんが笑った。


「わかるわけないだろうがそんなの。クラスの人気者と地味なオタクが運命で結ばれてるとか、どこの漫画だよ」


 運命の赤い糸なんて知るか。


「とにかく罪は罪なんだ。おそらくこの罪を勘定にいれれば、地獄行きメーターをぐぐーんと上昇させることは間違いない。地獄行きは間違いなしだな。しかし私も鬼では……いや鬼だったわ!」


 クソ寒いボケに、ぼくと青鬼さんのよりいっそう冷めた視線がキメ顔の閻魔ちゃんに突き刺さる。


 閻魔ちゃんはぼくらの視線にくすぐったそうに身をよじると、わざとらしく大きな咳払いをした。


「と、とにかく。お前にはこの罪を帳消しにする機会が与えられている。おまえはその機会を利用するか?」

「いや、それぼくにイエス以外の選択肢なくないか?」


 考えるまでもない。だって地獄行きなんだぞ。ぼくはたとえどんなに面倒な条件を突き付けられたってやるしかないのだ。


「形式的にこう聞かなかきゃいけないって決まってるのだ。でだ。おまえのこの罪は、当人たちの恋を成就させることで帳消しとする」

「は?いや、ぼくって死んでるんだろ?どう頑張っても無理じゃないか」


 ぼくには閻魔ちゃんの出した明らかに破綻した条件に当然抗議をした。


「閻魔大王様、ちゃんと説明しないと。これじゃあ佐藤さんもわかりませんよ」

「わたしは言ったはずだ、やってみたほうが早い!そして説明するのは面倒くさいと!だからとにかく行ってこい!為せばなるのだ!」


 呆れたようにたしなめる青鬼さんに、しかし閻魔ちゃんはそう答えて、いつのまにか握っていた小づちを振り下ろした。そしてバンっという破裂音とともに、脳を揺さぶるような頭痛と耳鳴りがぼくを襲って、目の前がまっくらになった。


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