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Tバックマシン  作者: Tai
第六章
38/49

繰り返される日常(3)

 

「……疲れた」

 僕が飛行機を降りてすぐにこう言ったのには理由がある。

 長時間のフライトのせいではない。座った席が問題だったのだ。

 地元の空港から国際線が発着する都会の空港に向かう飛行機は特に問題なかった。一時間半のあいだ、横一列に座った同じクラスの男子たちと大富豪をして盛りあがって楽しかったから。

 でも、都会の空港から乗った飛行機が問題だった。

 三人席の真ん中に僕、窓側に吉岡、通路側に中島先生という地獄のような並びの席だったのだ。何度タイムバックしてもこの席順は絶対に変わらない。どうしてなんだ。

 別に吉岡と中島先生が嫌いなわけではない。吉岡は大切な友だちだし、中島先生は三年間担任ということもあって色々な話を気軽にできる人だ。

 このふたりは、家族と同じくらい僕のことを知っている。

 だから、地獄だったのだ。

 吉岡が僕の桜井さんへの恋心をいじってくる。中島先生も止めてくれればいいのに、吉岡の話に乗って、桜井さんのどこに惚れたのかを知っているくせに改めてきいてきた。

 ふたりして桜井さんを狙っている人は多いなどと僕の不安を煽ってきて、いつ告白するのと詰め寄ってもきた。

 吉岡は修学旅行ハイなのかまったく眠らず、暗くなった機内で悪い笑顔と囁きで延々といじってきた。中島先生も注意せず、むしろ、吉岡と一緒になってひそひそ声でちょっかいをかけてきた。先生は、にやにやっとした大人の悪い笑顔を浮かべていた。

 大きな鬼と小さな鬼に挟まれた地獄のような席で七時間半も過ごしたから、僕は修学旅行の初日に似合わない言葉を発したのだ。

 ホテルへ向かうバスに乗るや否や、見慣れない外の景色に盛りあがるクラスメイトの弾んだ声に鼓膜を揺らされながら僕は眠った。

 ホテルに着いても眠気はなくならず、部屋に入ってすぐに真っ白でふかふかなベッドに飛びこんだ。ホテルでの二時間の休憩も睡眠に使った。

 休憩が終わると、バスでこの国の先住民族の暮らしを体験できる施設に移動した。

 大きなブーメランを投げる体験をしたり、先住民族に伝わるダンスを鑑賞したりした。松明を持って足で力強くリズムを刻む踊りは何度観ても幻想的でかっこいい。

 夕食はホテル近くのレストランで食べた。今回も、吉岡は、日本じゃ食べられないしー、と言って嬉しそうにワニ肉ばかりを食べていた。吉岡が肉を食べて笑うたびに、白い八重歯が妖しく輝いて背中がざわついた。



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