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Tバックマシン  作者: Tai
第五章
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勉強、喧嘩そして海へ(6)

 

 賢人と吉岡が仲直りしたので、僕たちにまた勉強会という日常が戻ってきた。

 夏休みが終わった後も、体育祭の準備をしながら毎日、四人で勉強会を開いた。

 僕たちが熱心に勉強していることを知った中島先生が、使われていない空き教室を開放してくれて、下校時間まで勉強会を見守ってくれるときもあった。

 中学生最後の体育祭で、僕は去年と同じように走る種目ばかりに出場して、桜井さんはまたクラス旗のデザイン賞を取って、賢人は応援団でかっこいい演舞をみせて、吉岡は五十メートル走で賢人と頻繁に連絡を取っていた女子に勝って喜びを爆発させていた。僕がそう感じただけで、純粋に一位という結果に満足していただけかもしれない。

 賢人と連絡を取っていた女子は、ふたりの仲を引き裂くために賢人にちょっかいをかけていたらしい。賢人のことが好きで、吉岡との交際にずっと納得していなかったそうだ。

 その話を初めてきいたときは、女子の世界はなんて怖いんだと震えた。それにしても、賢人はモテるな。羨ましいかぎりだ。

 陽が短くなり寒さが顔をだしはじめるようになってから、僕たちはますます勉強に力を入れた。

 冬休みも毎日のように四人で集まって勉強し、正月は桃太子先輩も入れた五人で初詣に行った。四人とも選抜クラスに入れますように、と僕は願った。

 五人のなかで誰よりも長く祈っていた桃太子先輩は何てお願いしたんだろうな。何度きいても、ひみつー、とはぐらかされてしまう。よっぽど大切なお願いなのだろう。

 冬休みが明け、ついに最終テストの日を迎えた。

 朝から教室の空気は緊張感でぴりついていて、みんな、自分の席に座って教科書やノートと睨み合っていた。

 僕は廊下側のいちばん後ろに座る吉岡を見やった。

 いつもの吉岡なら、朝は友だちとのお喋りに夢中だけれど、今日は険しい顔でプリントを見つめ、口を忙しなく動かしていた。一限目の社会に向けて年号や人物名を暗記しているのだろう。

 僕は暗記が得意なので社会は自信がある。不安なのは四限目の英語だ。僕の脳は、英単語だけは覚えられない作りになっているのだ。

 他のクラスのふたりはきっと大丈夫だ。

 先月のテストで桜井さんは学年一位、賢人は八位だったので、いつもの力がだせれば、まず問題ない。そのふたりが好成績なので、先月のテストで三十四位だった吉岡は相当、焦っているのだろう。選抜クラスに入るには最終テストで三十位以内でないとだめだから。

 僕は先月のテストで二十八位だったので変なミスをしないかぎりきっと大丈夫だ。

 一限目の社会は人名を答える問題が多く、暗記が得意な僕はすらすらと解けた。満点を取れている自信がある。

 二限目の数学も確かな手ごたえを感じた。数学の試験時間中にちらりと吉岡を見ると、楽しそうにシャーペンを走らせていたので僕は安心した。

 三限目の理科は先生のいじわるなのか、高校一年生の内容が多く出題された。中学三年間分が範囲なんじゃないのかと不満を抱いたけれど、桜井さんに教えてもらっていた範囲だと気づいたら、余裕を持って問題に取り組めた。

 昼休みを前にして、最も不安な英語の時間がやってきた。

 最初に英単語を答える問題が五十問も出題され、このテストを作った武本先生に怒りを抱かずにはいられなかった。その後の文法問題は、桜井さんが出題されると予想した構文が次々とでて、迷いなく解くことができた。さすが、学年一位の桜井さん。

 昼休みは僕の教室に来た賢人と一緒にお弁当を食べた。

 賢人は、余裕だな、と言って、大好きな唐揚げを頬張っていた。吉岡は自分の席でひとり、お弁当を食べながら最後の国語に向けて、ノートをぺらぺらとめくっていた。

 国語のテストはさほど難しくなかった。

 ただ、最後の問題を前にして、僕の手は止まってしまった。

 〔後期課程での目標は?〕

 自由記述のこの問題は、ふざけた解答を書かないかぎり丸をもらえるのだろう。テストを作成した先生の優しさが詰まった問題だ。

 でも、僕は素直に答えを書けない。

 だって、今の僕は、タイムバックしている僕だから。


 

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