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Tバックマシン  作者: Tai
第二章
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知るということ(6)

 

 帰るとすぐに研究室へ向かった。じいちゃんに話したいことがたくさんある。

「じいちゃん、ただいま」

「おお、隼。おかえり。どうだった?」

 僕はいつもの丸椅子に座って、じいちゃんに決意をこめた眼差しを向けた。まず、これを伝えないと。

「黄陽を受験することに決めた」

 僕は力強く宣言した。

「そうか」とじいちゃんは頷いた。

「憧れの先輩がいて、新しくできた友だちがいる黄陽に行きたい」

 権力先輩みたいにかっこいい人になって、賢人と楽しく過ごす。戻る前には抱けなかった目標が見えた気がする。

 それでね、と僕は興奮した口調で、じいちゃんに見学会のことを色々と話した。

 権力先輩が描いてくれた絵のこと。賢人がかっこよかったこと。模擬授業の後、校舎を見学しているときに、権力先輩が教えてくれた学校豆知識のこと。西校舎の自動販売機のほうが飲み物の種類が多いとか、校内にはKのマークが隠されているところが十か所あるとか、東校舎の三階の女子トイレにはお化けがでるとか。

「合格したら、Kのマークを一緒に探そうって賢人と約束したんだ!」

 静かに話をきいていたじいちゃんは、今にも泣きだしそうな顔をしている。涙をこらえるためか、鼻の穴を忙しそうに膨らませては萎ませてを繰り返していた。眼鏡が少し震えている。

 悲しい話なんてひとつもしていないのに、どうして泣きそうな顔をしているのだろう。

 気になったことはとりあえずきいてみる。

「どうしてじいちゃんは、泣きそうな顔をしてるの?」

「隼に友だちができて、うれしいからだよ」

 僕が首を傾げてぽかんとしていると、うれしいときも涙はでるんだ、とじいちゃんは言った。

 僕は悲しいときや怒られたときしか泣かないし、母さんも父さんのことで辛くて悲しくて泣いていたし。うれしいときに泣くなんて、じいちゃんはやっぱり、変わってる。

「隼。一度合格してるからって油断しちゃだめだぞ」

 じいちゃんが目にたまっていた涙を指で拭って、にかっと笑った。

「じいちゃんの孫だから大丈夫だよ」

 僕は、にかっと笑い返した。

 僕の答えをきいたじいちゃんは大口を開けて、うははっと気持ちよさそうに笑った。その笑い声で研究室は楽しい空気に包まれた。


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