42.既視感
書き溜めた分を一気に投稿いたします。バタバタしていて推敲する時間もなかなか取れず、誤字脱字がかなり目立つかもしれませんがご容赦ください。(もし誤字脱字を発見したらご報告頂けると泣いて喜びます…。)
幸か不幸か、アルボレス共和国軍は敗走兵の引き渡しを要求して来なかった。
僕たちルミエーレ王国側にとっては、反乱兵とは言え同じ国の国民だけに、無為に殺される事は無くなり内心ほっとした。
だが反面、千をゆうに超える敗走兵が集まってしまい、ポートランドが比較的豊かとは言え、食糧難になることは目に見えている。
「これもあちらの思惑通りなのでしょう。大したものだ…。武器の類を取り上げ、ハバラに追い返す他ないでしょうな。」
長官のこの一言がきっかけで彼等の処遇が決まった。
ハバラは南方の都であり、南方軍が駐留している街でもある。まずはそこに帰そうというのだ。
そんな中で敗走兵達から得た無視できない情報があった。
「南方公、フランシスコ様がハバラで幽閉されている。」
それを聞きつけ、事後処理に追われるロメオを残して、僕たち王室親衛隊は一路、ハバラに向かったのだ。
そしてそこで目にしたものは…。
「あれは!?国王軍の軍旗!?」
「第二軍、第三軍のものみたいだな。第一軍は王都の警備だろう。」
驚く僕とは対照的に、アルが冷静に洞察する。
国王軍は三つの大軍団からなる。セルジオ将軍が管轄する第一軍は、そのほとんどが貴族の子女で構成されている為、こういった有事の際は、後方支援の名の下に王都の警備にあたる事が多い。
第二軍はペトロネラ長官が管轄する魔法士の軍隊で数はそう多くない。
逆にグラート将軍が管轄する第三軍は平民から募集を募っていて、その数も膨大であり国王軍の主戦力と言える。
曲がりなりにも貴族である僕らが、第三軍の新兵訓練に顔出し始めた当初、何かと風当たりが強かったのもこの辺に由来している。
「第三軍は分かるとして第二軍が出ずっぱるのは珍しいな…。」
「ペトロネラ長官はアルボレスの技術に興味津々だったからね…。」
僕とアルは後方からついて来る馬車をそっと顧みた。だが薄暗い車内に居るはずのエレンの顔は窺えなかった。
*****
「なんと…、そんなとんでもない技術が…。」
グラート将軍が絶句している。
ハバラの街に入った僕らはすぐさま軍会議に呼び出された。
グラート将軍に副官のゴドールさん。ペトロネラ長官と幸い無事だった南方公様が参加されている。
ちなみに反乱の首謀者である南方公の御子息、ジェイコブさんは、南方公様の替わりに幽閉されているらしい。厳罰は免れない、とのことだ。
「弓矢も効かない。突撃も自殺行為となると、後は籠城でしょうか…?」
「この街の城壁でもつかのう…。」
ゴドールさんの言葉が南方公様の一言で打ち消された。
「籠城で問題ないでしょう。」
これに答えた声は意外な所からだった。ペトロネラ長官だ。
「しかし、それではジリ貧にならぬか長官?」
グラート将軍の言葉に、ペトロネラ長官は首を横に振ると、意味深な笑みを浮かべた。
「皆さんは城壁の守護と防御に専念なさって下さい。何も新兵器が有るのはあちらだけではありません。」
「それは一体…?」
「今はお伝えできませんわ。ですが陛下から使用許可は頂いております。」
「…。」
訝しげな顔のグラート将軍。将軍でも知らない新兵器、という事なのだろう…。
僕はチラリとクロを見るが、クロは小さく首を振る。
「それで、かの国の軍はどれぐらいでここまで来るのかしら?」
「徒歩での行軍になるだろうが、2日もあれば到着するのでは無いだろうか?」
「それだけの時間が有れば十分ですわ。」
ダラス長官の答えを聞いて、ペトロネラ長官は更に笑みを深くした。
そのペトロネラ長官をエレンが硬質な無表情で見つめているのが横目に見えた。
*****
あっと言う間に2日が過ぎ、ダラス長官の予想の通り、アルボレス軍がハバラの目前へと迫っていた。
ハバラ自体は交易の便を考えて、平原の只中に作られたと言う。
南北へと伸びる街道を挟んで穀倉地帯が広がっているが、その南へと続く街道を陣取るような形でアルボレス軍が展開していた。
「既視感…というのかな…。」
隣のアルが呟いた。僕らは城壁の所々に設けられた物見櫓の一つからハバラ平野を見渡している。
「そうね…。しかし、新兵器って一体何なのかしら…。」
イネスが呟く。その隣でエレンが押し黙っている。心なしか顔色が悪い。
この二日間、ペトロネラ長官の言っていた新兵器が何なのか、僕らは探りを入れてみた。だがクロでさえその正体が何なのか掴み切れずにいた。
そこでエレンが昨夜、思い切ってペトロネラ長官に直接、尋ねに行ったのだ。
結果、何も教えてくれなかった、とエレンは言っているが、それ以降、エレンの顔色が優れない。
(何か…とても嫌な予感がする…。)
『同感だが、何も情報が無い以上。動きようがない。今は黙って見守るしか無いだろうな…。』
クロが僕の心の声に応えてくれる。
「お?始まるようだ…。」
アルの声と共にハバラの城壁が開いていく。中から大楯を構えた歩兵部隊が飛び出し、人の壁を築いて行く。
その奥から出てきたのは、車輪を取り付けられた台座のような物だった。その上には複雑な魔法陣が描かれている。
そしてその上には…
「…あれは??子供…??」
白装束に身を包んだ小さな影が8つ。僕の目にはその白装束がまるで病衣のように見えた。
撃ち方、用意!!
あちらこちらからそんな声が聞こえる。
下を覗き込むと城壁に弓矢をつがえた兵士達が見えた。
弓矢は効かないのは知っているはずなので、牽制か何かだろうか。
第一陣、撃てえぃ!!
いくつかの伝令の声が重なると、
ビュッッッッッ
風を切り裂く音が響く。それが、ルミエーレ王国とアルボレス共和国の、本当の意味での戦争が始まった瞬間だった。




