41.開戦
平野に響いていた太鼓の音が止む。あたりを緊張の沈黙が支配した。
聖騎士団、南方軍は、槍を構えた歩兵を先頭に、騎兵である聖騎士団が両翼に構え、弓兵を囲う布陣をしいている。
一方、アルボレス共和国側は巨大な盾を前線に構えた歩兵のみの編成だ。
「海を渡って来たのであれば騎馬は稀少なはずだ。前線には投入しないのだろうな。」
アルが冷静に戦況を観察している。
ドォン…
一際大きな太鼓の音が響くと、聖騎士団の後方に陣取った南方軍の弓兵隊が空に向かって矢をつがうのが見えた。
一方でアルボレス共和国側には特に目立った動きは見られない。
ドォン…
更に大きな太鼓の音が響き渡った後…
ビュン!!
風を切る音が響き渡った。一斉に放たれた矢の音は数が多すぎる余り、逆に纏まって一つの音に聞こえる。
弧を描いて宙を切った矢の雨が、アルボレス共和国軍に降り注ぐ…、はずだった。
「…おいおい、どうなってやがる?」
ロメオの驚愕の声。
まるで目に見えない丸屋根でもあるかのように、大量の矢の雨はその軌道を逸らされて、周囲の大地へと突き刺さっていく。
「風除け…、いやあればもう風の結界だね…。大きさの桁が違うけど…。」
魔力を集中させた僕の目には、アルボレス共和国の上方を覆う風の膜が見て取れた。
ドン!ドン!ドン!
予想の範囲内かそれとも驚き勇んだか…、即座に太鼓の音が響くと南方軍の歩兵部隊が突撃を開始する。その両翼を聖騎士団の騎兵が駆け出した。
「アルボレス側も動いたな…。パイクか?」
アルが冷静に観察を続けている。
パイクとは対騎兵用に作られた長い槍の事だ。2〜3人で持つような長大な槍のようなものが何本も、アルボレス前線の盾の間から姿を見せる。
「パイクと言うよりは…筒…??」
そう言った僕の目に、パイクに向かって魔力が流れ込むのを感じた。そして次の瞬間
「「「なんだありゃ!?!?」」」
僕ら三人の驚きの声が重なる。
長大な筒の先端から、大樽ほどもある火球が放たれたのだ。
その余りの勢いに、南方軍の歩兵部隊はたたらを踏み、聖騎士団の騎兵は驚いた馬から振り落とされていく。
「…おいおいおい…。」
アルが絶望的な声を上げる。それもそのはずだ。巨大な火球は一発では終わらなかった。それどころか次から次へと放たれていく。
聖騎士団、南方軍の前線はあっという間に押し下げられていく。
「…エレンが何百人もいるみたいだね…。」
僕は重い空気をどうにかしたくて軽い冗談を言ったつもりだった。だがアルとロメオはまったく反応してくれず、それどころか隣の物見櫓で見ていて、声が聞こえるはずがないエレンに睨まれた気さえする。
「…勝負あったな…。」
アルボレス軍の前線が押し上げられだした時、アルがポツリとそう呟いた。
恐ろしい勢いで放たれる大火球を目の前に、聖騎士団、南方軍にはなす術は無く、散り散りに崩壊していく。
そして、問題はこれからだった…。
*****
「た、助けてくれ!!」
「頼む!!俺たちは聖騎士団に騙されたんだ!!」
「…。」
「頼む!!そうだ!ポートランドには叔母がいるはずだ!話を!話を通してくれないか!?」
「…。」
ポートランドの街には外壁と言うものが無い。どんどん外へと市が広がっていった関係で作る暇が無かったらしい。
自然と、街には敗残兵が逃げ込んできた。それらを捕らえるのが僕らと街の警ら隊の仕事になっていた。
「…これは、なんの為の戦いなんだ…。」
「…。」
僕の隣のアルが苦しそうに呟く。僕はそれに無言で答えた。いや、何も言えなかったのだ。
目の前の広場には、捕らえられた南方軍の兵士達が縄で括られて集められている。
同様に捕まった聖騎士達は反対に静かなものだった。
*****
「万が一、南方軍、聖騎士団の連合が負ける時は、我々は彼等と決別する覚悟を決めなければなりません…。」
開戦前の早朝、街の広場に集まった僕たち王室親衛隊とポートランドの警ら隊を前に、ブノワ長官は重い口を開いた。
いまいち意味が分かっていないのか、未だ広場は静かなままだった。
「決別とは…、彼等を見捨てる事です…。一切の敗残兵を受け入れてはなりません。それが例え顔見知り…、いや、家族であったとしても…。」
続いた長官の言葉に途端に広場が騒めきだす。
「静まれっ!!!!」
その騒めきはゲイルさん、ロメオのお兄さんで現ポートランド警ら隊隊長の一喝で静かになった。
「…もし南方軍や聖騎士団を助けてしまうと、私たちは彼等と同じ、と見なされるでしょう…。つまり、相手にこの街を蹂躙する権利を与えてしまうのです…。」
長官の絞り出すようなその言葉に、広場はシン…と静まり返った。
「もしそうなったら場合、外壁も無く一万にも満たない我々の兵力では、趨勢は火を見るより明らかだ。」
ロメオの父上にしてポートランドの領主であるザインさんが、長官の代りに口を開いた。
「儂は…、この街を…、この街の民を…、皆の家族を守る為なら…、この魂を悪魔に売り渡しても良いと思っておる。」
ザインさんがこの街の事を一番に考えている事は誰もが知る事実だ。それだけにこの言葉は重い。
「私たちに出来る事をしましょう…。一人でも、この国の民を守る為に…。」
最後に長官が苦々しく呟いた。
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プレリュード83話




