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シャ・ノワールと騒乱の聖歌  作者: 蒔田 椎太
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4.荷運び

『なるほどな。それで二人して意気消沈しているわけか。』


帰り道の馬車の中で事情を聞いたクロは開口一番そう言った。


『まぁ、その監督官の言う事ももっともだな。お前達はもう一人前の大人として扱われているんだ。振る舞いを考えなければな。』

「…面目無い…。」


そう言われてアルががっくり肩を落とした。


「それにしても拾い物もさせてくれないなんてさ…。イネスの言う通り、お客様扱いだよね。」


僕はふうとため息をついた。そんな僕ら二人の様子をクロは黙って見つめている。


「…そういえば最近クロは何してるの?殆ど控え室に居ないけど。」


沈黙に耐えられずに僕はクロにそう問いかけた。


『うむ…、情報収集をな…。俺たちは王城ではまだまだ新参者だ。あちこち見ておく事も必要かと思ってな。』


なるほど…。と僕は返事を返した。


『お前達こそ普段、控え室で何をしているのだ?』

「何って…。」


僕とアルは顔を見合わせる。正直なところ、何もしていない。が答えだ。


『お前達は自分達がお客様扱いされていて仕事が無い、と嘆いているが、本当にそうなのか?』


クロは僕とアルの顔を交互に見比べている。その表情には若干の呆れが見て取れた。


『俺が見て回る限り、王城はどこも忙しそうだ。忙しい人間が他人に構っている暇なんてあるはず無い。ちょうど良い、外を見てみろ。』


そう言われて僕とアルは馬車の窓から外を見る。

ちょうど夕食時の酒場を通り過ぎる所だった。僕らと同じくらいの歳の女の子が、両手に皿やお酒の入ったジョッキを持って忙しそうに立ち回っている。


「おい!あれって…。」

「パズじゃないか!」


調理場に繋がる戸口の所で、大人に混じって見知った顔が大きな箱を抱えて出入りしていた。

パズは僕らの学生時代の友人、いや、親友の一人と言っても良い。

実家が大きな商会を営んでいる彼は、卒業後は家業の手伝いをすると言って、僕らとは違う道を歩み始めたのだ。


僕とアルは馬車を止めてもらうと大急ぎで下車して、パズの元へと駆け出した。


「パズ!!」

「あれ!?レオにアルじゃないか!?久し振り!!」


荷物の搬入を終えたのか、調理場に挨拶の声を掛けていたパズが驚いて振り返ると、相変わらずの柔和な笑顔を見せた。


「えっと…久し振り…。仕事中…?」

「そうなんだよ!納品中!」


僕の質問に答えつつ、パズは額の汗を拭った。真冬だというのに捲り上げた袖。その肩から湯気が上がっている。


「ちょっと痩せたか?」

「でしょ!?仕事しながら痩せられて一石二鳥だよね!」


アルの言葉ににこやかに答えるパズ。

しかし彼は商会の御曹司だ。納品の仕事とは一体…。


「えっとね、一体どんな人達がウチの商品を仕入れてくれてて、それがどうやって運ばれて行くのか、皆んながどんな感じで働いているのか、気になったんだ。」

「え…?」

「なんで僕が荷物運びなんかしてるんだろ?って顔してるよ。」


苦笑するパズの言葉に僕は顔を真っ赤にした。隣を見るとアルも同じように赤面している。

なぜだろう…?なぜこんなに恥ずかしく感じるのか…。


「僕はまだまだこの道に入ったばかりだからね!出来るだけ色んな事を見て、体験して、勉強しようと思ってね!だからまずは出来そうな所から声を掛けてみたんだよ。」

「坊ちゃんのお陰で大助かりですよ!今時、こんな下っ端の仕事を一緒にやろうなんて奇特な人は居ませんぜ!」


パズの商会の従業員達だろうか、荷物の片付けをしながら、そうだそうだ!と口々にパズを褒め称えている。

それだけでパズが仕事仲間、将来の部下達から信用を勝ち取り、受け入れられているのが分かる。


「…パズには敵わないや。」

「まったくだ…。」


パズは剣が使えるとか、魔法が強いとか、そんな生徒ではなかった。

だが彼は間違いなく強いのだ。人としての器が違う。


「二人までそんな褒めないでよ。照れちゃうじゃないか!」


頭をガシガシ掻きながらパズが照れ隠しに笑った。




*****


「クロ、知ってたの?」


パズの乗った馬車を見送ってから自分達の馬車に戻った僕は、クロにそう問いかけた。


『パズのことか?何度もここに納品に来ている姿を見かけたぞ。お前達はまったく気付かなかったようだがな。』


クロはぐーっと背伸びをすると、僕とアルの向かいの席に腰を下ろした。


『アスール曰く、パズが自分から商品の運搬を手伝うと言い出したそうだ。その他にも、朝から晩まで細々とした仕事を沢山しているらしいぞ。』


アスールとはパズの使い魔の鳩の事だ。確かクロとアスールは念話で意思疎通ができたはずだ。


『自分達が何を、いやどういう行動を起こすべきか、もう言わなくても分かるだろう?』


僕とアルはただ黙って、深く頷いた。


『明日からのお前たちの行動、楽しみにしてるよ。』


クロがふふっと笑った。尻尾が左右にユラユラと揺れていた。








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