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シャ・ノワールと騒乱の聖歌  作者: 蒔田 椎太
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38.宣戦布告

*****



当国は神に祝福された人族の国であり、魔を信奉し、魔物の国である貴国と交わる事能わず。

神罰を恐れるならば即刻立ち去られよ。期日は明後日までとする。

さもなくば大いなる神の御名の下、我らの槍、聖騎士団とその友軍が貴軍に神の裁きを下すであろう。


ルミエーレ王国 聖神教会 教皇 ユレス・バーグラス




*****




「今朝、こちらに届けられた。宣戦布告、と貴国の言葉で言うのでは無いのかな?」


無表情にそう言い放つアーカネル将軍。

確かに、この書簡の内容では、明後日までに撤退しなければ攻撃するぞ。と言っているようなものだ。


「教皇はあくまで教会の代表であり、この国の王ではありません。この書簡はこの国の総意では無いとご理解頂けないでしょうか?」


青い顔に苦渋を滲ませながら長官がアーカネル将軍に頭を下げる。その様子を見て、エルフの青年はふむ…と顎に手を当てた。


「そう思いたい所はやまやまだが長官殿、実際に我らの目の前には敵軍がいる。反乱分子と言っても我々からしたら同じ貴国の軍隊だ。違うか?」

「それは…。」


グッと唇を噛み締める長官。


「姉が世話になったと言うから、そちらの戦の仕来たりに則って書簡を出した。宣戦布告も無しに攻撃するのは蛮族の行いなのだろう?」

「姉!?」


僕は思わず素っ頓狂な声を上げる。将軍は改めて僕をまじまじと見ると、あぁ…、何かに納得したようだ。


「ダリアは俺の姉だ。世話になった事は礼を言おう。だが今回の、貴国の対応は余りに失礼だとは思わないか?」


再び長官に視線を戻して将軍は問いただした。静かだが確かな威圧が込められている。


「…確かに。弁明の余地もございません。」


がくりと項垂れた長官に、将軍はでは、と再び口を開く。


「その書簡に書かれている事が嘘だと言うのなら、お前達があの軍隊を説得してくれ。話はそれからだ。」


それだけ言い捨てると、アーカネル将軍は馬車の中へとさっさと乗り込んでしまった。

程なくして土煙を上げながら、馬車が遠ざかって行く、無言の僕らを残して…。


「まずい事になったわね…。」

「これからどうなさいますか?」


静かに馬車の中で待っていたエレンとイネスが顔を覗かせた。


「長官、恐れながら申し上げます。聖騎士団及び南方軍は既に敵軍と同じ、我々のみでの説得や調伏は不可能かと…。」

「…分かっておる…。」


アルの言葉に長官が忌々しそうに呟く。


「となれば現状、行けるところは一ヶ所しかありませんね。」


ロメオの言葉に長官は訝しげに顔を上げた。そんな長官にロメオはある一点を指差す。


「ポートランド陣営ですよ長官。一旦匿って貰いましょう。そこからならなんとか王都との繋ぎもつくでしょう。な?レオ?」


ロメオの言葉に僕は小さく頷いた。




*****


あんなに賑やかだったポートランドの街が静まり返っていた。

目の前が戦場と化そうというのだ。それも仕方のない事だろう。

陣頭指揮を取っていたロメオの兄であるゲイルさんと、館で迎えてくれた父親のザインさんが、変わらず豪快で元気だった事が唯一の救いかもしれない。


「くたびれたぁ…。」


当てがわれた客室の椅子に、僕はどさりと座り込む。


「お疲れ様。ずっと結界張りっぱなしだったもんな。」


アルが労いの言葉をかけてくれる。

そう、僕の役割は全員を風の結界で保護する事だったのだ。毒や煙もそうだが、魔力を込めれば矢を逸らすこともできるようになってきたので、万が一の場合に備えて会談の間、風の結界を張り巡らせ続けていたのだ。


「ありがとう。でも最悪の事態はまだ回避出来てないね…。これからどうしたらいいのか…。」


僕は座り直してアルに向き合う。アルは難しい顔で考え込んでいる。


「…なぁレオ。アーカネル将軍、どこか違和感を感じなかったか…?」

「…アルもそう思った?」


僕の返答にアルが顔を上げ、頷いた。


「あの話し方、余りにシエロさん達と違いすぎる。ダリアさんの弟だと言うのに…。たとえ会談の場だったとしても、だ。」


その言葉に僕も深く頷いた。


「シエロさん達の喋り方はどちらかと言うと庶民的だった。ポートランドからの遭難者から言葉を習ったと言っていたからそのせいだろう。それに比べてアーカネル将軍の言葉遣いは…。」

「まるで貴族のもの…。」


僕の言葉に今度はアルが頷く。


「と言う事はだ、アーカネル将軍にこの国の言葉を教えたのは貴族かそれに近しい身分の人間だという仮説が成り立つ。」

「それに僕はもう一つ気になる事があるんだ。」


僕の言葉にアルが眉をしかめる。話の続きを促しているのだろう。


「将軍はこう言っていた。『そちらの戦の仕来たりに則って書簡を出した。宣戦布告も無しに攻撃するのは蛮族の行いなのだろう?』と…。」


そこでアルがはっと顔を上げと、自分の額をパチリと打った。


「そうだ…、その『仕来たり』って誰に習ったんだって話だ…。」


軽い驚きを含んだアルの言葉に、僕は深く頷いた。

正直、あの時僕は、そんな仕来たりがあったんだ、と感心していた。そしてそれと同時に凄い違和感を覚えたのだ。


「将軍の裏にも誰か居る。それも恐らくこの国の人間が。」

「《裏》の奴らか、教会か、それともどこかの貴族連中か…。」


そこでアルが何かに気づいたようにキョロキョロと辺りを見渡した。


「あれ…?ところでクロは?」

「それが…。」


その後の僕の言葉に、アルは今日一番の驚きの声をあげたのだった。









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