37.三つ巴?
「三つ巴…、とも違うな…。とにかくまだ戦は始まっていないようだな…。」
丘の上から見えたのは三つの集団だった。
「確かにあれは南方公軍と聖騎士団の軍旗だな。あっちはうちの旗。」
「と言う事は残りの一つがアルボレス共和国の軍勢じゃな?」
ブノワ長官の言葉に恐らく。と答えるロメオ。
軍勢的には南方軍、聖騎士団の方が大きいようだが、アルボレス共和国側の戦力は未知数な部分が大きい。
圧倒的に小さいのはポートランド側。ロメオの実家、ポルティージョ家と町の警ら隊の人達だろう。
「長官、どうなさいますか?」
馬車の窓からその景色を見下ろしていたブノワ長官にアルが問いかける。
「私達は戦争を止めに来たのだ。そしてアルボレスからの書簡を持っている。これはいわば招待状。つまり向かうはアルボレス共和国側だな。」
『あの世への招待状じゃなきゃいいがな…。』
不謹慎な事を言うクロを僕は無言で睨みつけたが、当の本人は何処吹く風だった。
*****
どうやってアルボレス共和国側に接触するか?それが問題となったが、王国の正式な使者がやって来た事を三軍全てに知らせる方が良いのでは?という長官の意見に従い、僕らは堂々と三つ巴の中へと進み出ていった。
いつ矢の雨が降って来るとも分からない緊張感の中、長官とエレン、イネスが乗る馬車を僕、アル、ロメオの三人が馬で囲み、アルボレス共和国の軍勢側へと近づいて行く。
相手を刺激しないように残りの衛兵達は残してきたのだ。最低限の人数である。
あちらこちらで警告の笛が鳴り響いている。
「そこで止まれ!!何用か!?」
アルボレス共和国軍の少し手前で声が響いた。僕らは足を止めると、手筈通りにアルが叫び返す。
「我々はこの国、ルミエーレ王国の正式な使者であります!この通り、手元に貴公らの特使、アーカネル・インケージ殿が送られた書簡も手元にございます!」
その名前に見張りの兵士たちが顔を見合わせると、しばし待たれよ!という声が響いて一人の男が騎馬に乗って近づいて来た。
アルが馬から降り、両手を上げて武器を持っていない事を示すと、相手も馬から降りて近づいてくる。
年は僕らと同じくらいに見えるが、白い肌と尖った耳を見る限り、エルフ族のようだ。という事は見た目通りの年齢とは限らない。
「…ふむ…。確かにこれはアーカネル将軍の書簡のようだ。誰か!将軍を呼んで来てくれ!」
男は振り返ると砦に向かって大声を出した。それに応じて砦の方が騒がしくなる。
『さて、鬼が出るか蛇が出るか…。』
クロがそう呟く。どういう意味だよ?と突っ込もうとした時、砦の扉が開いて見覚えのある形の、だが色が真っ黒な馬車が進み出て来た。そのまま、ブノワ長官が乗る馬車に横付けになる。
「将軍、こちらが書簡にございます。」
エルフの男が馬車の窓から書簡を手渡した。
しばらくして馬車の扉が開かれると、一人の男が姿を現した。
「ブラックエルフ…。」
黒い肌、短く刈り込まれた銀に煌く髪。そして鋭く違った耳。見まごう事なくその姿はブラックエルフだった。
僕の小さな呟きに彼はこちらをチラッと一瞥したが、直ぐに目の前の馬車から降りてくる長官に視線を戻した。
「初めまして。私、ブノワルト・ボーマンと申します。この国の執政長官を務めさせて頂いております。」
「…アーカネル・インケージ…だ。許されよ。貴国の言葉、まだ慣れぬ。」
言葉のぶっきらぼうさと鋭い眼光が相まって、かなり高圧的に見えるが、長官はどこ吹く風で、お気になさらず。と受け流す。
「さて、尋ねたいのだが、あの軍はなんだ?」
アーカネル将軍は僕らの背後に陣営を張る、南方軍と聖騎士団を指差した。
「説明すると長くなりますが、一言で申し上げるとこの国の反乱分子で御座います。」
そうあっさり切り捨てた長官に、アーカネル将軍は眉根を寄せた。
「では彼らは貴殿らと関係無い。と…?」
「左様で御座います。」
「ではこれは何だ?」
そう言って将軍が差し出して来たのは一枚の紙。どうやら書簡のようだ。
それを受け取り、読み出した長官の顔色がみるみる変わって行く。顔は青白く、目元は怒りか吊り上がっていく。
「それが貴国の答えでは無いのかな?」
「…とんでもございません。国王陛下はこのような事は望んでおられない。これはあの反乱分子どもの勝手な言い分に御座います。」
怒りを滲ませた長官の声。書簡を回しても?という問いに、将軍は大仰に頷いた。
僕とアル、ロメオは額を突き合わせて手渡されたその書簡を覗き込む。
「…なんだこりゃ?!」
唸るようなロメオの声があたりに響き渡った…。




