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シャ・ノワールと騒乱の聖歌  作者: 蒔田 椎太
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34.救出

針金のような細い月が浮かんでいるのが、枝葉の間から見て取れる。

辺りは吸い込まれそうな暗闇…、のはずだが僕にとっては真昼のように周りの木々の形が見て取れた。


「…アル、気をつけて。前方に低い枝がある。頭を下げて通って。」

「お、おう…。」


僕に片手を握られたアルが、恐々と頭を下げて枝の下をくぐっているのが見えた。


「くそ…。レオが羨ましいな。魔力操作で夜目を効かせる事も出来るなんて。」

「いや、僕も今日初めて知ったよ。」

『悔しいなら魔力操作の鍛錬に励む事だ。さぁ、無駄口を叩いて無いでさっさと行くぞ。』


僕ら二人のやり取りはクロに遮られた。アルはちょっとだけムッとしたようだが、それを口にするほど子供でもない。

そうしてクロの先導に従って僕らは暗い森の中を暫く無言で歩いて行くと、前方から唐突に声が掛けられた。


「クロ様、お待ちしておりました。レオナード様もアーノルド様も、お久しぶりでございます。」

「この声は…。」

「ミラさんだよ、アル。」


僕の目には狐のような顔立ちをした半獣人の姿が見えている。声と体のラインは人の女性そのものだ。

フォックス(妖狐)と呼ばれる魔物で、ミラさんはクロの魔王軍時代の元同僚らしい。

ミラさん曰く、クロは大先輩で同僚などおこがましい話、らしいが…。

今も小さなクロに向かって片膝をついて頭を下げている。


『ミラ、ご苦労だった。時間が無いので頭を上げてくれ。それでダラス達が囚われている場所は?』

「この先を少し行った廃墟に御座います。」


ミラさんは恭しくそう告げた。


ダラス先生達、交渉部隊が謎の集団に囚われている。


梟からそう告げられたのは王都を出発してすぐの事だった。

それから僕らはほぼ休み無しに馬を駆けさせてここまでやって来たのだ。


「長官とダラス先生は無事ですか?」

「はい、今のところ特に危害は加えられていないようですが…、どうも例の怪人がいるようで、いつ何が起こるか…。」


ミラさんのこの言葉に僕とアルに緊張が走る。

例の怪人、とは王都でパズを誘拐した蛸男に違いない。奴がパズに行った仕打ちを考えれば、一刻も早く救助に向かわなくては…。


『落ち着け二人とも。囚われているのは長官とダラスだけか?他の護衛兵達はどうした?』


そんな僕らの心の内を見透かすようにクロがそう言って、ミラさんに質問を続ける。


「どうやらその護衛兵の中に裏切り者が入り込んでいたようです。痺れ薬か眠り薬か…、いずれにしてもお二人は何かを盛られて前後不覚に。残りの衛兵達は…。」


ミラさんは首を小さく横に振った。僕とアルは息を飲み、クロは、そうか…。と小さく呟いた。


『いずれにしても薬の類でダラスの裏をかくくらいだ。十分に注意をして事に当たらなければなるまい。敵の数は?』

「怪人を除いて十にも満たない数です。腕の方も然程かと…。」

『問題は奴だけか…。時間ない事だし、ここは陽動作戦といこうか…。』


軍師クロの言葉に、僕ら三人は無言で頷いた。





*****


「賊だ!!襲撃だぞ!!」

「なんだ!?獣人!?魔物か!?」

「は!早い!!こっちだ!!」


僕らが茂みに隠れて廃墟の様子を窺っていると、その建物の反対側でやおら騒ぎが起き始めた。人の気配がそちらへと向かって行くのを感じる。


『ミラが動き出したようだな。行くぞ!』


クロが茂みから飛び出し、黒い矢のように廃墟に向かって駆けて行く。

一拍遅れて僕とアルもクロの後を追って飛び出した。アルが脚に魔力を込めて一気に廃墟との距離を詰めると、クルリと振り返り、壁に背を着けて腰だめに両手を構えた。


「レオ!」「おう!」


僕はそのアルの両手を踏み台にし、アルが腕を振り上げる勢いも借りて、一気に壁を飛び越える。

眼下に人の姿は無し。着地と同時に手に持っていた縄を腰に巻きつけると壁に向かって踏ん張った。縄の反対側は壁の向こう側だ。


『アーノルド!』


足下のクロの声に反応して縄がピンと張る。体がグッと引っ張られるのに強く抗っていると、数瞬のうちにアルが縄を伝って壁を乗り越えて来た。


「行こう。」


着地したアルの言葉に頷き返すと、僕らは壁の中に一つしか無い建物へと向かった。

盗賊の根城か何かだったのか…。所々の壁が壊れた小さな砦だ。

その壊れた箇所の一つから僕らは内部へと入り込む。幸い部屋数は多くない。僕らは三つ目の部屋でブノワ長官とダラス先生を見つけることが出来た。


「先生!長官!ご無事ですか!?」

「君たちは!?どうやってここへ!?」


部屋の中は牢屋の様な作りになっていて、鉄格子の向こう側に手足を拘束された長官と先生が見えた。


「話は後です、長官!先生は…無事ですか?」

「あぁ…、恐らく痺れ薬の類だと思うが…。ダラス殿の抵抗は激しかったからな…。息はしておる。だが早急に手当てが必要だろう。」


長官の言葉に僕とアルが頷き返したその時…。


「鍵はそこの机の引き出しの中じゃよ。」


唐突に背後から声を掛けられ、僕らは慌てて振り返った。


「お前か…。」

「それはこちらのセリフじゃて。噂通り、何処にでも現れるしつこい子供達じゃ。一体どんな秘密があるのかのぅ…?」


戸口に立っていたのは言わずもがな、異様な風体をした人影だった。




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