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シャ・ノワールと騒乱の聖歌  作者: 蒔田 椎太
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32.書簡

貴国の当国使者に対する対応は遺憾と言わざるを得ず、よって当国は貴国に謝罪、及び賠償を望むものとする。然るべき対応が無き場合は、当国も然るべき対処を取る準備があことを覚えておきたし。期日は半月、南の港にてお待ち申し上げる。


アルボレス共和国 代表特使 アーカネル・インケージ


国王陛下の傍に立つブノワ長官の声が朗々と響いた後、会議室には沈黙が降り立つ。

室内に集まっているのは、教会の人間を除いた、先日の執政会議の時の面々だ。

シエロさんからの書簡を受け取ってから早二日。シエロさん達をポートランドで見送ってからたったの半月でこの展開を迎えた事になる。


「…あまりに、全てが早すぎますな…。初めからこれを狙っていたのではないかと、疑いたくもなる…。」


腕組みをしたセルジオ将軍の呟きを諌める人は誰も居なかった。それ位に急展開なのだ。


「この書簡を持って来た伝令の話では、敵兵は約三万。ポートランドから少し離れた平地に陣を敷いているとの事です。」

「たったの三万?国王軍の半分ではないか。」

「あくまで伝令が三日前に見た光景です。現在はもっと増えている可能性もありましょう。それに彼らの一兵が我らの一兵と同等とは限らない。」

「…。」


グラート将軍の言葉に、セルジオ将軍が沈黙する。


「先に申し上げておきますが、陛下に開戦の意思は御座いません。」


静かに座って沈黙を守る国王様に代わり、ブノワ長官が口を開いた。フォルテウス様も静かに沈黙を守っていらっしゃる。

お二人に関しては前々から知っていた展開だけに、動揺は微塵も感じられない。


「賠償…、と言っていますが、彼らが求めているのは十中八九、金属資源でしょうな。」


続けるブノワ長官に、円卓に着いた誰もが頷く。


「幸いな事に我が国は金属資源に関しては豊富な国です。多少、渡しても問題は無いかと思います。問題はその先、不平等な条約を結ばされたり、属国にされるのは御免被りたい所です。そこで…。」


ブノワ長官が一度言葉を切って面々を見渡した。


「交渉には私と、ダラス親衛隊隊長で赴きます。異存はありませんな?」


そして先ほどとは反対周りに円卓の面々を見渡す。ブノワ長官。誰もが口を閉ざしている。という事は反対する人は居ないという事だ。


「では我々は可及的速やかに現地に赴きたいと思います。陛下、本日はこれにて閉会としてよろしいでしょうか?」


重々しい頷く国王陛下。今日は一言も言葉を発する事は無かった。


『現国王の側近と次期国王の側近。交渉役にこれ以上相応しい人間は居ないだろうな…。』


僕の肩に乗ったクロがポツリと呟いた。




*****


「ダラス先生、行ってしまったわね…。」


僕の隣のエレンがポツリと呟く。場所は親衛隊の控え室だ。

あの会議から半日を待たずにブノワ長官とダラス隊長は少数の護衛を引き連れて王都を出発した。




「皆さん、殿下の警護は任せましたよ。」


見送りに出た僕らに、ダラス先生は真剣な表情で留守を言いつけてきた。僕らは強く頷く。


「それと殿下、くれぐれもご無理はなさらないように…。」

「分かっている。爺もくれぐれも気をつけろ。」

「森の法王の名前は伊達ではございませんよ。ご安心を。」


ダラス先生はそう言ってこの日、初めての笑顔を見せると、深く会釈をした。そして踵を返すと、振り返る事なく、用意された馬車に乗り込んでいく。




「ちょうどいいからさっと二人には話しておくね。」


僕の言葉にアルとエレンが怪訝な顔をして僕を見た。ちなみにイネスとロメオはフォルテウス様の警護で席を外している。


「実はダラス先生の一向に裏から警護を付けているんだ。あと、ポートランドの現状はパズに頼んで集めて貰っている。」


僕の言葉に、アルもエレンも驚いた顔をする。


「レオっていつからそんな事が出来るようになったんだ…?」

『全部、俺の案だがな。』


驚いたアルの言葉に、クロがにべもなく答えた。僕は後頭部をぽりぽりとかいて乾いた笑いを浮かべる。


「だと思った…。警護には誰が付いているの?」

「それは事情があって言えないんだけど、信頼出来る人達だよ。」


僕の答えにエレンが再び怪訝な顔をする。


『昔の俺の仲間だ。』

「あ、なるほどね。なら安心だわ。」


クロの一言でエレンが納得した。クロの昔の仲間、つまり魔物という事だ。


『表に出て警護が出来ない以上、油断は禁物だ。遅れをとる可能性は十分にある。今度ばかりは常に最悪を想定して動いた方が良いだろうな。』


クロのこの言葉に、僕ら三人は表情を引き締める。


「最悪の展開は戦が始まることだね…。」


僕はポツリとそう呟いた。


「お疲れ様…、ってどうした?三人して怖い顔して?」


その時、ノックの音と同時にロメオが扉から顔を覗かせたお陰で、僕らの会話は一旦中止になった。

フォルテウス様の警護から戻ったロメオとイネスが加わって、控え室は一気に賑やかになる。

この時、僕はまだ知らなかった。最悪の展開は、戦が始まる事ではない、という事に…。





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