31.噂
やっとこさ更新再開です。
執政会議から数日。風の噂ではセミラミスが国王に召喚され、火球魔法を使うゴブリンについて事情聴取をされたという。
王都火事騒動はまだ爪痕を残しているものの、国の重鎮たちの意識は、国内にある騒動の火種に向いているようだ。
「このままほとぼりが冷めてくれれば良いのだが…。」
すでに春も終わりに差し掛かり、初夏を感じさせる爽やかな青空を見上げながら、フォルテウス様は暗い表情で呟いていた。
そんな穏やかな日々は、やはり嵐の目のようなものでしかなかったのだ…。
「フォルテウス様、こちらを…。」
既に恒例になりつつある朝の打ち合わせの場で、ダラス先生が難しい顔でフォルテウス様に小さな書簡を手渡した。
「…なんという事だ…。」
書簡をさっとひと読みしてフォルテウス様は眉根を寄せた。
僕らは顔を見合わせる。もはや嫌な予感しかない。
「殿下、もしやそれは…。」
「皆が察している通り、シエロ殿からの書簡だ。」
皆を代表したアルの質問に、フォルテウス様は苦虫を噛み潰したような表情と声で答える。
「強硬派に開戦の意思あり。気をつけたし。と書かれていました。」
ダラス先生がやれやれと頭を振りながらそう教えてくれた。
ある程度、予想していたとはいえ、僕は鳩尾の辺りがギュッと締め付けられるのを感じる。
「即刻、父上にお伝えせねばなるまい。爺、拝謁の手筈を頼む。」
「承知致しました。」
そう言ってダラス先生が一礼すると足早に部屋を出て行く。
「戦争だけは避けねばなるまい…。」
そう呟いたフォルテウス様の言葉に、部屋の中を重たい空気が支配した。
はっきり言ってこの国に勝ち目は無いぞ…。
この国は、彼の国に戦争を起こさせるに十分な理由を与えてしまった…。
僕の脳裏には、今更ながらに、あの夜のアルとクロの言葉が蘇っていた。
*****
「セミラミス殿が聖騎士団に復帰!?」
思わず僕は素っ頓狂な声を上げてしまう。その声に、情報の元であるゴドールさんが顔をしかめた。
フォルテウス様は未だに国王陛下に拝謁中、という事で、僕とアル、ロメオの三人は鍛錬場へと足を運んでいたのだ。
「背信の疑いも晴れ、また今回、国王陛下への情報の提供という事で褒賞の意味合いも兼ねているのだろう。魔王討伐の英雄が復活したというのは民衆に取っても安心材料になるだろう、という話だが…。」
「なんだか、キナ臭い話ですね…。」
ゴドールさんの言葉をアルが引き継ぐ。
「…なぁ、レオ、何がキナ臭いんだ?」
ロメオが僕にポソリと訪ねて来たが、それを聞き逃すゴドールさんではなかった。大仰なため息をついてロメオに向かい直る。
「大きな声では言えませんが…。教会にいわゆる復権派がいるのは皆さんもご存知ですね?」
十分大きな声で話し出すゴドールさんだが、鍛錬場は丁度、新兵達の打ち合い訓練の最中で騒音に包まれている。みんな必死で聞いているものなど一人も居ない。
「一応、その辺りの把握はしているつもりであります。」
ロメオが姿勢を正す。それを見て、よろしい。と答えるゴドールさん。
最初はあまり良い印象は無かったが、最近では何だかんだこの人は教官肌なのだと思わされる。
「今回の一連の騒動でも、教会が何か裏で画策しているのは皆さんも薄々感じているでしょう?」
「え…えぇ…まぁ…。」
それを口にして良いものなのかどうか…。僕ら三人は迷ってお互いの顔を見合わせた。
「その一環だと私や将軍は見ています。件の魔王討伐遠征の時のように、彼女を使って何かをしようと企んでいる。と…。」
「?…。魔王討伐って国が決めた事では無いのですか?」
疑問顔のロメオが口を挟んでくる。ゴドールさんは首を横に振った。
「あれは教会の暴そ…。失礼、教会の提案と、それに乗った一部の貴族達によるものです。ただ国として何も動かないのは余計に教会を増長させるだけ、との判断で国軍も動いた。と言った感じの流れですね。」
相手が上官という事も忘れて、へぇ〜!と驚きを露わにするロメオ。それを気にしてかどうかは分からないが、ゴドールさんの表情は曇ったままだ。
「本当に余計な事をしてくれましたよ…。国としては片田舎にひっそりと暮らす無害な魔王など、監視こそすれどちょっかいを出す気は無かったのに…。お陰で魔物の被害は増えるし、裏の連中がしゃしゃり出てくる始末…。」
「…!ゴドール殿は近年の魔物被害の増加は魔王不在によるものだとお考えなのですか?」
驚いたアルの言葉に、ゴドールさんは何を今更、と言うように片眉を上げた。
「どんな国や組織でも、それを纏める者が不在では、暴走も起こすでしょう?当たり前の事です。」
『ごもっとも、だな。』
僕の足下のクロが素っ気なく呟いた。僕とアルは微妙な気持ちで顔を見合わせる。ロメオは腕を組んで唸っていた。
「なるほど、復権を企む教会の暴走。その上で魔王殺し、聖騎士セミラミスの復帰。確かにキナ臭いですね。」
暴走と口にしたロメオに対して深いため息をついたゴドールさんは、その後に初夏の青空を見上げていた。




