28.執政会議③
「魔法封入の、チャッカーの話はなるべく避けましょう。」
会議の前の打ち合わせで、ダラス先生はそう提案した。
「先日の火事騒動を連想させる恐れもありますし、ゴブリンが火の魔法を使ったという目撃情報も数多く寄せられています。そこに誰でも手軽に扱えるチャッカーがあるとなれば妙な勘繰りをされてしまう恐れもあります。」
この国の多くの民衆は、他の獣と同じように、ゴブリンなど比較的知能の低い魔物は、火を恐れ扱えないと思っている。恐らく執政会議でもその風潮はあまり変わらないだろう。
「そうですね。ロメオでも扱えるようなものですから。
「おいおい!俺はゴブリンと同じ扱いかよ?」
「そこまでは言ってないわ。ゴブリンに怒られちゃう。」
イネスの言葉に口を尖らせるロメオ。小さな笑いが生まれる。
「まぁ、爺の言う通りだ。馬車と船の話だけでも十分だろう。場合によっては馬車に取り付けられていたという宝珠で魔法封入の話は出来る。さて、そろそろ時間だ。参ろうか。」
その言葉に皆が頷く。それを確認して王子殿はゆっくりと腰を上げた。
*****
「儂にはただの棒にしか見えないが?」
「私どもも最初はそうでした。これは件の騒動に関わったゴブリンが所持していた物です。」
これは恐らく嘘だろう。隣の聖騎士団長が訝しげな顔をしているが、ベルトン卿はこれを無視する。
「調べで分かった事ですが、これは火を起こす魔法具のようです。それも、誰でも割と簡単に。」
「誰でも扱える魔法具ですって…?」
もう一人、訝しげな顔をしたのは魔法省長官、ペトロネラだ。
頷くベルトン卿はその手に持っていた金属の棒を机の上に置く。
「どなたか、魔法があまり得意でない方はいらっしゃいませんか?ほとんど使えないという方でも結構ですので。試しに使ってみて下さい。」
この言葉に一瞬、その場を沈黙が支配する。
「…私が試してみましょう。」
名乗りを上げたのはゴドールだった。
「私は魔法は殆ど使えません。特に火の魔法は苦手ですから。」
そう言いながら机の上の棒に手を伸ばすとしっかり握り締めた。
「色が付いている部分を上にして持ち、軽く意識を向けてみて下さい。火がつく場面を想像してみて。」
ベルトン卿の言う通りにゴドールは棒を握り締めると、ジッとそれを見つめた。誰かがゴクリと喉を鳴らす。
ボウ
「「「うわっ!!」」」
思ったよりも大きな火が吹き出し、思わずその場の全員が仰け反った。
アーノルド達が貰った物よりも随分と火力があるな…。
「これは…、一体全体…。」
「消えろと念じれば貸せますよ。」
火がすっと掻き消えた。最も驚きを露わにしているのは当のゴドールだ。
「それ、見せて下さる?」
手を差し出したのはペトロネラだ。チャッカーを手に乗せるとしげしげとそれを眺める。
「これは…、まさか…、魔法封入がなされている?」
「さぁ?私どもに原理は分かりかねますが、それを我が国の技術で作れるのですか?長官殿?」
ベルトン卿をギロリと並んだが、その後、ため息をついて首を振ると、ペトロネラは答えた。
「無理ね。誰でも使えてしまうものは作れないわ。」
その言葉に満足そうに頷くベルトン卿。
「我が国の技術でなければどこの物なのでしょう?ところで王室親衛隊の皆様、似たような物をご覧になられた事は?」
「…有りますな。だがそれほどの火力は無かったと思います。焚き火に火を点ける程度のものでした。」
ダラス先生が無表情にそう答える。グラート将軍が近衛に何か指示を出しているが、恐らく国軍の方で退治したゴブリンの所持品の中に似たような物が無いか、探すよう指示しているのだろう。
「これで、どこの国の技術かは明白ですな。火事騒動を起こしたゴブリンが誰の手の者なのか?もはや分かりきった事かとは思いますが…。」
そう言ってベルトン卿は、ぐるりとその場にいる面々を見回した。
「ベルトン卿よ、私には幾つか疑問があるのだが?」
そこで口を開いたのはフォルテウスだ。ベルトン卿は余裕の表情で続きを促している。
「まず、貴公が先日提示した首飾りだが、聖騎士団が退治したゴブリンの全てが所持していたのかな?」
「それは分かりかねますな。私が手渡されたのは一つだけでしたから。」
王子殿はふむと頷くと、グラート将軍に向き直った。
「将軍、国軍の警ら隊が退治したゴブリンの中に、あの三円の首飾りを所持していたものはおりますかな?」
「何度か調べ直させたがこちらには報告は上がっておりませんな。ちなみに現在、その棒についても再度調べさせております。」
将軍の言葉に頷くフォルテウス。だがベルトン卿の表情に変化は無い。
「もう一つ、あの火事の夜にアクセルマン商会の屋敷が燃やされました。その嫡子であるパズールが誘拐されていたのですよ。人間のゴロツキどもの手によって。幸い、無事に救助されましたが…。」
「それはお気の毒に…。しかしそれが今回のことと何か関係が?」
ベルトン卿の眉がぴくりと小さく反応するが、その余裕の表情は消えない。
反対に、レオナード、アーノルド、エレンの三人からゆらりと殺気のようなものが立ち昇り出した。
『お前達…、大人しくしていろよ。』
俺の注意にそれぞれ頷く三人。
「実は火事騒動の前、彼が私に異国の品々を献上してくれた時に、私は彼から三円の首飾りを見せてもらっているのですよ。それが誘拐された時、犯人達に取られてそれ以降行方が分からないという。」
「そうですか。高級品だと思われたのではないですかな?まぁ火事場泥棒という言葉がありますからな。」
「彼が拐われたのは火事の前だそうです。」
「そうですか。無用心でしたな。」
事もなげにそう言うベルトン卿。なかなかの鉄面皮振りだ。
もちろんどちらも、ベルトン卿が持ち出した三円の首飾りがパズの物だという話はしない。
「ここで一つの仮説が成り立つのです。ゴブリンを操っていたのはその誘拐犯達で、アクセルマンの屋敷にあった品々をゴブリンたちが勝手に拝借した。もしくはその誘拐犯たちが与えたのではないか?と…。」
「馬鹿馬鹿しい。このような貴重な物をゴブリンに与えたと?」
「ぱっと見ただけでは貴重どうか分かりますまい?貴殿も最初はただの棒かと思った、と仰っていたではないか。」
「…。」
これには流石のベルトン卿も口をつぐむほかなかったようだ。
「しかしですな殿下、ゴブリンが火の魔法を使ったという目撃証言が多数あるのですぞ?」
そこに食い下がってきたのは聖騎士団長だ。それを聞いてフォルテウスは一つ頷く。
「それに関しては王室親衛隊の面々の話を聞いて貰いましょう。レオナード、アーノルド、エレン、こちらへ。」
「は、はいっ!」
唐突に呼ばれた驚いた三人は、さっきまでさっきは何処へやら、おっかなびっくり前へと進み出るのだった。




