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シャ・ノワールと騒乱の聖歌  作者: 蒔田 椎太
25/45

25.決意新たに


「僕は…、アルボレス共和国には…、行けません…。」


少しだけ葛藤を残しつつ、僕はそう答えた。


「…そうですか…。良ければ、理由を聞いても?」


僕の答えを聞いて、ダリアさんが寂しそうに微笑む。アルがえっ?と驚くのを感じた。


「僕は…、この手で守りたい人たちが、この国にいるんです。」


僕は自分の右手を見つめ、そしてぎゅっと拳を握る。


「確かに遠い未来はどうなるか分からないです…。でも自分で決めた事を、そんな簡単に覆す事は出来ません。」

「レオ…。」


僕は振り返ってアルに微笑みかけた。その向こうにエレン達が見える。そしてティアやパズ、遠く北の故郷にいる家族達の姿までも見えるような気がした。


『…まぁ、そう言う事だから、俺も貴国には行けんな。せっかくのお誘いなのに申し訳ない。』


しれっと答えるクロ。僕は苦笑いしつつ、ダリアさんに向き直った。


「でもいつの日にか、遊びに行かせて下さい。アルボレス共和国に。」

「ええ!いつでも待ってますわ!」


ダリアさんが満開の花の様な笑顔で、ニッコリと微笑んむ。

遠くから、出発を急かす様なデシさんの声が聞こえてきた。




『…本当に、良かったのか?』


僕らは桟橋に佇んで、遠ざかる小さなボートに手を振っていた。ボートからは同じ様に、シエロさんたち三人が手を振っている。

そのボートの影が小さくなって、太陽ももうすぐ海に沈む頃、クロが僕にポツリとそう問いかけた。


『うん。これで良かったんだ。僕の居場所はここなんだから…。』


念話でそう答えると、クロはそうか…。と短く返してきた。


『クロこそ、良かったの?行っても良かったんだよ?』


僕は少し意地悪にそう聞いてみると、クロがフン!と鼻を鳴らす。


『お前たちみたいな世話の焼ける生徒を置いて行けるわけがない。さぁ、今夜はゆっくり休ませて貰おう。』


そう言ってくるりと背を向けると、トコトコと歩き出す。

僕らはその小さな背中を追って歩き出した。


「今夜はうちに泊まってくれ!やっとベットで寝れるぞ!」


ロメオがぼきぼき鳴らしながら首を回していた。




*****


別にどこかに寄り道をしたわけでもないのに、行きの倍の時間を費やして、僕らは王都へと帰り着いた。


「イタタタ…、あ〜、あの馬車に慣れちゃうと他の馬車にのれなくなっちゃうわ…。」

「私もそう…。酔っちゃった…。」


腰をさするエレンと、青い顔をしたイネスを見るだけでも、あの馬車がいかに優れていたかよく分かる。


「フォルテウス様の御前ですよ、皆さん、しゃんとしなさい。」

「よいよい、爺。皆も、ご苦労だった。」


顔を顰めるダラス先生に、フォルテウス様は苦笑しながら軽く手を振っている。


「しかし、戻って早々に申し訳ないのだが、明日の朝一の執政会議に皆も出席してくれ。」


フォルテウス様は一転、表情を引き締める。

執政会議とはその名前の通り、国王陛下を中心に国の政治の方針を定めていく重役会議の事だ。

様々な情報を陛下にお伝えする為、時にその分野の有識者が呼ばれる事もあるが、もちろん僕たちが呼ばれるのは初めての事だ。となると話題は…。


「アルボレス共和国の事ですな…。」


ダラス先生の言葉にフォルテウス様が頷く。


「連日のように教会から嘆願書が届く。国として、アルボレス共和国に対していかなる態度を示すのか?それをはっきりさせて欲しい。と…。」

「しかし、原則、教会は政に口出しをしてはいけないはずでは?」


ロメオが顔を顰めつつそう言う。そう、政教分離の原則でいけば、ロメオの言う通りなのだ。


「あちらの言い分としては、市井の民から救いを求める声、魔物から自分たちを守って欲しい、という声が後を絶たないということだ。それで国に嘆願を申し出る、という立ち位置を取っている。」

「…自分たちで仕組んでおきながら、なんて卑劣な…。」


ぎりっと奥歯を噛みしめるエレン。だがフォルテウス様が首を横に振る。


「残念ながら今回も、教会が関わっているという証拠がまったく見つかっていない。君たちが貧民街で捕まえた連中も単に金で雇われたゴロツキで、なぜパズを誘拐したのか?それどころかパズが何者なのかも知らなかったようだ。」

「呆れるほどずる賢い連中ですね。どっちが魔の物なのか、分かりゃしない。」


乗り物酔いが取れてきたのか、イネスの辛辣な物言いが少しだが戻って来ている。

全くだ。そう言ってフォルテウス様が苦笑いを漏らす。


「しかし、どうして民衆は教会に庇護を求めるのでしょう?王都を守っているのも、治安を維持しているのも、実際には国王軍のはず…。」


僕としては、日々影から王都を守る国王軍の兵士達が蔑ろにされているようで何となく面白くなかった。


「魔物は神の威光に弱い。教会で清められた武具に身を包む聖騎士団は、魔物に対して無類の強さを誇る。と信じる民衆は未だにたくさんいるからな。」

「聖水、なんで物が売れるのもそのせいね。私からしたらあんなのただの水。なんの効用も期待出来ないわ。」


僕の気持ちを汲み取ってくれたアルが、イネスの言葉に苦笑いだ。イネスの調子もだいぶ戻ってきている。


「それにだ、教会と聖騎士団には魔王を倒した、という()()()()()。それが拍車を掛けている部分もあるな。」


フォルテウス様の言葉に、僕とアルは何となく口をつぐんだ。誰にも聞こえないようにクロがフンと小さく鼻を鳴らす。


「しかし、そうなると明日は当然、教会側の人間も出席するという事ですな?」


ダラス先生の質問に、再び表情を引き締めてフォルテウス様が頷かれる。


「父上としてはアルボレス共和国を無下にはしたくない。新しい国交がもたらす利益は、この国を確実に豊かにしてくれるばずだ。だが現在の国内の、民衆の動きも無視できるものではない。」


そこでフォルテウス様は僕らをぐるりと見渡した。


「強硬に推し進めれば必ず反発が生まれる。急いては事を仕損じると言う。父上は明日、()()()()()落とし所を探って来るはずだ。」


現時点での。そう、未来はまだ続いていくのだ。


「この国に、輝ける未来の為に、皆の力を貸してくれ。」


フォルテウス様へと向かって、僕らはそれぞれ声高に返事をする。


そう僕は、僕が守りたい大切な人達の為に、そして僕らの未来の為に、戦い抜くと誓ったんだ。


僕はぎゅっと拳を握り締めた。











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