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シャ・ノワールと騒乱の聖歌  作者: 蒔田 椎太
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23.異国の技術②

二回目の僕の南への旅路は、恐ろしいくらいに順調に進んでいた。

早馬に余裕で付いてくる馬車の性能のお陰か、王都での火事騒動が広がる速度よりも早く、僕らは旅路を駆け抜けていった。

最初は教会からの刺客を気にしたりしていたが、南に向かうにつれて気候もどんどん暖かくなり、そのせいかみんなの緊張も目に見えて緩んでいく。


「ロメオが言うには、このまま行けば明日にはポートランドに着くらしい。」


火の番をしながら、アルがそう教えてくれた。

念のため、僕らは町に宿を取らず、一直線にポートランドへの道を取っている。その為、自然と野営に成らざるを得なくなる。


「しかし、知れば知るほど凄まじい技術力だな…。」

「…そうだね。」


僕もじっと火を見つめながら、短くそう答えた。

この火を起こしたのも彼ら異国の技術だ。




「コレ、使って下さい。」


初日に野営準備をしている最中、火を起こそうとしていたアルと僕に、ダリアさんが細くて短い金属の棒を手渡して来た。先の方が赤く塗られている。


「アカい方を上にして魔力を流すと火が着きます。」


僕は半信半疑でその棒を握って魔力を流す。するとその先端にポッと赤い火が灯る。


「おぉぉぉ!これ、俺も使えるのか?」

「もちろん!」


ダリアさんの言葉に、アルはひったくるように僕の手から棒をもぎ取ると、目をキラキラさせて棒の先に火を灯し、大興奮していた。


「アルさん、良ければソレ、差し上げますよ。」

「いいんですか!?本当に!?本当に!?」

「ちょっとアル、興奮し過ぎ…。」


僕は苦笑いをしながらアルを嗜める。そんな僕らの騒ぎを聞きつけてみんなが集まってくる。


「何っ!?アルだけずりぃな!」

「そんなもので良ければ儂のを差し上げますぞ。あと三つほど有りますからな!」


デシさんがそう言って懐から取り出した金属の棒をロメオに手渡す。今度はロメオが大興奮し出してイネスとエレンに叱られていた。


「しかし良いのですかな?こんな高価そうな物を頂いても…。」


ダラス先生が恐縮したようにシエロさんに問いかけると、シエロさんがにこやかに頷いた。


「ハイ、問題ないです。我々の国ではチャッカー、あの棒のことですが、どこでも普通に売られています。生活雑貨?とでもいうのですかね?その一つです。」


この言葉にダラス先生が、何と…。と言葉を失った。


『…レオナード、使ってみた感じはどうだった?』


クロがぽそりと僕に問いかける。


『ん〜…、凄く簡単。輝光石を光らせるのと変わらないかな。火球を起こすよりも何倍も楽だね。』

『…そうか。』


そう言ってクロはチャッカーに火を灯して遊ぶアルとロメオを横目に眺める。

念話をする僕らを、ダリアさんが微笑みながらじっと見つめているのを僕は感じていた。




『レオナード、俺があの晩、どうして国王はお前達にシエロ達の護衛を任せたのか?何故だと思う?と聞いた事、覚えているか?』


僕の隣に寝そべるクロが問いかけてきた。あの晩とは、恐らくパズを救出した晩の事だろう。


「陛下は…僕らに勉強する機会を下さったんじゃないかな?」


僕はこの旅で感じた事を素直に口にしてみた。

この国の二つも三つも先を行く技術を僕らはここ数日で目の当たりにしている。

食事時なども、色んな議論が活発に交わされていた。


「そうだな。俺たちの未来に期待して下さっているのかもな…。」


アルがそう賛同した時、僕はとある考えに辿り着いた。


「そうか…、国王陛下は僕らの世代に、アルボレス共和国との国交の未来を託したんだ…!」


僕のこの言葉にアルがハッとして顔を上げ、クロは満足そうに頷いた。


『そうだ。恐らくレオナードの言う通りだ。次世代の国王はフォルテウス。今の所、それは揺るぎない事実だ。そしてその時期国王の下に集うお前達はこの国の未来を担っている。今は時期が悪かった。だが国王としては是が非にでもアルボレス共和国と国交を結びたい。その可能性を少しでも高める為にお前たちに護衛を託したのだろう。そして…、』


クロが、一度言葉を切る。その金の双眸はじっと赤い炎を見つめていた。

僕とアルは黙ってその続きを待っている。


『俺はこの旅で痛感した…。アルボレス共和国とは絶対に争ってはいけない。』

「そりゃあ…、もちろんそうだよ。」


僕はクロが急に何を言い出すのかと訝しんだ。だがアルとクロは違った。深く考え込む表情で炎を見つめている。


「…レオは、アルボレス共和国はどれくらいの軍事力を保持していると思う?」


アルの唐突な言葉に僕は言葉を失う。そんな事、考えた事も無かったからだ。


「超軽量金属の剣や鎧、高威力の弓は確実に存在するだろうな。更にもし、軍事用の馬車が、あの馬車と同程度の速度を出せるとしたら?」


アルは少し離れた所に止まっている馬車にちらりと目を向けた。


「そして、例えばだ、このチャッカーみたいに、()()()()()()火球を撃てる道具が開発されていたとしたら?それが一般兵士の標準装備だとしたら?はっきり言ってこの国に勝ち目は無いぞ…。」


アルが懐から細く棒を取り出してじっと見つめた。僕はその発想に頭から冷たい水をぶっかけられた様な気持ちになる。


『…アーノルドの言う通りだ。そしてこの国は、下手をすればとてつもない軍事力を持つ国の代表に対して、罠に嵌めるような仕打ちをしてしまった。』

「あれは!?教会が勝手に…。」


僕の叫びにクロが首を横に振る。


『シエロ達は分かっているだろう。そして彼らは辛抱強く友好的だ。だが、彼らは共和制だと言っている。つまり…。』


共和制とは、各種族の代表が集まって会議の上で政を行なっていく体制のことです。


かってシエロさんはこう言っていた。


「つまり…、アルボレス共和国の全てが、シエロさん達みたいに友好的ではない、と…?」

『…その可能性は、ある…。そしてこの国は、彼の国に戦争を起こさせるに十分な理由を与えてしまった…。』


僕とクロのやり取りに、アルが天を仰いだ。

気付けば満点の星空は雲に隠されている。


「明日は雨が降りそうだな…。」


アルがポツリとそう呟いた。











着火→チャッカー


我ながら安易なネーミング…笑

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