13.会談②
次に口を開いたのはダリアさんだった。
「話を戻しましょう。さきほど共和制と言いました。種族で差別はありませんが、代表が各々の種族の利益を優先しようとすることは多々あります。」
お恥ずかしながら、と付け加えるダリアさん。
ほぼ人間ばかりのこの国の内部でも同じ様な事が起こるのだからこれは致し方ないだろう。
「特に会議で論争になりやすいのが資源の分配問題です。」
「ワシも努力はしておるんだがなぁ…。」
「あなただけのせいではありませんよ、デシ。」
ため息をつくデシさんをダリアさんが慰める。
このやり取りで何となく内情が見えてきた。
「モシ資源の再分配が難航しても、貴国から入手する事が出来れば話はまた変わってくる。聞いたところによると、貴国は鉱山も多く、場所によっては金鉱もあるとか?」
「えぇ、まさに父は新しく開通した鉱山に視察に出向いている所です。」
新しい鉱山と聞いて三人の目の色が変わる。
「ワタシたちは三種族を代表してやって参りました。何卒、我が国と国交を結んでは下さいませんか?絶対に損はさせませんので!」
シエロさんの、見た目にそぐわない語気に、同時に異国の内情が切迫している事も伺えた。
「ところで三種族の代表と仰いましたが、あなた方はエルフとドワーフではないのですか?」
ここで口を開いたのは三人をじっと観察していたペトロネラ長官だ。
魔法省長官のこの人から見れば、資源や国交云々よりも、三人の生態が気になってしまう所なのだろう。
「ワタシは、人間とエルフの混血です。」
僕はシエロさんのこの言葉に再び衝撃を受けた。
「ハーフエルフという事かしら?」
「…その言い方は余り好きでは無いのですが…。」
「失礼しました。では人間…族とでも言うのかしら?シエロさんがその代表という事でよろしいのね?」
本当に失礼と思っているのか疑わしい、悪びれない態度のペトロネラ長官の横顔をエレンが睨みつけている。
二人の親子仲は日に日に悪化しているように感じられる…。
「私としては大いに歓迎なのですが、いかんせん、最終的な決定権は王である我が父にあります。あと二日程でこちらへと戻るでしょう。今しばらくお待ちいただけませんか?」
フォルテウス様の言葉に大きく頷く三人。
「アナタのその言葉だけで今は十分です。慌てる旅でもありませんので、少しだけ滞在させて下さい。」
カタコトだが十分に謝意が伝わるシエロさんの言葉。その後、三人は深々と頭を下げるのだった。
*****
夜風が気持ち良かった。春ももうすぐそこなのだろう。
僕は王城内の寮の自室の窓から星空を眺めていた。
『…何を考えている?』
窓枠にクロが飛び乗ってくる。
「色々と…。衝撃的な日だったな、と思ってさ。」
嘘偽りの無い言葉だが、もちろん、僕の頭の中を巡っているのは、ある複雑な思いだ。
クロと僕には《魂の繋がり》と呼ばれるものがあって、僕の考えている事はある程度クロに伝わってしまう。
なので今、僕が考えている事もある程度は分かっているはずだ。
だがクロは黙って僕の次の言葉を待ってくれている。
僕はぐるりと辺りに視線を巡らせて、この話を聞いている者が誰も居ないか、確認する。
「シエロさん、エルフと人の混血だったんだね…。」
つまりは僕の母さんと、同じ、というわけだ。
「国が違えば、母さんもああいう風になれたのかな…?」
北の辺境で隠れ住む母さんと、かたや国の代表として活躍するシエロさん。
同じ境遇のはずの二人だが、国の違いで大きな明暗が生まれている。
「母さんは、幸せなんだろうか?」
『…それは本人に聞いてみないと何とも言えんが…。』
そこでクロは一拍置く。
『俺が思うに、お前みたいな息子がいて、温かい家族と隣人達に囲まれて。エトワールは幸せだと思うぞ。』
「…ありがとう。」
珍しいクロの慰めに、僕は素直に礼を言う。
「今度、帰った時、母さんに直接聞いてみるよ。」
そんな僕の様子をクロがじっと見つめている。
「違うな…。」
僕は独り言ち続けた。
「僕も、だな…。」
僕はこの体に流れるエルフの血を隠して生きている。四分の一ともなればパッと見は普通の人間と変わらない為、怪しまれる事なく人間の世界に溶け込んでいるが、逆に言えば、僕がエルフの血を引いている事は、変えようの無い事実だ。
「国が違えばもっと違う道があったのだろうか?」
『…それは分からん。だが、お前ならきっと自分自身で道を切り拓くだろうさ。』
「…ありがとう。」
クロにしては珍しく僕の事を褒めてくれた。僕は二度目の礼を口にする。
あの三人がやって来た国は、一体どんな所なのだろう?
人間とエルフとドワーフが分け隔てなく暮らす国。
『そのうち、行けるさ。』
「そうだね…。行けると、いいね…。」
僕は星空を見上げながら、まだ見ぬ遠い異国に心を馳せていた。




