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シャ・ノワールと騒乱の聖歌  作者: 蒔田 椎太
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10.上層会議

少人数だったが、会議は紛糾した。

仕方ない事だと思う。その場にいるほとんどの人間が、フォルテウス様でさえ、森の民(エルフ)山の民(ドワーフ)を見た事が、会った事がないのだ。


「そもそもそのような生き物が本当に実在するのか?!お伽話ではないのか!?」


ある文官がそう言った時、何かを言いかけたアルを僕は慌てて制止した。


「それに商人の友人からの伝書鳩による情報。との事ですが、それは本当に信用に足るのですか?」


騎士服を着た別の男性が声を上げる。それに声を上げそうになったのはエレンだが、それも僕とアルが抑えた。


僕ら親衛隊は会議の席にはつかず、というよりそんなに大きな円卓では無い為、全員が座るのは無理という事で、フォルテウス様の背後に控えている。


「私は彼らを信用している。」


フォルテウス様が言い切ったその一言に、一瞬、部屋の中が静まり返る。


「では第三軍は上位部隊をいつでも動かせるようにしておきましょう。幸い新兵達の訓練進捗がはかどってましてな。」


最初に口を開いたのはグラート将軍だった。ニヤリと口の端を吊り上げる。


「私にも彼らがそんな上手な嘘をつける器用な人間とは思えない。なぁゴドール?」

「仰せのままに。」


グラート将軍の隣に座るゴドールさんがしれっと答えた。


「で、では我々騎士団は陛下へのご報告と、その使節団の歓迎に出向こう。」

「おぉ!よろしく頼みましたぞ!」


次に口を開いたのは例の騎士姿の男性だった。どうやら変わり身の早い人のようだけど…。

一瞬ゴドールさんがむっとした顔をしたが、隣のグラート将軍がにこやかに即応したので何も言わなかった。


「エルフにドワーフですか…。なかなか学術的にそそられますわ。会談の際は是非、私共もお呼び下さい殿下。」


会議の円卓の席に就いている中で、最後に口を開いたのは金髪碧眼の女性だった。

この言葉に顔をしかめたのはエレンだ。

そう、彼女はエレンの母親、ペトロネラ長官。魔法省の偉い人だという話は聞いていたが、まさかその最高位とは思わなかった。


「恐らく父上が戻られるまでには一週間はかかるはずだ。異国の使者はポートランドから向かってくるという事だから十日前後。何かと慌ただしくなると思うが、皆、頼んだぞ!」


フォルテウスの檄でその会議か締めくくられた。




*****


「ほんっと、面倒臭い人達!!」

「こらこら、エレン。間違ってもそんな事いうんじゃありません。」


ぷりぷりと怒るエレンをイネスが母親のようにたしなめている。

場所は親衛隊の控え室。一先ずお昼休憩を挟んで今後の親衛隊の動きを考えようという事になったのだ。


「まぁ、やっとまともに働いたって感じだよな。重役会議にも参加できたし。まぁ俺は何もしてないがな!」


わはは、と笑うロメオをエレンとイネスが冷たい目で見ている。


「しかしパズの使い魔はすげぇな!鳩は夜目が効かないって話だから、夜は活動しないと思ってたぜ!」

「そ、そうだね!本当に!」


まさかクロの部下の梟が夜を徹して飛んで来たとは言えず、僕は思わずどもってしまう。

ちなみに梟は流石に疲れたのか、僕の部屋で休息を取っている。


『第一に自分の体を大切にしろとあれほど言っているだろうが!』


とクロに怒られていたが、なぜか嬉しそうだった…。


「ところでロメオ、ポートランドからだと最短でどれくらいで王都へ着ける?」

「うーん…、早馬を飛ばせば三日かもしれんが…、そもそも宣教師の使節団なんだろ?となると馬車だろうし、まぁ十日前後じゃねぇかな?」


アルの質問に指を折りつつ答えるロメオ。この答えはフォルテウス様の考えとほぼ同じだ。


その時、部屋の扉を叩く音がする。


「お?昼飯かな?どうぞ!お入り下さい!」


アルが嬉々として声を上げた。僕らが待っている昼食の配膳かと思いきや。


「まったく…、出迎えもないのかね?」

「失礼するよ。」


入ってきたのは二人の男性。先ほどの会議に参加していた騎士姿の男と文官だ。


「これはセルジオ将軍とブノワ長官。大変失礼いたしました。」


そう言ってアルが椅子から立ち上がると会釈をする。僕らもそれに倣って立ち上がると二人にお辞儀をした。


「ふん…、まぁいい。所でフォルテウス様に例の情報をお知らせしたのは誰かね?」


立ったまま、僕とアルは顔を見合わせる。


「私と、こちらのレオナードですが、それが何か…?」


アルが訝しげにセルジオ将軍に答えた。


「困るよ君達。外交や他国との折衝は我々騎士団と貴族院の仕事なのだよ。」

「しかも情報の精査もせずに勝手にフォルテウス様にご報告するなど…。もし間違った情報であった場合、どうするつもりですか?」


僕らは皆、ポカンと口を開けた。アルなど、相手が目上の人という事も忘れて、はぁ…、などと返事をしている。


「良いですか?これからは今回のような情報を仕入れた際は、私か将軍にまずご報告なさい。それを精査した後に、私どもから陛下やフォルテウス殿下にご報告いたしますので。」

「なぜその必要がございます?」


僕らが戸惑っているその時、控え室に現れた第三の人物はゴドールさんだった。


「ゴ、ゴドール殿…。ノックも無しに失礼では無いですか?」

「ノックならしました。それに配膳に来たメイド達が中に入れずに困っております。彼女らとて暇ではありませんから。」


ゴドールさんの背後に、申し訳なさそうに佇むメイドさんが数名見えた。


『ノックなら聞こえたぞ。恐ろしく小さなノックだったがな。』


クロが僕とアル、エレンにしか聞こえない声で教えてくれる。

ギリギリ聞こえないような小さなノック…、まぁ物は言いようだ。


「私がお聞きしているのは、何故彼らが得た情報をセルジオ様やブノワ様にお伝えせなばならないのか?という事です。彼らの直属の上司はフォルテウス様のはず。であれば得た情報はフォルテウス様の物。真っ先に直属の上司にお伝えするのが筋というものではございませんか?」


かなり丁寧に言い回しているが、明らかにセルジオ将軍やブノワ長官を牽制している。

二人は怒気をはらんだ表情で顔を赤くしているが、ゴドールさんの言う事が正論なのだろう、何も言い返さない。


「そうそう、それとお二人の事をペトロネラ長官がお探しでしたよ。彼女は待たされるのがお嫌いではなかったでしょうか?」

「…ふん…、我々はこれで失礼する。いいかね親衛隊諸君、今後、勝手な行動は慎むように。参ろうか、ブノワ殿。」


最後に僕らへ一言釘を刺して、セルジオ将軍とブノワ長官は部屋を出て行った。


「…助かりました、ゴドール殿。」


二人の背中が見えなくてなった所で、僕らを代表してアルがゴドールさんに礼を述べる。するとゴドールさんは眉根を寄せる。


「何を勘違いしているのですか?私は助けたつもりなど毛頭ありません。」


えっ…、と驚いた顔のアル。そのまま難しい顔でゴドールさんが続ける。


「彼らの言う事にも一理あります。もし貴方がたがもたらした情報がデタラメであれば、それなりの責任を取って頂く。」


ゴドールさんは鋭い目付きで僕とアルを交互に見つめる。


「いいですか?ここは王宮で貴方がたは既に一人前の大人として扱われます。言動にはそれなりの責任が伴う事を忘れずに。それでは失礼。」


それだけ言うとゴドールさんはくるりと踵を返して部屋を出て行った。残された僕らはそのまま立ち尽くす。


『ふむ…、嫌味な奴だが間違った事は言ってないな。』


クロが感心したように呟く。


「あのぉ…、お食事、お配りしてもよろしいでしょうか…?」


メイドさんの声に僕らは我に返るのだった。







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