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はじまりの島で君を待つ  作者: かじかけい
9/17

ほれ、良く見て見ろ

 畑仕事の合間を縫って、俺は絵を描くようになった。先日弾き語りをするサヨリさんを描いたところ、思いの外喜んでくれたのだ。そして「何か描いたらまた見せてくれ」と言ってくれた。あのカスミさんでさえも「人には何かしら特技があるものなのですね」と褒めてくれた。で、サヨリさんの絵をあげたところ、ご飯のお代わりをしても文句を言わなくなった。芸は身を助けるとは当にこのことだ。

 サヨリさんの屋敷には、檜皮葺(ひわだぶき)というちょっと変わった屋根が乗っている。木の皮を幾重にも重ねたものだという。実はこれに気が付いたのは最近で、それまでは茅葺(かやぶき)屋根だとばかり思っていた。そう言われてみると、茅葺とはまた違った趣があり、絵の題材としてはとても魅力的である。光りの調子が同じになるよう、同じ時間帯に少しずつ描くことにした。

 今日も定位置に腰を下ろし鉛筆をとる。視界の隅に人影が入った。沐浴を終えたサヨリさんだ。茉菜は最近、サヨリさんのことを姫巫女様ではなくサヨリヒメ様と呼んでいる。修行を通じて関係性が深まったのだろう。けど俺だってカスミさんからパインアメと、このスケッチブックを貰ったんだからな。お代わりだって2杯までオーケーだ。

「絵は進んだか?」

 サヨリさんの声が近づいてくる。

「まだ下書きの途中ですけど見まっ……わっ」

 顔を上げた俺は慌ててスケッチブックに視線を戻した。サヨリさんの浴衣の前が思いっきりはだけていたのだ。浴衣の下はもちろん……。

「さ、サヨリさん! ま、前!」

「まえ? まえとは何じゃ?」

「むね! 胸!」

「ひょっとして、(ちち)のことか?」

「そうです!」

「見られて困るものでは無い。気にするな」

「いや。俺が困るんですって!」

「なんだと? わしの(ちち)が迷惑とでもいうのか」

 この人、本当にただの天然なのか?

 俺をからかって楽しんでいるだけじゃないのか?

「我ながら良いカタチをしておると自負している。姉上もよく(うらや)んでいた」

 布が大きく擦れる音がした。

「ほれ、良く見て見ろ」

 な、なに? 胸元を開いたのか?

 今ちょっと顔を上げれば、超至近距離にサヨリさんのおっぱいが?

 見たい。見たい見たい見たい! 

 けどガン見する勇気なんてない。それに見ているところをカスミさんや茉菜に知られたら、ここでの俺の生活は確実に終わる! なのに心の底からわき上がるこの衝動! どうしたら良いんだ? 誰か助けてぇ!

「サヨリヒメ様! 何をしているんですか!」

 茉菜の声だ。助かった!

「茉菜か。彰人がな、わしの(ちち)が迷惑だと言うのだ。無礼だとは思わんか?」

 茉菜が走ってくる音が聞こえる。

「しまって下さい!」

 また布の擦れる音がした。「(ちち)」をしまってくれたらしい。

 やっと顔を上げることができた。

「なぜだ?」

「なぜって……その、サヨリヒメ様の御胸は……」

 茉菜は思案すると、何かを思いつき自信満々に言った。

「美しすぎて凡人には目の毒なんです! そう、神々しくて、目が潰れるのです!」

 おお、茉菜さん、ナイスフォロー。けど面と向かって凡人と呼ばれてしまった。これはこれでへこむ。

「世迷い(よまいごと)を。前に彰人はわしの裸をしっかりと見たぞ。(ほと)までな。なのに(めしい)ておらん」

 な、なんて余計なことを!

「ほと? ほとってなんですか?」

「女の一番大切なところ」

 茉菜の顔色がサッと変わり、俺をゴキブリでも見るような目で見た。

「ま、茉菜……茉菜さん! おれ……僕は、あのとき気を失っていたので、何も見ていません! 誓って!」

「何を言っておる。気を失ったのは、わしを頭の天辺から爪先まで舐め回すように見てからではないか」

 終わった。

「……露出狂って言っていた意味が今ようやくわかったわ。この変態! エッチ!」

「露出狂? きさまわしの事をそのように呼んでいたのか? 人の庭に勝手に上がり込んでおいて、その言いぐさはなんだ!」と言ってからふと思いつき茉菜に聞いた。

「茉菜、えっちとはなんだ?」

「変質者に対する罵倒用語です」

「そうか。彰人! おまえはとんでもないえっちだ!」

 俺、ここでただ絵を描いていただけなのに。


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