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はじまりの島で君を待つ  作者: かじかけい
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彰人。おまえにだよ

 いつものように畑仕事をしていると、カスミさんのもとにひとりの兵隊さんが駈け寄り小さなメモを渡した。カスミさんはその場でメモに目を通すと、道具を投げ出し屋敷に走った。道具を大切にするカスミさんには珍しい。何があったんだろう。俺は最低限の作業を終わらせ、カスミさんが散らかした道具を片付けてから屋敷に向かった。

 とりあえず井戸で手と顔を洗いたかったが、聞き慣れない音を耳にし縁側に向かった。そこには古いラジオに耳を傾けるサヨリさんとカスミさん、そして茉菜と溝口がいた。あれは屋根裏にあった木製真空管ラジオではないか。まだ使えたとは! ヤフオクに出せば高値が付くんじゃね?

「何を聞いているんですか?」

 全員が俺に向かって「しっ!」と人差し指を唇にあてた。ラジオは雑音だらけで、ほとんど聞き取れない。ときおり「ヒューピー」と大昔のSF映画の効果音みたいな音がする。

 せっかく高速回線があるんだからパソコン使えばいいのに。どこまでもアナログな連中だなぁ。俺が近づいていくと、急に音がクリアになった。流れているのはニュースのようだ。俺も聞かせて貰おうと、縁側に腰掛けたらまた雑音だらけになった。

「彰人くん。ちょっと戻って」と溝口。

「え? なに?」

「いま来た経路を戻って。ゆっくりと」

 言われたとおり来た道を戻ると、またラジオの音がクリアになった。

「ストップ! そこを動かないで! そのまま!」

「どう言うこと?」

「アンテナになってくれ」

「だからどう言う……」

 全員が俺に向かってまた「しっ!」と言った。

 ニュースは海難事故による関門海峡の封鎖を伝えるものだった。関門海峡といえば海上交通の要所。ここが通れないってことは、多大な経済的損失が生じる。重大なニュースには違いないけど、なぜそれをみんな真剣な顔で聞いているのだろう。

 しばらくラジオを聞いていると、事故の状況がわかってきた。衝突により一隻が沈み、一隻が燃えながら漂流しているという。そしてその漂流している船は軍艦らしい。軍艦って燃えるものなのか?

「あり得ない」

 サヨリさんが呟いた。

「いるはずがないのだ、天羽々斬を使える者など」

 天羽々斬? 

「どう言うことです? この事故と天羽々斬に何の関係があるんですか?」

「カスミ、教えてやってくれ」

「良いのですか?」

「人死にが出た。最早内々の話では済まされない。彰人も虚人(うつろびと)でありこの事件の発端に係わった当事者であることに違いない。この際だ。知っておいて貰おう」

 沈んだ船は海上保安庁の巡視艇。炎上しながら漂流しているのは海軍の駆逐艦。いずれも民間の海洋調査船を拿捕(だほ)するために派遣されたものだった。目的は天羽々斬の奪還。つまりこの海洋調査船こそ千里視により特定された船なのだ。ラジオでは衝突事故と報道されているが、実際には海洋調査船から攻撃を受けたらしい。

「攻撃? 攻撃ってなんですか? 今の話の流れだと『天羽々斬を使って船を沈めた』って聞こえるんですけど?」

「姫巫女様はそうお考えです」

「そんな馬鹿な。雷を落とす程度の神通力で、船が沈んだり軍艦が燃えるわけないでしょう」

「それは逆です。巡視艇を一撃で沈め、駆逐艦に反撃する間も与えず無力化することなど民間船には不可能です。可能なのは戦艦か、天羽々斬のような神器しかありません」

「でも祭主様は雷一発で気絶してたじゃないですか」

「いまの祭主様はあくまで生まれ変わりです。お隠れになる前のタキリヒメ様の力はあんなものではありません。海を裂いたと言います」

「海を裂いた? じゃ、神剣の一振りで千人のロシア兵をなぎ払い、気象を操って戦艦を沈めたっていう話は……」

「今日伝わる姫巫女伝説に大きな誇張はありません。むしろ控えめと言ってもいい。唯一異なるのは、姫巫女様がひとりではなく三姉妹であったことでしょうか」


 二十世紀の初め。戦局を見誤った皇国軍は、対馬・福岡へのロシア軍上陸を許した。反撃の(すべ)を見いだせずにいた皇国軍が、(わら)にもすがる思いで頼ったのが、古代より九州で信仰されてきた道主貴(みちぬしのむち)の三女神タキリヒメ・サヨリヒメ・タキツヒメの三柱だった。けしてこれで戦局が変わると思ったわけではない。眉目麗(びもくうるわ)しい姉妹として知られた三女神を担ぎ出すことで、兵士たちの志気が少しでも上がればと思ったのだ。

 祀られていた島から数十年ぶりに人前に姿を現した三女神は、その絶望的状況と惨状を知り悲憤した。特に占拠された対馬におけるロシア兵の蛮行を耳にし激高した。逃げ遅れた島民に対する略奪強姦が横行していたのだ。

 皇国軍は文字通りの神頼みをあまりにも安易に考えていた。重大な事実を軽視していた。三女神は古代日本に顕現した最も古い虚人(うつろびと)の三世で、その力は神話時代の神々に匹敵することを。一度荒ぶると誰にも止めることができないことを。そして多くの神々がそうであるように、時として残虐無比であることを。

 戦いが終わったとき、対馬・福岡は焦土と化し、山河の形さえも変わっていた。バルチック艦隊と上陸したロシア兵は尽く全滅し、日本国側も十二万を超える将兵と民間人が命を落とした。その惨状は目を覆うばかりだったという。また三女神のうちタキリヒメ、タキツヒメの二柱も失った。

 酸鼻を極めた想定外の結果に皇国軍は震撼した。それは戦勝の喜びを上回るほどの衝撃を皇国軍に与えた。まさか三女神に近代兵器と対等に戦う力があるとは! 皇国軍はこれを軍隊そのものの存在意義を問われかねない不都合と考え、隠蔽することにした。

 生き残ったサヨリヒメは御諸山に幽閉されることになった。多くの死傷者を出したことに責任を感じていたサヨリヒメは、これを甘んじて受け入れた。こうして三女神の名は歴史から抹消された。この事実は一部政府閣僚、宮内省、皇国軍、そして御諸山を管理する限られた人間しか知らない。ただ「姫巫女伝説」というお伽噺として日本人の知るところである。


「姫巫女様は神話の時代を知る数少ない女神の一柱なのです」

 嗚咽が聞こえた。みると溝口が泣いていた。

「なんだよぉ。歴史学者がそんなことはあり得ないって、散々馬鹿にしてきたことが全部本当じゃないかぁ。それどころか姫巫女様が女神様で、今もこうして生きていただなんて。しかもこんな田舎の山中に閉じ込められて。皇国を救った英雄なのに酷すぎるよぉ」

 サヨリさんがキョトンとした顔で溝口を見た。

「おまえ、わしのために泣いているのか」

「だって、だって……」

「なんとも()いやつだ。泣くな。こっちに来い」

 サヨリさんは泣きじゃくる溝口の頭を抱えると、自分の胸に押し当てた。Tシャツには以心伝心の四文字。溝口は当たり前のようにサヨリさんの胸に顔を埋めると声を出して泣いた。茉菜が「は?」と嫌悪を露わにし「離れないさい!」と溝口を引きはがしにかかった。

 俺は俺で混乱していた。

 古代虚人(うつろびと)の三世? 神話の時代を知る女神?

 日露戦争で戦った本人?

 ほ・ん・に・ん? 

「サヨリさんっていったい、幾つなんですか!」

「無礼なことを聞くな!」

 カスミさんが俺の頭を叩いた。

 いや、無礼とかそういう次元の年月じゃないでしょ!

「でもなぜ関門海峡なんですか? 関門海峡でいったい何が起きて……」

 縁側に男が現れた。一瞬あのダークスーツの男を思い出しギョッとしたが、なんてことはないトマト兵長さんだった。だがこの屋敷には緊急時以外は隊長さんしか訪問を許されていないはず。そのトマト兵長さんが言った。

「サヨリヒメノミコトに申し奉る。御高見賜りたい」

 

 トマト兵長さんは陸軍情報部の将校さんだった。今回の御諸山襲撃事件は、安全保障を揺るがす重大な事件として当局に認識された。内通者の存在も疑われ、その調査も含め派遣されたのがトマト兵長さんだった。

「で、不審者はいましたか?」とカスミさん。

「いいえ。むしろ一番謎なのは中尉でした」

「わたしのことはどうでも良いです。あなたの本当の階級は?」

「まぁ、堅苦しいことは良いじゃないですか。これからは軍司令の連絡係として考えてください。あ、くれぐれも曹長には内密に」

 トマト兵長さんが自前のパソコンを立ち上げると、画面をサヨリさんに向けた。

「これはリアルタイムの画像です」

 画面には関門海峡の衛星画像が映っていた。

 さすが高速回線! さすがは「情報」将校!

 この世界で初めて見るデジタルな人!

「関門海峡大橋のすぐ西側です」

 画面が拡大される。大きな黒煙をなびかせている船が映った。

「駆逐艦時津風。艦齢は三十年を越えますが、近代化改修された艦です。乗員百八十七名のうち、現在までに二十名しか救助されていません。巡視艇おきかぜの三十五名は絶望視されています」

 画面がスクロールした。関門海峡大橋の東側。

「これが問題の海洋調査船です。三柏重工の『かいじん』です。画像分析によると、潜水艇を降ろしているらしい」

 呉、佐世保から最新鋭の電子巡洋艦が現場へ急行中。空軍の攻撃機も既にスクランブルし上空で待機しているという。

「当該船は臨検を拒否し当方に攻撃をしておきながら、この海域に悠々と留まっている。軍が本気になれば海洋調査船など沈めるのは簡単です。なのにそれを恐れている様子がない。これをどう解釈したら良いのでしょう」

 カスミさんが言った。

「船主である三柏重工はなんと言っているのですか」

「船を管理運用している子会社に強制捜査が入ったようですが、なんの情報も上がってきていません。本社広報も沈黙したままです。役員達の所在も知れません」

 サヨリさんがポツリと言った。

「壇ノ(だんのうら)か」

「はい、この沿岸は壇ノ浦です。それがなにか?」

 サヨリさんは髪の毛を掻きむしり、何かを言おうとしたが、そのまま沈黙してしまった。

「壇ノ浦って源平最後の合戦があった場所ですよね。何か関係が……」と言いかけた茉菜に溝口が被せて言った。

草薙剣(くさなぎのつるぎ)だ!」

 くさなぎのつるぎ?

「壇ノ浦には草薙剣(くさなぎのつるぎ)が沈んでいる! こいつら、それを捜しているんだ!」

 八百年まえ。戦いに敗れた平家一族は幼い(みかど)と共に入水(じゅすい)した。このとき三種の神器である草薙剣(くさなぎのつるぎ)八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)も海に沈んだ。八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)は奇跡的に回収されたが、草薙剣(くさなぎのつるぎ)が見つかることは無かったという。

「いやいや、溝口くん、そりゃ無いだろう。金属製の剣なんて、とうの昔に錆びてボロボロに崩れて、無くなってるって。ねぇ、サヨリさん?」

 俺がそう言ってサヨリさんを見ると、サヨリさんは依然パソコンの画面を見つめたまま固まっていた。

「たとえあったとしても、広大な海底から探し出すなんて不可能! 金属探知機を使うんだろうけど、金属ゴミなんて海底に山ほどあるし。裏の畑から針一本探す方がよっぽど楽だって。ねぇ、サヨリさん?」

草薙剣(くさなぎのつるぎ)……いや、天叢雲剣と天羽々斬には深い因縁がある」

 え? なに? どうして俺の発言を無視するの?

「お互いの刃が真正面からぶつかり合ったことがある。天叢雲剣は傷ひとつ付かなかったが、天羽々斬は一部が欠けた。以来天叢雲剣の近くに置くと泣くのだ」

「え? 誰がです?」

「天羽々斬が。恨みがましくな」

 なにその気持ち悪いはなし。

「今頃その船の上で泣いているのではないか」

「あの、ホラー話はいいですから、もっと現実的な話を……」

 はたと思いつく。

 それってまさか、天羽々斬を探知機代わりにしているって意味?

「サヨリヒメノミコト。天叢雲剣の力は如何ばかりでありましょう?」

「天叢雲剣の真の力を知る者は今は誰も居ない。だがあれをアマテラスに献上したのには意味がある。ヤマトタケル以外、誰も手にしなかったのには理由がある。あれは剣呑なるものだ」

「我らは如何すれば良いと思われますか」

「あの船を、あの海洋調査船を即刻沈めよ。天羽々斬とともに」

 お伽噺のような歴史に基づくこの世界だが、人の生き死には俺の世界よりも切実感がある。サヨリさんがいま口にしたひと言は「海洋調査船に乗っている人間ごと海に沈めろ」ってことだ。衛星画像で見る限り、ヘリコプターを搭載した大きな船である。きっと数十人単位で人が乗っているはず。どんな連中かは知らないけど、全てが悪人であるはずがない。上から命令され、ただ船を動かしているだけの人も多いはず。燃えている軍艦を見てビビっている人もいるかも知れない。それを沈めろだって? 

 あのヴリル協会の、あのナチスの男が言っていた「数万人の命よりも手続きの方が大事」という皮肉。これに祭主様は「(たみ)がそれを選んだのだ。仕方あるまい」と答えていた。あれは納得した上で答えたわけではなく、本当にただ「仕方がない」と思っているだけ? これが神様の考え方ってこと?

「サヨリヒメ様!」

 茉菜だった。

「わたしは反対です。まだ草薙剣(くさなぎのつるぎ)と決まったわけではありません。あまりにも乱暴すぎませんか!」

「茉菜、おまえはあれを目にしたことがないから、そんな事が言えるのだ。あれは妖刀(ようとう)だ。人を惑わす。神を鬼に変える。手にして良いのはアマテラスの血筋だけだ」

「わたしには今のサヨリヒメ様こそ鬼に見えます」

「なんだと?」

 サヨリさんがゆらりと立ち上がった。

「もう一度言ってみよ! タキツの血を引く女であっても容赦せんぞ!」

 怒号が屋敷を震わせた。思わず身がすくんだ。でかい声を出したからではない。言葉そのものが心を萎縮させるのだ。きっとこれが言霊ってやつに違いない。サヨリさんが茉菜に向かって歩いて行く。止めなきゃと思うのに身体が動かない。茉菜をみると毅然とサヨリさんを睨みつけていた。茉菜にはサヨリさんの言霊は通じないらしい。さすがはこの物語の主人公。

 サヨリさんと茉菜の間に割って入ったのはブナタロウだった。

 ブナタロウは茉菜の前に立つと、サヨリさんを見上げた。

「白大神、そこをどけ!」

 ブナタロウは静かに頭を下げた。

「代わりに蹴れとでも言うのか、この(いぬ)っころが!」

 サヨリさんはその場にどっかり胡座をかくと「ちっ。()めたわ」と掃き捨てるに言った。

「サヨリヒメ様」

 茉菜の少し声が震えていた。やっぱり怖かったらしい。

「なんだ」

「人が死なない方法を考えましょう」

「それと同じセリフを、前にカスミに言ったような覚えがある」

 そのカスミさんの姿はなかった。


「繋がりました。これでお話し頂けます」

 トマト兵長さんがセットアップしたパソコンをサヨリさんに向ける。画面には祭主様の寝ぼけた顔が半分、大写しになっていた。この世界におけるスカイプだ。ちゃんとデジタルしてるじゃん、この世界も。

「姉上。わたしです」

『……』

「聞こえていますか?」

『おい。テレヴィジョンでサヨリが話しておるぞ?』と後ろを振り返る。

「これはテレビ電話です。壇ノ浦の件、お聞き及びでしょうか」

『てれびでんわ? わらわの声も向こうに聞こえているのか』

 また後ろを向いた。

「聞こえています、普通にお話ください」

『あ!』

「どうされました?」

『のけ! 邪魔だ』

「はい?」

『サヨリのうしろ、ククリがいる! ククリを出せ!』

 こんな会話が三分。

 状況を理解して貰うまでにさらに五分かかった。

『サヨリよ。天叢雲剣の意味とはなんじゃと思う?』

「意味もなにも。三種神器(みくさのかむたから)がひとつ、唯一無二の神剣です」

『それだけではないぞ』

「と言うと?」

『正統なる権威の(あかし)だ。これを継ぐ者こそ、この八洲の(すめらぎ)である』

「これを叛乱の企てと仰るか? この八洲で? そんな馬鹿なことが……」

『誰が馬鹿じゃ! 馬鹿という者が馬鹿じゃ! こっち来い! その首引っこ抜いてやる!』

「お、落ち着いてください。そう言った意味で言ったのではありません。仮に叛乱として首謀者は誰です?」

『天羽々斬を使える者……しかも軍艦を燃やすほどの力を引き出す者……。そんな者は何人も残っておらん。天津神では三貴人系、国津神では出雲系ぐらいなもの。このうちのどれかじゃろ』

「しかし神々が(まつりごと)から離れて久しい。三種神器(みくさのかむたから)のひとつを手にしたからと言って、そのような者を国が……いえ、民が認めますまい」

『平常はな』

「姉上は如何すれば良いと思われますか?」

『神剣ごと海に沈めるのが一番』

 やっぱり。

『父上の形見、天羽々斬を失うは惜しいがやむを得ん。ヒコーキでバクダンを雨あられと降らせれば、さしもの天羽々斬も敵うまい』

「タキリヒメ様! 他に方法はありませんか! 人が死なない方法が!」

『茉菜か。茉菜よ。これ以上人が死なないよう沈めるのだ。神器の力を侮ってはならん』

「姉上。そこをなんとかお知恵を絞っては頂けまいか」

『サヨリまで一体どうしたこ……そうか。そう言うことか。面倒臭い連中じゃのう、まったく』

 祭主様は暫く考えると『ふむ。ある方に相談してみよう』と画面から姿を消した……と思ったら直ぐに現れ『ククリを出してたもれ。ククリを』と言った。

「ブナタロウは畑に行きました。たぶんカスミさんを捜しに」

 そう俺が答えると『役立たずな犬係じゃな!』と画面から消えた。

 犬係じゃ、ねーし。


 トマト兵長さんに連絡が入り、現時点における航空機からの攻撃が無くなったことがわかった。茉菜の意見が通ったのではない。海洋調査船の目的が不明であり、関門海峡が極めて重要な交通の要所だからだ。この狭く込み入った海峡には関門海峡大橋、関門海峡トンネル、山陽本線が通っている。攻撃が始まりこれらに被害が及ぶと、その経済的損失は計り知れないものになる。

 人命ではなく経済優先の考え方が、皮肉にも茉菜の希望に則す形になった。だが電子巡洋艦が到着すればまた状況は変わる。それまでに祭主様の答えが出れば良いのだが。

「つらい」

 茉菜が立ち上がり言った。

「朝起きたとき、今日自分が死ぬなんて想像する人、いる?」

 沈められた巡視艇や炎上する駆逐艦の乗組員を言っているのだ。

 トマト兵長さんが淡々と答えた。

「それが我々の仕事です。任官した時点でその覚悟は出来ています」

「でもわたしだったら、わたしの家族だったら堪えられない」

 茉菜はそのまま縁側から外に出て行った。

「宮路!」

 溝口がその後を追う。

 トマト兵長さんも「わたしは一度詰め所に戻ります」と去った。

 縁側にはサヨリさんと俺のふたり。

 サヨリさんが背伸びをして言った。

「彰人。茶を一杯所望する」

「麦茶でいいですか?」

「麦茶がいい。氷をたんと入れてくれ」


 麦茶を出すと、美味しそうに半分ほど飲んだ。

「電気冷蔵庫は偉大なり」

「前にも言ってましたね」

「夏祭りがなぜあるか知っているか?」

「いいえ」

「むかしは食中毒(しょくあたり)で大勢の人が死んだ。特に(わらべ)がな。疫病を払うため開かれたのが夏祭りだ。だが今ではただの暑気払い。これもすべて電気冷蔵庫のおかげだ」

 俺が当たり前に思うことが、この神様には当たり前ではない。神様が出来なかったことを、人間が成し遂げるようになったって事なのだろうか。 

「それにしても茉菜の気性はタキツそくりだ。時々錯覚する」

「あの、茉菜はそのタキツさんの生まれ変わりなんですか」

「生まれ変わりではない。遠い昔、タキツが生んだ子の子孫だ。日露戦争前までタキツを祀った神社の宮司をしておった。あの力、隔世遺伝というやつだな。きっと良い神官となろう」

 神様の子孫なんだ、すげぇ。……神官?

「茉菜は神官になるつもりなんですか?」

「初めはかなり戸惑っておったようだが、結婚も普通にできると聞き興味を持ったようだ。しかし、なるならないは本人の自由。無理強いするつもりはない。ただ自身の出自とその意味は知っておいて欲しい。そう思って修行をさせている」

 九州の地を離れ百年あまり。サヨリさんと茉菜、そして祭主様は、出会うべくして出会った三人なのだ。さすがこの物語の主人公、神様の子孫。

 ……子孫? サヨリさんの妹に子どもがいたってことは……。

「サヨリさんってお子さんは……」

 言ってから後悔した。なんて浅はかな質問をしたのかと悔いた。サヨリさんが悲しそうな目をしたからだ。俺のような愚かで鈍感な朴念仁にもわかるほど深い悲しい目を。

「余計なことを言いました。ごめんなさい。忘れてください。無かったことにしてください」

「世が世なら両手両足を切り落とし、死ぬまで野にさらすところだが、今日は死んだ兵に免じて許そう。そのかわり……」

「はい、なんなりと!」

「カスミの様子を見てやってくれないか」

「カスミさんを? どうしてです?」

「あいつのことだ。天羽々斬が盗まれたのは自分のせい、船が沈んだのも自分のせい……と思っているのではないか」

「あ……」

 忘れていた。あれほど職務に忠実な人だ。何かしらの責任を感じているに違いない!

「ああ見えて繊細なところがある。思い詰めるとちょっと心配だ」

「おれ……僕なんかが声をかけて大丈夫でしょうか」

「ん? 何を言っている。カスミがここまで人に心を開くのを見たのは久々だぞ」

「え? 誰にですか?」

「彰人。おまえにだよ」

「はぁ?」

 俺に心を開いている? ご冗談でしょ。


 とりあえず畑に向かう。井戸端付近に人影がふたつ。きっと茉菜と溝口。気付かないふりをして通り過ぎる。ああ、むかつく。

 畑にカスミさんの姿はなかった。鶏小屋にもいない。踵をかえし滝へと向かう。声が聞こえてきた。カスミさんだ。

「寄るな、あっちに行け! なぜわたしに(まと)わり付く?」

 カスミさんがブナタロウに追い詰められていた。滝壺を背に逃げ場がない。まさに背水の陣。

「カスミさん、大丈夫ですか?」

「大丈夫なものか! はやくそのケダモノをなんとかしなさい!」

「ケモノ」と呼んでいたものが「ケダモノ」に変わっている。よほど苦手らしい。俺はブナタロウの首輪を(つか)んだ。カスミさんの肩から力が抜けるのがわかった。でも俺に向かって「離したら承知しませんよ!」と凄んだ。

「忍者って普通、動物とか得意じゃないんですか? ほら、動物使う(じゅつ)とかあるでしょ?」

「……大抵の動物を手懐ける自信があります」

「犬がダメなんですか?」

「その白いのがちょっと苦手なだけです」

 ちょっと? これのどこがちょっと?

「どうしてです?」

「それには気配というものが全くない。初めて見たとき、地の底から湧き出てきた亡霊かと思った。あの距離まで全く気が付かなかったのです。特に背後をとられたときは戦慄を覚えました。戦って勝てる気がまるでしない」

 きっちり3メートル離れて言った。

 しかしなぜ戦うこと前提?

「カスミさん。大丈夫ですか?」

「彰人が手を離さない限り大丈夫」

「いえ、そうじゃなくて。サヨリさんが心配しています」

「……わたしの様子を見てこいと?」

「はい。大丈夫ですか」

「全く大丈夫かと言えば嘘になる。あの女の笑い顔が脳裏に張り付いて消えない。(はらわた)が煮えくりかえる。心の臟が締め付けられる。姫巫女様が何と言おうとも、あの女だけは必ず殺します」

 必ず殺します。そう言ったカスミさんの目を見て俺はゾッとした。比喩ではない文字通りの殺害宣言。この人は本当に人殺しをする人なのだ。そう悟ったとき、最悪な気持ちになった。こんなことを口にするカスミさんを見たくなかった。でも俺は茉菜のように「殺すなんて言わないでください」とは言えなかった。どこか片隅に賛同する気持ちが俺の中にあるのかもしれない。これが主人公と脇役の大きな差なのだろう。

「聞いて良いですか」

「なんです?」

「カスミさんも虚人(うつろびと)なんでしょう?」

「……どうしてそう思うのです?」

「この世界の人達と常識が違うように見えます。尺貫法を使う人なんて街にもいませんし。何よりも物理法則が違うんじゃないかと思うほどの、そのずば抜けた運動能力」

 でなければカスミさんという人物の説明がつかないように思える。

「量り売りが主流の田舎では、今でも尺貫法は普通に使われています。わたしぐらいの運動能力は忍者ではごく一般的です」

 ぜったい嘘だ。あれが普通だなんてあり得ない。

 なぁブナタロウ、どう思う? ブナタロウを見ると、ブナタロウも「嘘に決まってるじゃん」って顔で俺を見た。そして突如カスミさんに向かってノシノシと歩き出した。

「ブナタロウ?」

 首輪を力一杯引いてもビクともしない。そのまま俺も引っ張られていく。

「な、何をしている? 早くそのケダモノを止めなさい! 止めないとあとで酷い目に……」

 ブナタロウがダッシュした。俺はつんのめりながら引っ張られる。そしてそのままカスミさんに激突した。もつれ合い、激しい水音と共に池に倒れ込んだ。やべぇ、絶対殺される! いや、もちろん本当の殺すじゃない方を希望! 慌てて身体を起こす。パンツまでずぶ濡れだ。

「大丈夫ですか!」

 返事がない。見るとカスミさんの上半身が完全に水没していた。

「うわぁっ! カスミさんっ!」

 作務衣を(つか)んで池から引き上げる。ピクリとも動かない。完全に気を失っていた。受け身を取れないほどブナタロウにビビったってこと? いやいやそれどころではない。頭を打ったのか? 水を飲んだのか? とりあえず頭に怪我は無いようだ。こういうときどうするんだっけ? 胸元を緩めて、身体を横にして水を吐かせて……。

「え?」

 緩めた胸元の奥にギクリとするぐらい大きな傷跡がみえた。位置的にも大きさ的にも尋常とは思えない傷跡。戦闘か何かで負ったのだろうか……ってなこと考えている場合じゃない!

 水を吐かせたあとは……人工呼吸? じんこーこきゅー? 無理無理無理! 絶対殺される。これは本当の意味で殺される! だけどここに放置して屋敷に戻るのか? その間に急変したらどうする? 

 ええい、こうなったら殺されてから後悔しよう!

 アゴをあげ、鼻を摘み、口を開かせる。そして……。

「!」

 カスミさんが目を開け俺を見た。反射的にカスミさんから離れる。

 だがあまりにも顔が近かった。なんの言い訳も出来ないぐらいに。

「あの、だ、大丈夫ですか?」

 カスミさんは上半身を起こし辺りを見回した。後頭部に手をやり怪我を確認。自分のずぶ濡れになった着衣を見る。そして最後にまた俺を見た。

「犬を、けしかけたのか?」

「ち、違います! 事故です事故! ブナタロウが勝手に! そもそもあれは茉菜の犬で……」

「蘇生措置は、したあと? するまえ?」

「するまえです!」

「胸元が開いている」と衿を直す。

「それは呼吸を少しでも楽にしようと……」

「作務衣にそんな必要はありません」

「そ、そうですかね」

「作務衣に、そんな必要は、ありません」

「誓って触っていません! 本当です。いや、水から引き上げるとき、間違ってどっかムニュッと触っちゃったような気もしますが、意図的に触るような真似は一切……」

 何言ってるの俺。このままでは確実に殺される……。

 ブナタロウ、何処へ行った? おまえが主犯だろうが!

 カスミさんは衿を今一度整え言った。

「見たでしょう?」

 それはブラのこと? おっぱいの事? それとも……傷跡のこと?

 どれであっても答えはひとつ。 

「見てません!」

 カスミさんが俺をじっと見る。思わず視線を逸らしてしまった。

「……砲弾の破片です。心臓をかすめて刺さりました。心筋が一部裂け、軍医は助からないと言ったそうです」

「!」

 いまカスミさんが初めて自身の過去を話そうとしている。けど、いきなり重すぎないか内容が! もっとライトなところから始めましょうよ。初恋は幾つの時だったとか!

「それを救ってくださったのが姫巫女様です。わたしは命に代えても姫巫女様をお守りする」

 如何にもって感じの話だけど、いったい何時(いつ)の話をしているのだろう。今は平和な時代だって言ってたよな。戦争以外で砲弾の破片が飛んでくる事ってある?

「だから、わたしはあんなケモノには負けない!」

 え? なにそれ? 「だから」の使い方がおかしいでしょ?

「おやおや? 白大神が呼ぶので来てみれば……」

 サヨリさんである。

「ふたりはいつの間にそんな間柄になったのだ?」

 え?

「姫巫女様? 何を勘違いされて……」

「勘違いも何も。男の前で無防備に身体を横たえるカスミの姿など、初めて見たぞ」

「無防備?」

 カスミさんはスクッと立ち上がると俺から離れた。

「ちょっとつまずいただけです」

「そ、そうですよ。それを俺が手助けしただけで」

 サヨリさんが首を傾げる。

「カスミがつまずく? 手助け? そんなことがあるものか。しかもふたりともずぶ濡れ! なにをどうしたら、そんな三文小説のような都合の良い事になるのだ?」

 そして天を仰ぎ、大げさにため息をついた。

「井戸端では茉菜と溝口が乳繰り合っておるし。これではわしの居場所がないではないか。いったいどうなっておる?」

 なにその芝居がかった台詞回し。良く見るとサヨリさんの口元にイヤらしい笑み。ブナタロウさえも笑って見える。……まさかサヨリさんとブナタロウが仕組んだ罠? なにこのコンビ!

「ち、違います。わたしは……」

 カスミさんが言葉につまり、俺を見た。

「やはりあのとき殺しておけば良かった」

 その目はあの日、結界が消えて無くなったときの殺意に満ちた目。

 怖い。マジ怖い。だれか助けて!

 この危機的状況から俺を救ったのは、軍用ヘリコプターの爆音だった。


「ククリー! 元気にしておったか?」

 ブナタロウにしがみついたのは、御付きの女性警護官にオンブされ、屋敷まで登ってきた祭主様。伊勢からヘリコプターを飛ばしてやって来たのだ。

「やっぱりモフモフじゃ!」

 ブナタロウの毛をかき回す。

「姉上。いったい何事です?」

「よーし、よしよし。良い子じゃなぁ、おまえは」

「姉上。説明して頂けますか」

「この尻尾は絶品じゃのう!」

「姉上!」


「天羽々斬に対抗できる神剣を借りることができた」

 錦糸に彩られた仰々しい袋の中に桐の箱があった。その中から一振りの剣をとり出す。そして青い猫型ロボット風に言った。

「あめのおはばりー!」

 それは天羽々斬にそっくりな剣だった。束のレリーフのデザインがちょっと違うぐらい。サヨリさんが目を見開く。

天之尾羽張(あめのおはばり)。こんなものがまだ残っていたとは!」

「神宮の宝物庫から持ってきた」

「……では『ある方に相談してみよう』と言った『ある方』とは……」

「そう。天子様だ」

 俺を除く全員が「えーっ!」と驚いた。

 茉菜が目を輝かせながら尋ねる。

「タキリヒメ様は天子様と直接お話しされたのですか?」

「もちろんじゃ。天子様とは一緒に相撲を見に行く間柄じゃからな。電話機で『貸して!』といったら『いいよ!』と快諾された」

 また俺を除く全員が「おお!」と驚いた。俺が「天子様って、だれ?」と聞くと「犬係は黙っておれ!」と叱られた。

「サヨリ、持ってみるか?」

「はい。是非」

 サヨリさんが天之尾羽張(あめのおはばり)を手に取る。眉間にしわを寄せた。

「物騒な気。禍々(まがまが)しさを感じる」

「神殺しの剣だからな。破邪の剣に対抗できるのはこの剣しかあるまい」

「その剣で戦うのですか?」と茉菜。

「そうではない。交渉するのだ。天羽々斬に匹敵する天之尾羽張(あめのおはばり)。相手もその存在を知れば、悠々と壇ノ浦見物もできまい? 茉菜も手にしてみよ」

 サヨリさんが剣を茉菜に渡す。茉菜も顔をしかめた。

「凄く嫌な感じがします。あまり持っていたくないです」

「ふむ。しごく真っ当な反応で少し安堵した。が、やはり茉菜にもこれを使えそうにもないか。となると……ま、その時はその時だな。と言うわけで出陣じゃ!」

 このまま壇ノ浦へ飛び、電子巡洋艦に乗船するという。

「僕も行きたぁーい! 電子巡洋艦に乗りたぁーい」

 変な声を出したのは溝口。

「なんじゃ、この変なのは?」

 祭主様が珍獣を見るような目で溝口を見る。

「えっと、前にも紹介したと思うのですが、わたしのボーイフレンド、溝口くんです」

「ぼういふりんど? 近頃の若い者はモボだのモガだの、やたら横文字を使いたがるな。茉菜、おまえはタキツの血を引く女ぞ。もっとマシな男を選べ。そうだ、有栖川宮の嫡男(ちゃくなん)を紹介してやろう。おまえは宮家(みやけ)に嫁ぐに相応しい女だ」

「宮路! 僕を見捨てるのか!」

「結婚なんてまだ考えてないし!」

 モボ、モガってなに?


 みんなでゾロゾロと山を下りる。祭主様はブナタロウに(また)がり上機嫌である。御諸山神社境内近くにある狭い駐車場に、双発の馬鹿でかいヘリコプターが駐機していた。回転翼が駐車場受付の屋根に当たりそうなぐらい近い。相当な技術を持ったパイロットなのだろう。

「六六式可倒回転翼機ミサゴ。ヘリじゃなくてティルトローター機だよ」

 溝口が自慢気に解説するが、俺にとってはどっちでも同じ。

 それよりも。

 この市街地のど真ん中に軍用機が着陸するなんて、俺の世界では絶対あり得ない。たちまちマスコミが騒いで大問題になるところだ。ところがここでは警察官が出て野次馬を整理している程度の騒ぎで収まっている。むしろ親子連れが見物にきており、子どもがブナタロウに跨がった祭主様を見つけ喜んでいた。お年寄りに中には手を合わせている人もいた。

「さぁ、乗れ! 直ぐに出発じゃ!」

 祭主様がブナタロウに(また)がったまま、ティルトローター機後部のハッチから入って行く。その姿を見て叫んだのは、サヨリさんに同行すべく迷彩服に着替えたカスミさんだった。

「祭主様! そのケモノも連れて行くのですか!」

「当たり前じゃ。ククリがおる、おらんでは、茉菜の調子が全く違う。けしてわらわのワガママで連れて行くのではないぞ! おい、犬係! おまえも早く乗れ!」

 あ、俺も乗って良いんだ。せっかくだから便乗させて貰おう。ティルトローター機に向かおうとしたところ、俺の横でカスミさんが頭を抱えていた。

「大丈夫ですか?」

 カスミさんが俺の胸ぐらを(つか)んで言った。

「あの白いのを、わたしの半径1丈以内に近づけないようにしてください。そうしたらさっきのことは全て忘れてあげます」

 1丈ってきっと、3メートルのことなんだろう。

 機内は意外なほど広かった。電車みたいに向かい合わせに座席が並ぶ。数えてみたら22席もあった。3メートルは充分確保できそう。

「ティルトローター機は固定翼機の持つ速度と航続距離、ヘリコプターが持つVTOL性能を同時に備えた機体だ。だから壇ノ浦まで無着陸で飛ぶことができるんだ!」

 溝口が自慢気に解説するが、俺にとってはどっちでも同じ。

 乗員は祭主様と御付きの二人、サヨリさん、茉菜、カスミさん、溝口(超喜んでいた)、俺、ブナタロウ。そしてトマト兵長さん。トマト兵長さんは戦闘服から制服に着替えていた。肩についている階級章がカスミさんのものより星がひとつ多い。

「大尉だったのですね」とカスミさん。

「曹長には内密に」

 ティルトローター機は離陸した。機内は真横で喋る声が聞こえないほど五月蠅かった。座席は固く、乗り心地も最悪。軍用機ってこんなものだぜと溝口が自慢気に解説するが……デメリットを自慢してどうする!


 


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