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俺の妹と女友達が残念すぎる!  作者: 志賀一人
男子高校生でなろうの読み専をしているけれど、年下のクラスメイトで人気なろう作家の女の子が妹になるらしい。
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2.あまりにも、“如月家”の雰囲気は気まずい。

「あ、朝比奈って……お前、本当にあの(・・)朝比奈なのか?」


 一時的な思考停止状態から回復した俺は、開口一番そう問うた。質問した自分ですら見りゃ分かるだろとツッコミを入れたくなるところだが、それでもやはり信じられないのだ。

 ──まさか本当に『学校のアイドルが俺の妹になる』なんて。


 朝比奈が可愛いらしい容姿をしているかは言うまでもないが、更にはその性格の明るさも合間って、もはや『学校のアイドル』と言っても差し支えないほどの人気者だ。事実『琵校三大美少女』の一人だしな。(※『琵校三大美少女』とはその名の通り、県立琵琶湖高校において垢抜けた美貌を持つ三人の女子生徒の総称である)

 そんな神々しい存在が俺の家族になるなんて、あってはならないんじゃないだろうか。


 けれど彼女は、幸か不幸か本当にあの朝比奈らしく、


「うん。奏太くんの隣席の朝比奈だよっ」


 朝比奈はそう返答し、その後えへへっと笑った。まぁ、可愛くないこともないな、うん。


「ふっふっふー、こんなに可愛い娘が妹になるんだ。これで奏太も再婚に賛同してくれるだろ?」


 父さんが俺の背後で不気味な笑い声をあげながら問いかける。

 確かに一般人なら、喜んで受け入れるのかも知れない。だが、たとえ美少女が妹になろうと、その程度で俺の信条は揺るがない。


「んなわけねぇだろ。俺はその程度でなびくようなようなチョロ男じゃねーんだよ」

「何言ってんだよー。ほら、お前も内心、これからの生活にドキドキしてんだろ? あわよくば一緒にお風呂入れるかもとか思ってたりして。 男の子が皆変態さんな事くらい、父さんお見通しなんだぞ☆」

「──っ!こっちは真面目な話してんだ、そうやって茶化すんじゃねぇよ!」

「ちょ、いや、そんな怒らなくても……」

「…………とにかく反対は反対だ。それだけは何があっても変わらん」


 俺は低い声で捨て台詞を吐いて、困惑顔を浮かべる父さんたちを尻目に、リビングから出ていった。




 ★★★




 食卓は、俺と朝比奈と父さんと日向さんが取り囲んでいた。


 つまり、学校のアイドルと食事しているという事だ。


 美少女と夕食を共に出来る──それは、一般的な男子なら心が踊り過ぎて思わずDAISUKE☆を踊っちゃうくらい幸運な出来事なのだろう。

 何せ、わざわざ美少女に高級料理を奢って、夕食に付き合ってもらおうとする男もいるくらいだ。なお、最終的に交通費諸々まで奢らされるのがデフォルト。


 しかし、実際はそんなに楽しいものでもないらしい。少なくとも、今この状況下で心地好く食事できる者は存在しないだろう。



 ──こんな、気まずい状況下で。



 いかに気まずいかと言えば、


「……こ、このブロッコリー、なんか人の顔に似てるね。あははは……」


 と、あのコミュ力抜群の朝比奈ですら苦笑してしまうレベル。

 もっとも、この空気を作り出したのは大体俺の責任だがな。一人再婚反対者がいたら、さぞかし気まずいことだろう。


 当の責任者《俺》は先程から一言も喋らず、黙々と食事を続けていた。コミュ力が絶望的な俺が話題を振ったところで爆死するのは目に見えているし、何より喋る気になれない。

 最後のブロッコリーを口に入れた俺は、噛みきる前に立ち上がり、足をリビングの出口に向ける。


「ねぇ、どうしても再婚に反対なの?」


 しかし、深刻そうな声で日向さんに呼び止められたので、思わず立ち止まった。

 流石に無視は出来ない。


「ま、そうっすね。とはいえ、俺がとやかくいったところで無駄でしょうけど」


 皮肉めいた物言いで受け答えた俺に、日向さんは言いずらそうに問う。


「その、さっき壮介から聞いたんだけど、前のお母さんが、悪い人だったから私も信じられない、って本当?」

「まぁ、そうっすね」


 日向さんはあの後、遅れてやってきたらしい。何でも元の住居で荷物を整理するためだったとか何とか。それにしては、やけに持った来た荷物が少なかったが。

 ちなみに、かなりの美人さんである。血は抗えないらしい。……父さんよくこんな美人と再婚できたな。


「……それなら、大丈夫。私は、そんな人とは違う。絶対裏切らないわ。だから、信じて?」


 真剣な目だ。その瞳を見ていると、思わず信じてしまいたくなる、そんな魅惑的な目だった。本当に朝比奈と似ている──けれど、瞳の中に渦巻くものは、何か違う。


「……無理なものは無理なんすよ」


 信じてと言われて信じられるほど、俺は素直な人間じゃない。

 人はすぐ嘘を吐くから怖いのだ。不倫しますと高らかに宣言する浮気者はいない。

 むしろ、そうだったらどれほど救われることか。はなから全てを知っていれば、期待せずにすめば、同時に裏切られることもないのに。

 だからせめて、俺は自ら期待しない。信用もしない。裏切られる恐怖を知っているから、絶対に。


「なあ、信じてやってくれよ、奏太。この人は凄く優しい人なんだ。俺が保証するから」

「はっ、父さん、前の母さんのこともそう言ってたよな。実は優しいとかなんとか。でも実際は違っただろ。そんな見る目のない父さんの言葉を、俺が信用できると思うか?」

「そうかもしれないけど! でも今回は──」


「とにかく!! 」


 それは、声の主たる俺自身ですら一瞬誰の言葉か分からなかったほど、大きな叫び声だった。

 恐らく今の俺は、冷静さを欠いているに違いない。目まぐるしく動く状況に、理性だけでなく感情的にも拒否反応を起こしている、それは確かだ。けれど、だからと言って最終的な結論は変わらない。


「とにかく、反対は反対だ」


 俺は父さんの反論を押し殺した声でぶったぎり、今度こそリビングの出口へ向かう。


「ねぇ、奏太くん!お母さんを――お母さんを、信じてあげてよ……」


 ちょうど俺が扉を開けるときに言われた、朝比奈の理由付けもない悲痛な叫びが、一番俺の心を揺さぶった。




 ★★★




 朝比奈が家にやって来た翌朝。


 ゴトバサグチャボロドッテーン!!!!


 もの凄い音がしたせいで、早朝から俺は叩き起こされた。ふと頭上にあったデジタル時計を見てみると、まだ5時も回っていない。


 ったく何だよ、俺の心地好い睡眠を邪魔しやがって。折角今日からゴールデンウィークなのに……


 内心愚痴りながら起き上がり、辺りに散乱しているラノベやら漫画やらゴミやらを器用に避けて部屋から出る。


 何でこんなに部屋が散らかっているのかだが、早い話、俺が掃除嫌いだからだ。

 掃除なんて、大晦日くらいにしかやらねぇもんな…… その日だって、ゴミを全部捨てるくらいで、本棚の整理とかは途中でめんどくさくなってやめちゃうし。

 それは父さんも同じみたいで、家全体が半分ゴミ屋敷となっちゃってる。まぁ昨日は人が来るということで、流石に片付けられていたが。


 ところが、部屋の扉を開けてみると、廊下はいつもよりゴミ屋敷然としていた。


 段ボールとかよく分からないものとかが、床に転がっているのだ。いや、たった一日で何があった!? これは片付け云々の話じゃないだろ……


「あぁ、すまんすまん。起こしちまったか……」


 すると、ゴミの山から謎の男が這い上がってきた。ゾ、ゾンビ!!──な訳もなく、正体はただの父さんだ。だが、身体はゾンビと見紛うほどみすぼらしく、かつ疲れきっているようだった。


「いや、何やってんだよ」

「いや、なに…… 部屋の整理してたら、足を踏み外してしちまって――このザマさ」


 父さんはやれやれと手を降りながら、ため息をつく。ほんとドジだな、あんた。


 父さんの部屋の扉が開けっ放しだったので中を見てみると、成程綺麗さっぱり片付いていた。マジで何もない。

 もっとも、部屋自体が汚れているので綺麗になったとは言い難いが。


「えっ? 何で掃除嫌いの父さんがそんなことしてんの?……もしかして、何か悪いもんでも食べた……?」

「し、失礼な。いつもやろうとはしてるんだ!……してるんだが、いざやるとなるとめんどくさくなって、ベットに転がり込み、いつの間にか熟睡を……」


 最初は勢いのあるトーンだったが、段々と威勢がなくなり、最終的にはボソボソと自分の悪行を独白するに至ってしまった。

 ダメだ!この人やっぱダメ人間だ!……まぁ俺も人のこと全然言えないんだけどね。


「で、何で今日に限って掃除する気になったんだよ」

「いや、別に掃除してるわけじゃないんだ」

「じゃあ、一体何を……」


 そう問うた俺への返答は、至極突拍子もないものだった。


「ふっふっふー、聞いて驚くな。なんと引っ越しの準備をしているのだよ」

「はぁ!!??」


 相当ウザいドヤ顔作った父さんが、あまりにも信じ難い事を言い出すもんで、かなり大きな声を上げてしまった…… 完全に近所迷惑である、申し訳ない。


「何!? 俺達引っ越しすんの!?」


 急に知らされた重大な事実に、俺は焦りながら問い質す。


「いや、引っ越しすんのは俺と母さ──日向だけだ。だって──海外に転校(・・・・・)なんてお前も嫌だろ?」

「はぁ!!??」


 更なる衝撃の事実に、俺は本日二度目の大声をあげてしまった。すげぇ疲れる……


「えっ? 父さんと日向さん、海外に転勤すんの!? ってことはもしかして」

「あぁ、陽葵ちゃんのことよろしくな」

「おい、仮にも高校生の男女が二人暮らしとか、流石にダメだろ!?」

「陽葵ちゃんは了承してくれたから大丈夫だ」

「そういう問題じゃねぇって!」


 俺はふざけたことをぬかす父さんを問い詰める。


「準備できたわよー!」

「おう、すぐ行くぞー!」


 しかし、それも一階に通じる階段から顔を覗かせる日向さんによって遮られてしまった。


「じゃ、行ってくるな~」


 父さんはそう挨拶すると、キャリーバッグを転がせながら日向さんのもとへ向かう。

 そしてふらふらと手を降りながら一階に降りていく二人を、俺は呆然と見守ることしたできなかった。


 何せ、今起こっている状況を全く飲み込めていないのだ。だって、再婚した次の日に夫婦揃って海外出張とか──ありえんだろ。あまりにも常識はずれだ。


 後から起きてきた朝比奈が教えてくれたことだが、俺は30分近くも立ち尽くしていたらしい。ちなみに、朝比奈は寝坊して見送れなかったことを酷く後悔していた。いや、お前はなんでこの状況に疑問を抱いてねぇんだよ。

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