カンザキ秋のなんちゃらまつり☆
2017秋企画
「うれしたのし秋の恋」参加作品です。
えー。
どうもこんにちは。
こんばんは、かな。
神崎 ありす と申します。
突然ですが皆さまは、不思議の国のアリスというお話をご覧になった事はおありでしょうか。
わたくしはと言えば、小学生の頃、当時クラスメイトだった男子に同じ名前だとからかわれて以来、何だかトラウマのような、ていうかそんなの知んねーし、違うし、は? なに?! 的な天邪鬼を見事に発症してしまいました。
病はそのまま完治せず、それ以来、世界的な名作を手に取らぬまま、ここまできてしまっている次第です。
世界的な名作です。
ちゃんと物語を読んだことはなくても、折に触れ彼の名作の端々に様々な角度から触れることはある訳で。
まったくもってなにも知らないというのでもないんです、ええ。
私の知っていること、その①
あの有名なアニメ映画の、アリスのビジュアル。
水色のワンピースに、白いエプロン。膨らんだ袖と、スカートは、乙女心をくすぐりますね。
知っていること、その②
なんか白いウサギが出てくる。
不思議の国のナビゲーターですかね、そうなんでしょうね。
ではなぜ今、こんな話をしているのかと言いますと。
私はその水色のワンピースに白いエプロン姿だからですねぇ。
残念ながら髪の色は日本人のその色ですが、頭にリボンは付いてます。何色でしょう、ちょっと見えないので、わかりません。
袖はまるっとふくらんで、スカートもわさっと広がっています。中の……なんて言うんでしょう、コレ。白い……パニエ? もレースでかわいいですね。
少女の憧れです。
くるくるうふふと回ってみたいところですが、そんなヒマは無さそうです。
ええ、ウサギさんがね。
私の手を引っ張って走っているからなんですけど。
とは言えこのウサギさんはマジもんのウサギさんではなく。白いワンピースを着た金髪で青い目の天使のごときな小さな女の子さんでして。
その頭に白いウサギの耳が生えている。そんな見た目です。
さぁ、私はただ今そのアリスのような格好で、白いウサギさんに手を引かれ、結構な勢いで爆走していますが。
割と落ち着いて、冷静に状況を把握しております。
だって夢だもん。
ハロウィンか! ってくらい仮装してるし、めっちゃ走ってるのにぜんぜん息切れしてないし。
なんだかふわふわして地面を踏んでるような重力も感じない。
金髪天使の知り合いいないし。
なによりこの、ファンシー×ファンタジーな景色はもうこれ、夢でしかありえんでしょう。
なんすか、コレ。
虹の橋を渡って、白いお城へレッツ☆ゴーですか?!
ありえんですわぁ。
キツいっすわ……これ小2女子レベルの見る夢じゃね? 花も恥じらう17歳(公立高校2年生、地元の公立大学 工学部志望、将来は十万馬力の科学の子か、00ナンバーのサイボーグを作る、それかネコ型ロボット)の見る夢じゃないんですけど……。
「わぁ、ありすちゃん見て下さい」
金髪天使が、ぷくぷくの柔らかいちっちゃな手で遠くを指差している。
「ん? なにあれ……雨?……なんか色が変」
遠く見える森には薄紅色の雲がかかり、霧のような雨が降っていた。普通の雨水じゃないみたい。
なんか黒、茶色かな?
「コーラの雨ですよ!」
えーもう、小3男子じゃん。
蛇口から出てくる的な発想じゃん……ん?
あれ? コーラ?
コーラ……そういえば、何だっけ。
今日、コーラを、わたし。
「ああ……コーラ……」
夢に反映されてんのね、はいはい。
今日……もう昨日かな。
私はバイト中、カウンター越しにお客様の口から吹き出したコーラを、真正面から顔で受け止めた。
カッコ悪いわ、恥ずかしいわで、これもう、トラウマ確定のすべらない話認定だよね。
お客様は初めてファストフード店に来たとか、初めてコーラを飲んだとかで、私に本当に申し訳なさそうに謝っていたけど……そんな言い訳 通用すると思ったら大間違いだぞ、このイケメンめ!!
びっくりするぐらいカッコ良かったけど、口の中の、しかもコーラだからな! 糖分過多の炭酸飲料ぞ! ねっとねとだわ! アリが来るわアリが! つか最近の朝晩の冷え込み知ってるだろ! 木々も色付いて紅葉も見頃だわ! 風邪ひくわ!
……とも言えず。
心の中で叫び散らして、お客様には笑顔で穏やかに対応。
着替えれば大丈夫だと言ったのに、気の毒そうな目で見られて、すぐさま早退させられた。
今日の時給分をどうしてくれよう。
おかしいな……夢の中なのに、コーラが目にしみる……涙が……あれ? わたし。泣いてる?
「ありす!! よく来てくれたな!」
分かりやすく上等な服を身に纏った男の人が、砂糖菓子みたいなお城の前で腕を広げている。
金髪天使が美しく膝を折り頭を下げて礼をした。
……はっはーん。ここも反映されますか。
ファンシー×ファンタジーな世界で、飲み物の雨が降るけど、私も年相応の女子って認識で良いのかな。
にこにこと歓迎してくれているのはコーラの人だ……確かにカッコ良かったもんね、そうだよね。
分かりやすく王子様みたいなポジションな所が、単純な私らしい。
コーラの人じゃアレなんで、もうコーラの君と呼ぼう。
私の手は金髪天使からコーラの君にバトンタッチされる。もう一度笑顔でよく来てくれたとお礼を言われた。
いえ、来たのはあなたの方です、ようこそ我が夢に。
ちらっと見上げると、目が合ってほほ笑みを返される。うーん……男前。
白と、薄い水色、薄いピンク色の城内に案内されて、大きな部屋に通される。
生クリームのケーキの上にいる気分……どこもかしこもまったり甘そう。
不用意にふり向いたら、体重がリンゴ三個分のあの子猫ちゃんとか、赤い頭巾のうさぎちゃんとうっかり目が合いそうだ。
座らされたソファもふわふわで、うまくバランスを取らないと転んでしまいそうなほど柔らかい。
コーラの君がすぐ横に座るので、体がそっちに傾いて倒れる。
肩を掴んで受け止めてくれた。
あ、どうもすいません。
コーラの君はグラつきもせず私を立て直してくれた。
さすがイケメンは体幹もしっかりとしていらっしゃるようだ。
「ありがとうございます」
コーラの君はふっと笑うと少し頭を傾けた。
「……君は……ちょっとした事にも礼を言うのだな」
「そうですか?」
私はその倍、頭を傾ける。
「共に仕事をしていた者にも、すぐに礼を」
あー……や、あれ決まりなんで。マニュアルですから。サンキュー言うのが恥ずかしいので、ありがとう言ってるだけですから!
「あのような失礼をしてしまった後の私にまで……」
いやそりゃ、お客様だからです!!
え……何だろうこの人ちょっとズレてる。
ん? 違うか、これは私の夢だから、私のイメージしたこの人の印象がおかしいのか……ファストフードもコーラも初めてって言われたからねぇ、そりゃズレもしますわな。
「いきなり君に会いに行き、突然押しかけもしたのに、こうして私に笑顔を向けてくれる……」
あ、これ0円ですので……ん? 会いに? 押しかけた? 何言ってんのコーラの君。
ていうか、どういうこと? 私。
夢の中の自分に問いかけたところで、理由が分かるなら疑問にも思わないだろうって……ダメだ。
混乱が増すばかりなので、ちゃんと聞いてみよう。
これぞ自問自答。
「会いに来たって、どういうことですか?」
「そうだな……最初はただの気まぐれだと思っていたが……今ではそうでもないのかと感じている」
うん、全く要領を得ませんな。
思いっきりそんな表情をしていたのか、コーラの君は私の顔を見て、またふっと笑い声をもらした。
どうしたことだ。
ちょっと笑っただけなのに、カッコ良いとはなにごとだ。てか、違う。答えになってないんだってば。
「私に会う必要があったんですか?」
「いや……元々 決まっていた事だ、私も必要だとは思っていなかった」
回りくどい! なにこれメンドクサ!!
私の両手に手を重ねると、そっと力を入れた。
コーラの君を見ると、にこりと微笑んでいる。
うが、とか何とか私の口から漏れたような気がする。
顔が熱い、心臓バクバク。
ザッて下がってバッて逃げ出したい。
イケメンの破壊力たるや、何なら死の危険すら感じている。
じりじり距離を取ろうとしている私のほっぺたをつるりと撫でると、かわいいなとコーラの君は言った。
ナニソレ、怖い!
聞か……聞こえなかった事にしよう。
思えばこの人、最初からスキンシップが多いし、距離感がおかしすぎる……有り得ない。
さすが、夢。
落ち着こう、そうこれは夢。
こっそり深呼吸しよう……一回じゃアレだから三回しとこう。
「えっと……いまいち、おっしゃっている事が分からないんですが……?」
「すぐに明確に言ってしまったら、そこで話が終わるじゃないか」
「あ、ワザとだったんですね」
「そうだな……」
「なにもったいぶってるんですか?」
口に手の甲を置くとコーラの君はくくくと笑う。
まぁ、お上品ですこと。
「こんなに色々なあなたを見られるのかと思うと、もったいぶりたくもなる」
「はぁ……そうなんですねぇ」
「怒らせたかな?」
「いえ、イラっとしただけです、ほんの少し」
「素直な所も良いな」
「はぁ、どうもありがとうございます」
「また礼を言った」
いえこれは皮肉ですけどね、と0円のアレを発動する。もち、お客様用のヤツだ。
楽しそうに私を眺めた後、コーラの君は姿勢を正して話し始めた。
「国王は王妃をよその国から娶るのが決まりなんだ」
うん? いきなりおとぎ話?
「違う世界の、違う環境で育った女性が王妃となり、我が国に繁栄をもたらしてくれる……そういう、古い言い伝えを我が国は守ってきた」
ほう、その違う環境で育った女性というのが私って事ね。なるほど、実にご都合的な夢ですな!
ん? てか、王とか言いましたか、このイケメン。
コーラの王子どころではない、王様!
コーラの主ですな!! 呼び名を改めよう。
「昔から決められた事だ、変えられない事に私は……なんと言うか、意地を張っていた」
「意地?」
「投げやりと言った方が近いのか」
ああ、まぁ、国の為とはいえ、どんな人かも分からないのに結婚しろって決められてたらねぇ。
投げやりにもなっちゃうか。
「国の繁栄の為だから、己の幸せは、もうどうでもいいとまで考えた」
「それがどうして私と会う事に?」
「余程、投げやりに見えたんだろう。そこのふたりが、なら会ってみればと」
そこ、と目線で示された先には、私を引っ張って走ってきた金髪天使と、その隣には天使と同じ位の年頃の、同じような金髪の男の子天使がいる。こっちはネコ耳付き。
あれだね。
トゥインクルでリトルスターな双子のキャラがいたよね、ピンクと水色の髪の。
うーん私。今までキャラクターものとか興味ないと思ってたけど、あの会社にこんなにも造詣が深かったのね、無意識って怖い。
ていうか、いつから!
いつの間にそこにいた?!
「どうもこちらと繋がるのに力の使い方が難しくて、この様な姿で失礼します」
男の子天使が優雅に礼をした。
いえその愛らしい姿はちっとも失礼ではありませんので。ぶるんぶるんと首を振る。
「いえいえ、とんでもない! ご丁寧にありがとうございます」
隣でコーラの君……じゃない、主がくすくすと笑っている。
何故笑うのか。
「……会いに行ってみて、良かった」
「はぁ……そうですか?」
「また行っても?」
「ええ……もう、コーラは吹き出さない方向でお願いします」
くくくと笑うと私の前髪を丁寧に撫でた。
はい? 髪の毛、はねてました?
「あなたはとてもかわいい人だな、ありす」
「ああ……それは……どうもありがとうございます」
なんて夢だ。
私にコーラを吹きかけたお客様をゲストに迎え、ファンシー×ファンタジーな壮大かつ、乙女もかくの如しな恥ずかしい夢を見るとは。
17歳にもなって。
起きてから羞恥で悶えたり、こんなバカ丸出しの夢を見るアホな自分に悶えたり、朝から疲労感がハンパない。
寝た気がしない。
学校の後のバイトがキツいんだろうな。
加えてバイト仲間に生暖かい目で見られるのも、精神的にキツい。
コーラの主がうらやましい。
恥ずかしい事があっても、店に来なければいいし、食べたくなったら別の店舗に行けばいいもんね。
まあ、そうしてもらった方が、こっちとしてもありがたい。
この先お互いの顔を合わすことも無く過ごせば、いつかすべらない話として披露もできるでしょうよ。
これ以上の心の負荷はいらないですよ。
「ありす、待っていたよ」
バイトが終わって店を出ると、件の男前がにこりと笑いながら歩み寄ってきた。
出待ち?! 出待ちっすか!!
いま、名前呼んだ?! なんで?
まてまて落ち着け、神崎 ありす……制服に名札が付いてるんだから、名前を知っててもおかしくないんだ。
しかし、よくもまぁ、顔を出せたものだ……あれ、今この人、私のこと敬称略で呼んだよね、馴れ馴れしい。
「続けて行かれると疲れると嫌味を言われたが、ガマン出来なくてね」
「は? なんの話でしょうか?」
「また会いに行くと、約束したのを覚えてないのか?」
「……し……ましたっけ?」
「ああ、あなたと私の夢の中で」
うん、よし。
いいよ、もう充分に驚いた。
落ち着け、ありすよ。
詳しく話を聞こうじゃないか。
童話のようなあの不思議の国の、舞台設定はどちらの夢がベースになっているか、先ずはそこから。