日夢インフラ事情 その2
ムー帝国帝都ヒラニプラ
皇帝宮殿の一室。無駄な調度品はない。だが、整った気品在る室内。
「ようこそ。」
彫りの深い、白めの肌を持つ大柄な男性が、晶仁夫妻に声を掛ける。
ムー帝国皇帝、ラ・ムーである。
ムーの皇帝は即位すると、ラ・ムーとしか名乗らない。
晶仁夫妻からラ・ムー夫妻にそれぞれ大小の箱が手渡された。きれいに和紙でくるまれた箱を破けないように包装を解くと中から、あのスマートホンともう一つ中画面規模携帯情報端末の入った箱だった。
箱を開け晶仁の説明に沿って電源を入れると、
「ムー語だ。ムー文字だ。」
「お気に召しましたか?」
「素晴らしい。贈り物だ。しかし、我が国は、我々は、それに見合う対価を持っていない。申し訳ない。」
心から無念そうなラ・ムー夫妻。
「いえ、我々は対価を欲してこの贈り物を選んだわけではありません。まあ、あえて対価を欲するとすれば、既に頂いている国交の強化でしょうか。」
「なるほど、では、どうすれば強化ができるか研究させて頂く。」
「よい街ですね。」
「あなたにそう言ってもらえると大変にありがたい。
サーナに聞いた話では、貴国の帝都は途方もない摩天楼が雲を突く程に林立している場所がありながら、悠久の時を感じさせる雅なる雰囲気の広がる街並みが広がる場所もあるという。
そして、治安は、このヒラニプラが、まるで田舎に思えるほど安定していると。
いずれ、行ってみたいと思う。」
それを聞いた晶仁は子供のようにいたずら心満載の笑顔で、
「それでは、私たちの帰邦に合わせて、私たちが乗ってきた機に便乗して訪日というのはいかがでしょう。」
これを聞いたラ・ムーは困惑しながらも期待に充ちた目で侍従を見る。
「皇太子殿下も同道を許されるのであれば。」
「もちろんです。おや。失礼。」
晶仁のスマートホンに着信が入る。
「もしもし。」
『もしもしじゃありません。明仁さん。ムー皇帝陛下との会談が始まったら私たちもこうして参加する手はずではありませんでしたか?』
「いやはや。ちょうど、掛けるタイミングを探していたのです。」
何も無い空間に椅子に座る形の二人の女性が立体映像で投影される。
「紹介いたします。私から見て向かって右の気品あふれる女性が。」
『お初にお目にかかります。ラ・ムー陛下。大英帝国皇帝アレクサンドラでございます。』
残る方が、アナスタシア帝となるのだが、見える3人は共に在位20年を超える名君とされる者ばかり。
その後、会談の続きは3日後、日本の京の都で行われることが決まった。
ヒラニプラを中心に放射状に走るムーの鉄道は全線単線の標準軌非電化であり、そのままでは日本とはすぐに直通できない。
というのもムーに一番近い布哇諸島オアフ島にある鉄道は全線複線電化済み。直通の可能性が一番高いとされる日本本土も内陸部の列島横断路線にわずかに非電化路線が残るのみで後は本線と名のつく路線と幹線は全線複々線の電化済み。
航空路線も日本の政府専用機が短距離滑走路対応改造されていたから何とかなったが、基本魔導レシプロエンジン用の滑走路しかなくこの帝都にあるヒラニプラ国際空港でさえ2000mがやっとだった。
「つまり、向こう5年で我が国の北西から東南東に複々線の電化路線を延ばし、並行する路線を置き換えると。」
「それに並行してオアフ島内の路線を複々線化し一気に接続する予定です。」
また平行してヒラニプラ国際空港を拡張し、4000m級滑走路3本備えた大型ジェット機対応の空港に生まれ変わらせる計画であった。
その裏ですっかり忘れ去られた日夢に喧嘩売った国であるが、日本の砲撃によって破壊された屋敷から首謀者3人が恐怖に固まって捕縛されたあの一件を持って、すっかりどうでも良い国に成り下がり、戦争もいつの間にか終結挿していた。




