東方世界 戦火終結
扶桑本土丘湾島西50kmの海上
大日本及びムー大陸連合帝国海軍東方探査特別艦隊が、本来の持ち場に帰るべく航行していた。
「雷跡視認!」「ソナーに感あり。感五。右舷前方距離四万。数五」
にわかに艦隊が慌ただしくなる。
「まあ、あの軌道じゃどの艦にも当たらねーだろ。」
「王国艦より対雷結界を展開したとの連絡」
艦隊の前方をあさっての方向に進んでいく魚雷。
「ろくな雷撃主がいねーのか相手は。」
そう艦隊司令官はぼやく。
「陛下をお乗せしているから急速制御はできんからどうしようと思っていたが。」
「あの雷跡から判断して、ろくな調定がされていなかったようですね。」
ここでは本来聞こえるはずの無い声。
「与えられた部屋にずっと居ても息が詰まりますから、従兵さんにお願いして連れてきていただきました。」
日本を統す最高権力者にして、世界最高の名君と称される、晶仁帝。国民は彼を親しみと畏敬の念を込めて好々爺と呼ぶ。
「どうやら、同じ大和民族としてなめてかかってきたようですね。すでにつぶやいたので、国民には周知してあります。よろしいですね裕子様。」
「「はぁ?!」」
晶仁帝の言葉に艦橋員が全員声をそろえて疑問をあげつつ晶仁帝の後ろを見る。まあ、操舵手はさすがと言うべきか前を見つめているが。
「あの方にここに引っ張ってこられたとき、ちょうど米英仏露伊加独の旧世界におけるG8の元首とAR飲み会してまして、こちらの話が出ていたんです。もし、我が国がこちらに加勢することがあればG8も全力加勢すると。
更に内閣、衆参両院からもこちらに来た後の通信で、私の判断で助力をすることに賛成をいただきました。国民の皆様からも。
その上で、私は今ここでこう宣言します。『我が、大日本及びムー大陸連合帝国は、新たに出会えた友邦にして、ともに共通の文化を共有できる友への助力として、央領慎帝国に対して、宣戦の布告無き奇襲に等しい本雷撃を強く非難するとともに、こちらから正々堂々と宣戦の布告を通達し、扶桑への助力を始める。』
そして、
『その助力の引き金を引く物として、反撃を行うよう我が座乗する艦隊に下命する物である。』
とね。
では改めて、帝国海軍東方探査特別艦隊の任務を大元帥権限で、東方世界探査から、東方世界で出会った友邦、扶桑の支援に切り替えます。あのへたくそな雷撃を仕掛けてきた艦隊に対しては、お灸を据えてあげなさい。私たちはここで見させていただきます。」
「「了解」」
「やはり、第一、第二次間の戦間期レベルでは、駆逐艦の主砲にすら耐えられませんね。」
「そりゃあ、うちの駆逐艦が持ってるのは分間15発発射可能な単装速射砲だ。口径こそ127mmだが、龍脈砲を用いているから38cm対応防御を施していても、1分撃たれたら、確実にバイタルパートまでぶち抜くぞ。」
「戦艦に至っては、3連装の大口径龍脈速射砲。秒間4発ながら、その威力は弾道ミサイルをも越えるとされるときたら。相手がかわいそうですね。」
戦闘も終わり和やかな雰囲気の一行。
「そういえば。陛下。裕子様はいずこまでお送りすれば?」
「南洋視察と慰労という意味も含め再びトレーラー諸島までと言うことです。」
扶桑絶対勢力圏下を、東方世界最高の力を持つコロンバス合衆国を遙かに超える力を持つ日本の艦隊がゆく。
10数時間後、トレーラー諸島が見えてくる。
「え。旗艦のみ環礁入りを認める?!残りの船は?」
トレーラー泊地司令部から届いた内容に旗艦艦橋にいた要員は驚く。
「落ち着け。続きがある。旗艦は、裕子陛下をトレーラーまでお届けした後、土産を積むために環礁入りを行う。残りの船は、環礁を迂回し、環礁南東に待機するかの国の船に収容されると言うことだ。」
艦隊と別れトレーラー環礁をいく旗艦。
「長官、我々を収容することになっているかの国の船ってあれですかね。」
参謀長が指す方向には巨大な人工物が横たわっていた。
そして。
「なんで本土にいるはずの長門が。」
「貴艦隊と交代で扶桑の支援を行うべく、帝国連合艦隊ムー分団が。そして、戦争の早期終結のだめに本土分団に属する第一第二航空機動戦隊と、陛下直属の扱いである、第四航空機動戦隊も派遣される。その先遣として、伊勢が同行したわけだが。何か質問はあるか?」
「有りません。」
「それでは、広間で無事陛下をお送りしてくれヒロにはすでに…。」
日本海軍連合艦隊
それはあのムーを手こずらせた純粋機械文明国家との戦いにすらあっさり勝つほどに。そして前の世界では他のG8各国が、決して日本に手を出してはならないと言っていた根拠の一つ。
それほどの戦力を東方世界における戦争に介入するためだけに派遣していた。
「陸軍揚陸師団と、海軍海兵師団も来ている。君たち、司令直掩艦隊の再出撃も決まっている。あの船なら、ヒロまで2日で付くらしい。」
[本気出したら数時間ですよ。減速も考えるとそれが限度ですね。]
再びの出撃が決まっていると告げられ呆けた様子の艦隊司令。
[さあ、お土産も積み終わりましたし。貴艦を乗せれば、我々は出航します。]
旗艦が人工物に入って数分後。
『艦橋より全艦へ。ただ今より、航宙第2戦速でハワイ島沖合へ向かう。その後、本艦は軌道上に待機する艦隊と合流する。』
人工物最高部
「エンジン主機第1より第8区からの出力軸遮断。
仮想水面展開。航海喫水より航宙喫水へ移行、離水します。」
「総務局整備部、収容艦の整備に着手。」
「航空原速から第4戦速へ。その240秒後に航宙最微速へ移行の上で、第1戦速へ。運航局より全艦へ、ただ今より300秒間の連続加速に入ります。加速時の時空歪曲による体調不良に十分注意をしてください。」
「いよいよ。ですね。」
なぜかわくわくしている、晶仁帝。
[一対戦しますか?]
「良いですね。」
連続加速に入った後は自動操縦になるため、操艦要員を含め、艦橋要員はリラックスムード。
本来は艦内外の情報が様々なデータとして映し出される高さ100mにもなる巨大スクリーンに、艦橋内の至る所に浮かぶ情報球体に、あの小さき者達の対戦が映し出された。
「じゃあ、晶仁陛下が10分過ぎまで6体残すに40万。」
「俺は、陛下が5分以内に6タテするに35万。」
こういう対戦を見守り結果を予想しての賭け事が好きな国民性のためかおのおのの予想結果と掛け金が飛び交う。
「ほならうちはハルが1体当たり3分で、全てのPP使い果たすけど、2体残して勝利するに30万口座。」
神子さんの掛け金の多さにまたかという空気が流れる。
「仕方なかろ。口座作成制限まで後40なんだから。」
それなら仕方ないという空気に変わる。
対戦結果は、
「えーっと?この結果だと晶仁さんが5分過ぎまで6体。10分過ぎまで3体残して、ハル側を4体まで削るも15分頃に残り一体を赤ゲージまで追い詰めるが、惜敗と予測した、下部艦橋管制階第―番席の―基軍一曹が総取りか。ありがとう。賭けの勝者は掛け金総取り+主師から、それぞれいくつ?…えー、それぞれ60万口座分。計420万口座分金額が上乗せになります。」
因みに1口座分は1000×10の40サフィルである。
主師と呼ばれる者達は、銀行側からこの口座を5千億まで作成可能とされているが、貯めるだけだ貯めて引き出されないので、すぐに埋まってしまうのだ。だから定期的にこういう形で使わない貯まった金を他者に押しつける。
そんな事をしていたら、
『統括より全艦に達します。まもなく減速降下点となります。慣性制御による低減は行われますが多少の制動慣性が働きますので、対急制動用意をお願いします。
改めて、統括より全艦へ、現時点をもって、航宙第2戦速より、海上第4戦速へ制動を行います。』
アナウンスとともに、前につんのめるような感覚と、あの自由落下時の浮遊感が同時にやってくる。
『現在の艦首座標、ハワイ島沖南島200km。日本の皆様長らくの高速移動お疲れ様でした。』
アナウンスを聞きながら、艦隊が本来の所属地、ヒロ警備府に向かう。ふと振り返って、それを見た者は腰を抜かし、艦隊の行き足が一度止まったほどだった。
巨艦の甲板を始め、艦隊から見える側の足場という足場に立つ人という人。
『貴艦隊と貴国の進みゆく未来が前途洋々たる事を心より祈る。』
そんな発光信号まで。まあ、見える範囲が全て一直線な上に、そこに人人人人という状態は結構怖い。
なんせ、
[あ、さすがに100万人単位で舷礼させたらまずかったでしょうか?]
「まあ、俺たちは見慣れてるけど、あっちは多くて1500~2000人程度だろうから、驚くだろう。」
「ありがとう。扶桑と貴国は友邦で、今回の戦争では扶桑に手を貸してくれると聞いている。我が国も央領の愚かしいファシズムには手を焼いていたからそれと真っ向から対抗している扶桑を陰に日向に応援している。ともに扶桑を支えていこうでは無いか。」
「我が国はある国の作った組織の方針に基づき、同じ民族である扶桑の繁栄を担保するために活動しています。そして、その扶桑の繁栄には貴国の関与、支援がどうしても必要なのです。貴国の製品はトレーラー諸島で我が国が高値で買いましょう。その代わり。」
「心得た。」
数週間の滞在で、如何に彼の国が、日本という国を大切にしているかを認識し、同じ大和民族の国である扶桑との仲はいかなる事があろうと切ってはならないと認識したランドベル大統領。
日本を発つときに日本の皇帝とこのように言葉を交わしたのち、扶桑から租借しているケソン諸島に降り立ちコロンバス海軍の船を待っている間、市街をぶらついて目に付いた新聞を手に取り、一面の記事を読むと一言
「あーあ。やっちゃった。おれしーらない。」
一面には『央領、丘湾島及び対島に卑劣なる侵略』の見出しと、上陸した央領軍による虐殺、婦女暴行、強盗などの被害が記されていた。
「央領は昔から、情報をおろそかにしているからな。扶桑の勤勉さとはまるで真逆だ。良いか。扶桑に最大限の支援をしろ。我々は東西両方向に支援を行うが、特に扶桑は、背後に未開拓だが央領よりも確実かつ我が国よりも一人一人が莫大な財を持つ非常に有望な市場がある。」
数日後、扶桑から届いた新聞で、央領が扶桑本土を射程距離におく航空基地と、全海軍が攻撃時の7割程度まで戦力を回復させるのに30年かかるほどまでに壊滅させられた。更に日本海軍により首都太京を何回も、艦砲射撃されているというニュースをみて、ランドベル大統領は
「まあ、そうなるよなあ。」
っと、せっかく歩けるようになったのに足の力が入らなくなって部屋にへたり込む羽目になった。
央領は首都を太京から、内陸部の太安に移し扶桑の支援勢力を非難しようとしたが、見覚えない旗と判然としない相手の国名にいらだちが募りつつあった。
コロンバスが央領と扶桑の戦争に手を貸すことはあり得なかった。そもそもが、コロンバスと扶桑はともに、アンゲラ帝国率いる連合国陣営。対する央領はギャルマン共和国と同盟を結ぶ枢軸陣営である。
東方世界は全ての国が枢軸か連合に偏っていた。そのため、講話が結べないままに泥沼の戦いとなって30年が経過していた。
継戦能力は皆無となっていた、エウロパ大陸各国は、いい加減講話を行い、国内の復興に力を入れたかった。が、中立国が無いため、講話地選定が難しい。
そんななか、連合国扶桑を訪れた、中央世界の列強第一位日本。その親善艦隊に相乗りしてきた世界魔導通信が、扶桑とギャルマンに拠点を築き報道を開始すると、両陣営は列強第一位の日本に仲介を依頼した。
だが日本は扶桑に協力していることを理由に、列強第5位のアーデルン帝制連邦に仲介依頼を回す。
「ようやく、終わったとみて良いのだな。」
「エウロパの戦いは終わったが、扶桑は未だ戦っている。この戦いが終われば、我々は莫大な規模の市場を手に入れられるのだから扶桑には肩入れするさ。」
「我々も噛ませてもらいたいね。扶桑とは未だ同盟を結んでいる間柄だから助力は当たり前だよ。」
コロンバスのランドベル大統領とアンゲラ帝国のチャーロン首相がコロンバスの大統領官邸で会談している。
連合対数軸の戦いは連合の辛勝で幕を閉じたが、央領対扶桑の戦いは未だ続いていた。
「まあ、あの国が手を貸した以上、早ければ明日にでも央領は皇帝が戦闘停止を下命するだろう。」
その頃、扶桑帝都宮城南西空域。
「……(汗)」
「この世界をつぶす気ですか?!」
彼の国の船が一斉に砲門展開を行ったことに対して晶仁帝が突っ込む。
[つぶしはしませんよ。ただ、慎をはげ頭にしてみたら面白いかなあって言うね。
全艦砲身形成後、出力2%で実体質量弾を射出。
慎が無条件降伏しない限り、各地に実態質量弾を降らせろ。
それでも抵抗の意思を見せるなら、その意思に敬意を表して、全艦龍脈砲出力3%で慎の国家中枢を焼き払え。]
晶仁帝の疲労感あふれるつぶやきを引用した、世界魔導通信の記事により、東方世界は一日遅れで慎の末期宣告を知った。