やっと扶桑の勢力圏
扶桑皇国トレーラー諸島
海洋国家扶桑の南の要だ。
あれから2月。私は扶桑の領内に戻ってくることができた。
さすがに300隻もの大艦隊がトレーラー環礁に入りきらなかった。なぜならば、
「倉田中尉、無事だったのか。舵が行かれて、上昇したときは生存を絶望視して、戦死除籍も検討されたのだ。それを司令長官殿が頑なに拒まれてな。」
私の所属している、皇国第一航空戦隊の総飛行隊長中島中佐が声をかけてきた。
「あなたが、倉田中尉を見つけてくれたのだね。良ければ、名前と階級を聞かせてくれないか?」
「は。本職は大日本及びムー大陸連合帝国海軍東方探査特別艦隊司令直隷艦隊所属防空駆逐艦秋風航海科所属秋山賀央一等海曹であります。」
「なるほど。良ければ見つけたときの状況を聞かせてくれるかい?」
私も知りたい話だ。
「あ、えっと、話せるほどのことでもないです。
その日非番で、天気も良かったので、知らない海の魚を釣ってみたいと思いまして、釣り糸を垂れていたら、向こうから、なにやら近づいてきたではありませんか。最初はなんだ流木かと思っていたのですが。流木にしては大きいし、それに歴史の教科書や資料館で見たことのある形をしていたもので。よく目をこらしたらコックピットに倉田中尉がお座りになっていたというだけです。まあ、あとは慌てて、周りの乗員に声をかけて、倉田中尉をお助けし、お乗りだった飛行機は、最寄りの空母峰鶴に引き上げてもらったという次第です。」
「そのあとすぐに先行艦に運ばれてOHされたけどな。何せいくら滑水仕様だと行っても、海水につかって、エンジンも兵装もだめになってたからな。まあ、何をとち狂ったか、エンジンを載せ替えて、翼を後退翼にした上に、兵装は30mm機関砲と、12mm速射砲。翼下はミサイルまで装備可能だからなあ。それと誰だよあんなちっこいのにFBLにしたやつ。」
内藤准将がまたため息をついた。
「しかし、ここはトラックに似ているな。そういえば我々は扶桑とその近隣諸国について、ほとんど何も知らずにここに来てしまっている。ゆゆしき事態だ。少し失礼する。」
そう言って内藤准将が中座した直後、
「私も少し失礼する。」
そう言って中島中佐も中座した。
「へ?」
「だからな、倉田少佐おまえは今から俺の副官として、それから、向こうと唯一一ヶ月以上居たものとして、まあある意味での通訳をすることになる。」
通訳と言われても、相手は言葉も通じる、敵対意思がない。私など居なくても良いではないか。あれからほぼ毎日勘を戻すためという理由で噴進機に乗せられ、レシプロ機のあの独特の振動、低音、爆音、フォルム、のんびり感に私は餓えている。特に艦載機の。
「終わったら、思いっきり艦載機乗って良いぞ。そうそう、峰鶴と言ったか。あの空母での発着艦が許可された。三月以上レシプロ乗ってないだろ。勘取り戻すためにも軽く手慣らしをする方が良いと思うぞ。」
「やらせていただきます。」
ん?
「現金なやつだ。」
トレーラー泊地の司令部に出頭した私に告げられたのは、中島中佐の副官として、泊地司令の鵜飼少将、扶桑連合艦隊司令長官藤堂中将とともに日本との会談に臨めという命令だった。