さらにおかみのひとがでてきちゃったよ
奉職以来これほどにぐっすりと眠ったのはいつ以来だろうか。それほど私は寝ていた。
初めて空母に乗ったときの感動。初めての戦闘と、敵機撃墜。そして被弾と、帰還後の同僚との悲しい再会と別れ。それを夢で追体験していた。
「よく眠れたかい?」
内藤准将が、私の顔をのぞき込み問いかけていた。
彼女の手にある板状の物体に私は興味を示す。そういえば、秋風の船医村田少佐も同じようなものを持っていた。
「これか?これは軍用タブレット。大画面型携帯情報端末っていうことになるかな。さて、君の腹ごしらえのあとは、新たな旗艦に案内しよう。それにしても聞いていないぞ。あの艦が合流するなんて。」
最後につぶやかれた言葉が引っかかる。が、私の腹の虫はこんな時でも空気を読まずによく吠える。
「……。」
「だよなあ。言葉なくすよなあ。」
内藤准将のため息に我に返る。
「あ、あの美しい船はいったい。」
「元々は、我が国の船だったんだけど、友好国の王族がものすごい気に入っちゃって、それ以来その王家専用のお召し艦になった船。ただ能力に関して言えば、我が国最高。そんな船。」
なんとあの美しさの中に計り知れない戦闘能力を秘めているという。
「艦名は?」
「伊勢級超弩級航空戦艦一番艦伊勢。我が国に4隻しか居ない我が国のまさに戦略兵器だ。それをまさかこんなところにネームシップを送り込むか普通。」
ぼやく准将に対して、件の船から言葉が返ってきた。
「お国の船じゃなくて、ですねえ。」
「あの好々爺異国まで巻き込みやがった。」
良くも悪くも、国民から親しまれアイされる晶仁帝の相性は「好々爺」である。
「お国の伊勢は艦隊後方で待機してもらっています。お初にお目にかかります。―王国基軍近衛軍連合艦隊第二師団艦隊第一外征艦隊 大日本及びムー大陸連合帝国海軍東方探査特別艦隊支援艦隊旗艦伊勢副長飯塚明美大佐と申しますー。お二人をこちらに招待したくお声かけさせていただきました。こちらより迎えのヘリをよこしたく思いますので、甲板への着陸許可をいただけないでしょうか。」
「飯塚大佐と言ったか。ご招待誠にありがたく謹んで承ると旗艦艦長に伝えられたい。」
いつの間に、皇国の女性士官服を仕立てたのかと驚けば、内藤准将が、尉官時に着ていた服らしい。
「改めて、高速艦隊駆逐戦艦伊勢へようこそ。あ、ヘリ酔い起こしましたか?」
垂直に飛び上がり翼もないのに前へ進む不思議な感覚に初めて空母に乗ったときの船酔いに似た感覚に陥った私は、少し船縁に座らせてもらった。
「ようこそ伊勢へ。艦長を拝命しております、―王国少将須藤朱美です。」
また朱美さんだ。
「おやおや。かわいいお嬢さんがたくさんだね。」
軍人然とした初老の男性が現れた。
「こんなところで立ち話も何だ。見晴らしの良いところに行こう。」
彼の提案で、移動することになったのだが、飯塚副長も、須藤艦長も緊張したご様子。
艦橋に案内され私と内藤准将には椅子が用意された。
「さて、ここなら信頼できるものしか居ない。貴国扶桑皇国へも艦隊最大戦速でならあと2週間もあれば付く。必要とあらば、力を貸そう。そのときには交渉の窓口となっていただけるかな。」
「提督、自己紹介もなしにそれはないかと。」
提督と呼ばれた男性が固まり破顔する。
「そうだったそうだった。いや、これほどの奇麗所が集まっているからね。舞い上がってしまったよ。失礼失礼。申し遅れました。―王国基軍近衛軍連合艦隊第二師団艦隊第一多次元水上外征艦隊 大日本及びムー大陸連合帝国海軍東方探査特別艦隊支援艦隊司令上将山本尊です。末永いご縁を。」
『提督、第二艦隊司令部より指名で映像通信です。』
放送に合わせて艦橋の窓の上に設えた、設備に人物が映し出される。
『到着しましたか。』
「は。」
『ただ今から貴艦隊は本活動中は第三艦隊司令指揮下に入ります。』
「かしこまりました。」
翌朝、艦隊は動き出した。その速度は私が乗っていた飛行機を越えていた。
「大日本及びムー大陸連合帝国海軍東方探査特別艦隊並びに―王国同艦隊支援艦隊全艦に達する。
ただ今を持って諸君は私の指揮下に入った。
私は―王国基軍近衛軍連合艦隊第二師団艦隊第一多次元水上外征艦隊 大日本及びムー大陸連合帝国海軍東方探査特別艦隊支援艦隊司令山本上将である。
ただ今を持って、艦隊全体を再編し、艦隊総司令部を、伊勢に。航空司令部を峰鶴に。砲戦司令部を会津に置き両艦長を各司令とする。」
私は内藤准将とともに峰鶴に戻り愛機に再会した。その変わり果てた姿に。
「プロペラがない。飛べるのか?」
「のってみるかい?」
私はこの言葉に促されて、祖国において初めて、噴進機に乗ったものとなった。




